【今日の1枚】Latte E Miele/Papillon(ラッテ・エ・ミエーレ/パピヨン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Latte E Miele/Papillon

ラッテ・エ・ミエーレ/パピヨン

1973年リリース

脱獄劇『パピヨン』を題材にした

イタリアン・キーボードトリオの名盤

 ダイナミックなシンセサイザーとギターによる組曲『パピヨン』を中心に、彼らの演奏テクニックとセンスが最大限に発揮されたラッテ・エ・ミエーレのセカンドアルバム。前作のデビューアルバム『受難劇』は、その名の通りキリストの受難をモチーフにした壮大なスケールのコンセプトアルバムだが、いかにもイタリアンプログレらしいクラシカルな構成からジャズロック的なアレンジまで展開した演奏となっている。このたった1枚のデビューアルバムで評判が一気に高まり、ロック・ミュージシャンでは異例ともいえるローマ法王の前で演奏するという快挙を成し遂げている。そのわずか1年足らずに発表された本アルバムは、映画にもなった脱獄劇『パピヨン』をモチーフにした作品である。前作よりもさらにクラシカル要素が増し、卓越した音楽センスと洗練された演奏テクニックで独自の世界観を構築したイタリアンプログレッシヴロックの名盤となっている。

 ラッテ・エ・ミエーレというグループは、1970年に地中海に面した歴史的な建造物や文化が色濃く残るジェノヴァという街で結成されている。メンバーはドラムスのアルフィオ・ヴィタンツァ、キーボーディストのオリヴィエロ・ラカーニーナ、ベーシストのマルチェロ・デッラカーザのトリオ編成であり、キーボーディストとベーシストの2人は非常に高度なテクニックを持ったマルチプレイヤーであり、ドラムスのアルフィオは当時16歳だったというから驚きである。彼らは英国のプログレッシヴロックの影響を強く受けており、主にエマーソン・レイク&パーマーに傾倒していたらしい。トリオ編成である理由や大胆にクラシック要素を取り入れ、畳み掛けるようなスリリングな演奏が、いかにもエマーソン・レイク&パーマーを思わせるところがあり、彼らがイタリアのEL&Pと呼ばれている所以でもある。そんな彼らの高度なテクニックと様々な音要素を取り入れ展開させたのが、デビューアルバムの『受難劇』である。聖書にあるキリストの受難を題材にした作品は数多くあるが、ラッテ・エ・ミエーレの作り出される新たな音楽性とダイナミックに構成されたサウンドは、前述の通りローマ法王の前で演奏されるほどセンセーショナルであったという。その作品をさらに一歩も二歩もクラシカル性とテクニック性を加味させたのが、1973年リリースの本アルバム『パピヨン』である。

 

★曲目★

1.Papillon(組曲パピヨン)

 a.Ouverture(序曲)

 b.Primo Quadro “La Fuga”(第一場 脱走)

 c.Secondo Quadro “Il Mercato”(第一場 市場にて)

 d.Terzo Quadro “L'incontro”(Rimani Nella Mia Vita)(第三場 出合い~束の間の自由)

 e.Quarto Quadro “L'arresto”(第四場 捕らわれの身)

 f.Quinto Quadro “Il Verdetto”(第五場 裁き)

 g.Sesto Quadro “La Trasformazione”(第六場 変貌)

 h.Settimo Quadro “Corri Nel Mondo”(第七場 自由の世界へ)

2.Divertimento(奇想曲)

3.Patetica(悲壮)

 a.Parte Prima(パート1)

   b.Parte Seconda(パート2)

   c.Parte Terza(パート3)

4.Strutture(ストラクチャー)

 

 本アルバムの題材になった『パピヨン』は、かつてスティーヴ・マックウィーンとダスティ・ホフマンという人気俳優によって映画化された脱獄劇であり、無実の罪ながら絶海の孤島につながれた男が脱獄を試みて成功する物語である。きっかけはメンバー3人が映画を基にした人形劇を見たことで想像を膨らませたというが、映画ではなく人形劇というのが面白い。前作の音楽性とは大きく違いは無いものの、随所にオーケストレイションを組み入れ、荘厳でダイナミックな展開になっている。1曲目の『組曲パピヨン』は8つの楽章からなる20分を越える大作であり、序曲からホルンをフィーチャーしたシンセサイザーやメロトロンが展開する曲になっている。このオープニングでEL&Pを彷彿するような演奏に思わず息を飲んでしまうほどテクニカルである。そして素朴なヴォーカルとアコースティックギターが間に入り、チャーチ風のオルガン、ジャズ的なピアノの即興など巡るましく展開する音の流れは、高度なテクニックに裏打ちされた高いセンスにとどまらず、ロマンティズムすら感じられる。とにかくサウンドに無駄が無く、洗練された楽曲に仕上がっているのが素晴らしいとしか言いようが無いほどである。2曲目の『奇想曲』は典型的なジャズの演奏の中にバロック調のエッセンスが込められたインストゥメンタル曲であり、彼らの巧みな演奏が堪能できる。3曲目の『悲壮』は3つのパートからなる曲で、クラシックピアノのソロからスタートし、ピアノを中心としたジャズロックに展開する。ヴィヴァルディの『四季』やベートーベンの『悲愴』が大胆に取り入れられ、高いテンションのアンサンブルが縦横無尽に編み上げられていく。室内楽風の弦楽奏、ソロを取るヴァイオリン、ドラムソロなど、彼ら独自のシンフォニック・ロックの世界を構築しており、パート3では瑞々しいアコースティックギターとメロトロンによる美しいメロディ上で叙情的に歌い上げるヴォーカルは必聴である。最後の曲の『ストラクチャー』は、ジャズ風のギターを中心としたアンサンブルになっており、後半は12弦ギターとピアノとのスリリングな絡みが聴きどころである。こうしてアルバムを通して聴いてみると、キーボードやメロトロンという楽器が描き出す悠然とした響きだけではなく、アコースティックギターやピアノ、ヴァイオリンといったベーシックな楽器を軸に構成しているのが分かる。ロックやジャズを巧みに取り入れた高度なテクニックの演奏を可能にしているのは、彼らがクラシック音楽の基礎をしっかり学んでいるからに他は無い。トリオという制約の中でここまで高い水準の音楽性を見い出せるグループはそうそう無いと思われる。

 本アルバムをリリースしたラッテ・エ・ミエーレは、1974年に解散してしまう。詳しい理由は定かではないが、メンバーそれぞれが本アルバムをひと区切りにして違う道を歩くことになったのだと思われる。後にドラマーのアルフィオ・ヴィタンツァを中心に再編成されてラッテ・ミエーレと名乗り、サードアルバム『鷲と栗鼠』は本アルバムから3年近く経った1976年にリリースされている。そのアルバムにはドラマーのアルフィオ・ヴィタンツァ以外のかつてのメンバーの名は無く、新たにベーシストとキーボード2人を加入させた4人組となっている。『鷲と栗鼠』は23分の組曲『パヴァーナ』という壮大な楽曲を収録した意欲作だが、ややプログレッシヴ色が薄くなりポップなサウンドに変化している。それでもメロディと卓越したテクニックはアルバムの随所に発揮されており、『鷲と栗鼠』もグループの傑作の1枚として数えられている。その後、4枚目のアルバムのレコーディングも終えていたが、レコード会社の倒産という憂き目に遭い、グループは再度1980年に解散してしまう。4枚目のアルバムが陽の目に当たったのは1992年である。決して恵まれたグループとは言えないが、ローマ法王の前で演奏した実力は本物であり、イタリアンプログレッシヴロックの記憶に残る名盤であることは間違いは無い。

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアンプログレの至宝であるラッテ・エ・ミエーレの『パピヨン』を紹介しました。本作は数あるイタリアンプログレの中でも個人的によく聴いていて、現在でもスマホの中に入れているほど大好きなアルバムです。前作の『受難劇』も聴いたのですが、あまりにも壮大過ぎて散漫になってしまった感がありますが、本アルバムはクラシカルなキーボードによるロックやオーケストラを大きく取り入れながら、緩急のある構成力を魅せつけた作品となっています。また、壮大なバラードにおける管弦セクションのクラシカルな彩りや室内楽風のアンサンブル、ソロを取るアコースティックギターやヴァイオリンなど、シンフォニックロックとしても一級品です。とはいっても自慢げにテクニックを披露しているわけでもなく、ホントにベーシックな楽器の演奏を巧みに活用しているのが素晴らしいです。確かに彼らの格調高いサウンドと演奏は聴きどころですが、私個人としてはイタリアらしい素朴で牧歌的で哀愁帯びたヴォーカルとメロディーにあると思います。曲の間奏に入るヴォーカルを聴いていると、ものすごく胸に来るものがあります。それだけ胸を打つ彼らのメロディのセンスも一級品であると言わざるを得ません。

 

 さてラッテ・エ・ミエーレは、ドラマーのアルフィオ・ヴィタンツァが最後までグループの中心となって活動しつつも、惜しくも1980年に解散してしまいます。解散後の彼らの活動は不明ですが、やはり転機となったのは1990年代に入ってCD化の普及によるものが大きいです。彼らの作品に触れる機会が増えることで、1970年代に埋もれつつあったロック・アーティストが再結成してライヴ活動やアルバムのリリースを行うことが多くなります。ラッテ・エ・ミエーレもその中のグループの1つであり、再結成は2008年と間は開きましたが、アルフィオ・ヴィタンツァ、オリヴィエロ・ラカーニーナ、マルチェロ・デッラカーザの元のラインナップのメンバーがそろって、33年ぶりのアルバム『マルコ・ポーロ』をリリースしています。『受難劇』や『パピヨン』といったかつての名盤を彷彿とさせる優雅な音世界になっているので、こちらも必聴ですよ!

 

それではまたっ!