【今日の1枚】Fruupp/Modern Masquerades(当世仮面舞踏会) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Fruupp/Modern Masquerades

フループ/当世仮面舞踏会

1975年リリース

卓越したポップセンスとファンタジックな

世界を描いたグループの最高傑作

 1973年に『Future Legends(知られざる伝説)』、1974年に『Seven Secrets(七不思議)』、1974年に『The Prince Of Heaven's Eyes(太陽の王子)』と続くフループの4枚目のアルバムにして最終作。その卓越したポップセンスとファンタジックな世界観を見事に構築した彼らの最高傑作であり、数少ない北アイルランドのプログレッシヴロックの名盤として数えられる1枚となっている。また、キング・クリムゾンを脱退したイアン・マクドナルドがプロデュースしたことでも有名な作品である。

 フループは1969年にヴィンセント・マッカスカーを中心に北アイルランドのベルファストで結成されたグループである。当時はブルース・ハイ・ファイヴというグループ名でR&Bやブルースを中心に演奏し、地元のパブやクラブでギグを重ね、ロンドンのシンガーソングライターであるキャット・スティーヴンスのアイルランド公演のバックを務めるなど活動していた。マッカスカーはイギリスで活動するためのメンバー探しにロンドンに渡っている。このマッカスカーのイギリス行きは、当時プログレッシヴ/サイケデリックといった音楽の最先端だった地で活動したいという願いだったが、納得したメンバーが見つからず帰国し、地元のベルファストでメンバーを集めたという経緯がある。メンバーがヴィンセント・マッカスカー(ギター、ヴォーカル)、ステファン・ヒューストン(キーボード、ヴォーカル、オーボエ)、ピーター・ファレリー(ベース、ヴォーカル)、マーティン・フォイ(ドラム)の4人でスタートした彼らは、ロリー・ギャラガーと共にデビューコンサートを行っている。1973年にはパイレコード傘下の新興レーベルのドーンと契約をし、デビューアルバム『Future Legends(知られざる伝説)』をリリースする。このアルバムから5人目のフループのメンバーと言われているポール・チャールズが、アルバムの物語性からモーチーフまで担当しており、ストーリーと合わせてストリングスとアンサンブルの融合を試みた斬新な作品として知られるようになる。1974年には『Seven Secrets(七不思議)』、『The Prince Of Heaven's Eyes(太陽の王子)』と立て続けにリリースし、叙情的でファンタジー性を加味したコンセプトアルバムが彼らのトレードマークとなる。そして3作のアルバムを経て円熟の域に達した彼らが1975年にリリースしたのが、本アルバム『Modern Masquerades(当世仮面舞踏会)』である。

 

 ジャケットのイラストはイギリスの画家であるジョン・エヴァレット・ミレー(1829~1896)が、1849年に描いた『Isabella(イザベラ)』の絵画をアレンジしたものである。その絵画を左右逆にし、それぞれの顔に仮面をかぶせた滑稽ともいえるイラストは、アルバムの世界観や物語性だけではなくサウンドにも強く表れている。本アルバムはイギリスやヨーロッパで精力的にライヴやコンサートを経て録音されたものだが、フループの叙情的なサウンドの一端を担っていたステファン・ヒューストンが録音前に脱退してしまう。彼はキリスト教の牧師になるためにグループを離れたが、ステファン・ヒューストンの幻想的なキーボードを好んだファンにとっては非常に悔やまれた。彼の代わりにジョン・メイソン(キーボード)が加わることになるが、何よりも本アルバムのサウンドで一番大きく影響する人物が関わったのは、キング・クリムゾンに在籍し、後にフォリナーの創設メンバーとなるイアン・マクドナルドをプロデューサーに迎えたことだろう。イアン・マクドナルドがアルバムを手がけることによって、これまでのフループの叙情的で牧歌的なサウンドをそのままに、より陰りのある英国的なアプローチを加味したポップなメロディが怒涛の如く押し寄せる内容に変化している。

 

★曲目★

01.Misty Morning Way(朝もやの小径)

02.Masquerading With Dawn(夜明けのマスカレイド)

03.Gormenghast(ゴーメンガースト)

04.Mystery Might(ミステリー・マイト)

05.Why(何故)

06.Janet Planet(ジャネットの惑星)

07.Sheba's Song(シェバの歌声)

 

 アルバムの1曲目の『朝もやの小径』は、ヴィンセント・マッカスカーが作曲した楽曲で、叙情的なギターとキーボードの絡みが美しいサウンドであり、イアン・マクドナルドの手によって深みのあるメロディになっている。2曲目の『夜明けのマスカレイド』は、マッカスカーのギターフレーズとモダンなピアノから始まるダイナミックな曲であり、少し陰のあるヴォーカルとマッチした非常に英国的なポップセンスあふれる名曲である。3曲目の『ゴーメンガースト』は新キーボディストのジョン・メイソンの手による曲であり、エレピを中心に全体的に優しく奏でられたジャズフュージョンに似たアンサンブルになっている。曲の後半ではイアン・マクドナルドがアルトサックスで参加しており、よりサウンドに温かみを増した聴きどころの多い曲である。4曲目の『ミステリー・マイト』は、力強い響きのメイソンのピアノの中で叙情的に歌い上げるヴォーカルがポイントの曲であり、間奏ではマーティン・フォイの多彩なリズムに合わせて様々な楽器が奏でられる複雑な構成を持ったサウンドである。5曲目の『何故』は、流麗なピアノソロをバックに何かに問いかけるような物悲しいヴォーカルが象徴的なバラード曲である。6曲目の『ジャネットの惑星』は、一転して明るいフレーズのピアノとヴォーカルを中心としたアンサンブルとなっており、英国ポップを彷彿とさせるメロディセンスが素晴らしい曲になっている。7曲目はマッカスカーの泣きのギターが随所に響き、途中でメイスンのエレピを中心としたジャズロックとなっている。後半では宇宙的な広がりのシンセサイザーとギターによる壮大なサウンドで幕を下ろしている。こうして聴いてみると、前作までは脱退したステファン・ヒューストンが楽曲のほとんどを作曲していたが、今回はギタリストであるヴィンセント・マッカスカーが作曲を主に担い、プロデューサーのイアン・マクドナルドのアレンジが最高に効いているといえる。繊細で滑らかな叙情性を重視し、ジャズロック的なニュアンスが加味されているのは、イアン・マクドナルドのプロデュース無しでは考えられない。また、アルバムを通してジョン・メイソンの流麗なピアノを軸にしているため、全体的にモダンでクラシカルなサウンドになっているだけではなく、マッカスカーの陰のあるヴォーカルに一役買っている点も大きいと思える。メンバーやプロデューサーが代わるだけで、こうもサウンドが大きく変わるものなのかと、つくづく感慨深いアルバムとなった作品とも言える。

 フループは本アルバムをリリースした後、キング・クリムゾンをサポートするツアーを行い、すぐに5枚目のアルバム『Doctor Wilde's Twilight Adventure』に取り組もうとするものの、パンク/ニューウェイヴの台頭によって売り上げは下降し、英国とヨーロッパ全体で年間数百のギグを演奏したにもかかわらず、グループは解散に追い込まれてしまう。本作はアイリッシュプログレからブリティッシュプログレに変貌した画期的なアルバムだが、プログレッシヴロックの中でも夢と幻想を描いた叙情派シンフォニックと呼ばれた彼らのサウンドは、現在でも決して色褪せることなく愛され続けている。

↑ジョン・エヴァレット・ミレー『Isabella(イザベラ)』(1849年)

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は前回、本ブログで紹介した『Seven Secrets(七不思議)』に続いて、フループの最高傑作と言われている『Modern Masquerades(当世仮面舞踏会)』を紹介しました。本アルバムは私にとって最初に聴いたフループの作品であり、ケストレルと共にブリティッシュ・レジェンド・コレクションのCDシリーズで手に入れた思い出深いアルバムでもあります。後で知ったのですが、本アルバムは日本で初めて紹介されたフループのアルバムであり、キング・クリムゾンやイエス、エマーソン・レイク&パーマー、ジェネシスといった耳の肥えたプログレファンから高い評価を得ていることです。やはりメロディが日本人好みというか、このアルバムで解散してしまうという哀愁的な情緒もあったんだと思いますが、妖精伝説や伝承物語といった英国以上のファンタジー性のアイデンティティを持った数少ない北アイルランド出身のグループだというところが注目されたのかも知れません。

 

 本アルバムのジャケットに描かれているのは、前述しているようにミレーの『イザベラ』の絵画をモチーフにしたイラストです。ジョン・キーツの詩「イザベラ、あるいはバジルの鉢」の「イザベラ」をミレーが絵画で表現したものですが、ジャケットでは左右反転して登場人物全てに仮面をかぶせたユニークなイラストになっています。ジョン・キーツの詩では「兄に殺された恋人の首をバジルの鉢に埋めて育てるイザベラ、しかしその鉢も取り上げられてしまい悲しみの果てに死んでしまう……」という切ないイザベラの恋のストーリーがあります。それを表現した絵画の人物に仮面をかぶせて左右反転させているのは一体何故なのか?というように中々想像を膨らませてくれます。ちなみに絵を描いたミレー自身が19世紀の中頃、印象派とならぶ象徴主義美術の先駆者であるラファエル前派の活動家だったそうです。ちなみにラファエル前派とは、19世紀の英国の若い画家のグループがルネッサンス期のアカデミックな様式から、ラファエル以前の絵画に返そうとした一大運動のことです。グループのファーストアルバムから楽曲の詩や世界観を担ったポール・チャールズが、ジョン・キーツやシェイクスピアに傾倒していたと言われていますが、もしかしたらフループもロック界のラファエル前派になろうとしたのかも知れませんね。そう考えると本作がリリースされた1975年の当時は、パンク/ニューウェイブの台頭という大きな音楽の変革がある中で、フループはフループなりに普遍的な音楽を追求していたのだろうと思います。

 

 とは言っても、フループの幻想的で英国的な情緒を兼ねそろえたサウンドはなかなか無いと思います。ぜひ、ジャケットのイラストを眺めつつ、彼らの残したファンタジーな世界を堪能してみてはいかがでしょうか。

 

それではまたっ!