【今日の1枚】Akritas/Akritas(アクリタス/太古の記憶) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Akritas/Akritas

アクリタス/太古の記憶

1973年リリース

チャーチオルガン、アコースティックピアノの響きが美しい

ギリシャを代表するアクリタスの唯一作

 中世ギリシャの英雄叙事詩から名をとったと思われるアクリタスのデビューアルバムにして唯一作。オザンナの呪術性とエマーソン・レイク&パーマーのテクニカルなシンフォニック性、そして謎めいたサイケデリック要素をミックスしたような独特なサウンドは、後にドイツと日本で高い評価を得て、ギリシャ・プログレッシヴロックを代表する1枚として数えられている。なお、ギリシャ語ではAKPITA∑と表記されている。

 ギリシャのロックグループといえば、1960年代後半に結成されたアフロディテス・チャイルドがある。彼らはアルバム『It's Five O'Clock』で世界的に知られるグループとなり、ギリシャのロックグループとして重要な存在となる。彼らの成功から次々と新進気鋭のグループが誕生し、ギリシャのフォーク音楽とロックを組み合わせたディオニュソス・サヴォポロスや1970年代に入ると、ギリシャロックのパイオニア的存在となるコスタス・トルナスが登場する。コスタス・トルナスはイタリアのカンタウトーレを彷彿させるヴォーカルで有名なミュージシャンで、ギリシャ語のコーラスをフィーチャーしたフォークグループであるPOLLに在籍していたという。コスタス・トルナスはPOLLの創設者であるロバート・ウイリアムズ(ギター、ヴォーカル)、スタヴロス・ロガリデス(ベース・ヴォーカル)と共にロックシーンを先導していくことになる。しかし、1972年末にコスタス・トルナスとロバート・ウイリアムズの2人が、デッサロンキ・ソング・コンテストに参加することにより解散してしまう。当時、ギリシャは軍政下にあり、政権に反対していたスタヴロス・ロガリデスが、ギリシャが主催するイベントに対して不参加を決めていたからである。残ったスタヴロス・ロガリデスは、ロンドンでアフロディテス・チャイルドの『666』の歌詞を担ったコスタス・フェリスと出会うことになる。彼との出会いはスタヴロスの創造力に火をつけ、いくつかのテーマからニコス・カザンツァキスのエッセイ「The Saviors Of God:Spiritual Exercises』と、そこに登場する人物、アクリタス守備隊長をモチーフにしたアルバムを作ることになる。彼はこのテーマを取り扱うためのメンバーを募るためギリシャに戻り、アリス・タスリス(キーボード)、ジョルゴス・ツパキス(ドラムス)、スタヴロスの幼なじみであるディモス・パパクリストゥ(ギター)が集まり、1973年初頭にアクタリスが結成される。グループは精力的に作曲、リハーサル、録音を行い、最初にシングル『The Pen/The First Drop Of My Life』をリリースして高評価を得たことをきっかけに、デビューアルバムとなる『Akritas』が1973年末にリリースされる。

 

★曲目★※表記は英語/日本語にしています。

01.Inverder(侵略者)

02.Genesis(創世記)

03.The Family(ある一族)

04.Memory(記憶)

05.Return(回帰)

06.Love(愛)

07.Ego(自我)

08.Song(歌)

09.The Festival(饗宴)

10.The Miracle(奇跡)

11.The Dream(夢)

12.Look Both Horse And Green(馬と草原を見よ)

13.Conquest&Z Force(征服と特殊部隊Z)

 

 アルバムはスタヴロス・ロガリデスとアリス・タスリスの2人が作曲を手がけ、アレンジはグループ全員が行っている。1曲目の『侵略者』は、エマーソン・レイク&パーマーと思わせるクラシカルなキーボードとサイケデリックなギター・ソロを中心とした楽曲で、2曲目の『創世記』は、スタヴロスのヴォーカルが呪術的であり、混沌とした世界に誘ってくれる。3曲目の『ある一族』は、一転して明るいアコースティックギターに乗せた軽快なナンバーで、ややサイケデリックワールドが展開される。4曲目の『記憶』はオルガンとピアノを交えたソロになっており、最初は端正な響きから次第に狂気帯びてくる。5曲目の『回帰』は前曲からオルガンが続くが、リズムセクションが加わってヘヴィーなプログレに変貌していくのが面白い。後半は重いベースと手数の多いドラムによるテクニカルな演奏は聴きどころである。6曲目の『愛』はスローテンポのチェンバロ風のオルガンパートから、メロウなピアノソロのヴォーカルを経てサイケデリックに変化していくという巡るましい展開のある楽曲である。7曲目の『自我』はアリス・タスリスによる静寂なピアノソロに乗せたスタヴロスのヴォーカル曲であり、8曲目の『歌』は、軽快でクラシカルなピアノに転じて、ギター、シンセサイザーのリードが素晴らしい楽曲になっている。9曲目『饗宴』はスピーディーで手数の多いドラミングとピアノを中心とした楽曲で、ギリシャ祭りをイメージしたものだと思われる。10曲目の『奇跡』はエフェクトをかけたヴォーカルとアコースティックなギターによるしっとりとした曲で、アルバムの中でも最も叙情的なサウンドになっている。11曲目の『夢』は、エーゲ海を思わせるトラッド的な音階を用いたエキゾチックな楽曲になっており、最初は土着的なドラムと南国的なギターによる心地よいサウンドから次第に混沌としていく。12曲目の『馬と草原を見よ』は、ピアノのソロから尻上がり調にアンサンブルに変わっていく楽曲であり、最後の曲『征服と特殊部隊Z』は、アコースティックギターとサイケデリックな音宇宙を絡めた内容になっており、アルバムのジャケットのイメージを彷彿とさせている。こうしてアルバムを聴いてみると、1曲1曲は3分前後の短い曲ばかりだが、内容は濃密であり、とくにピアノとシンセサイザーの合わせ技は素晴らしいと思える。

 こうしてアルバムはリリースしたものの、ギリシャ本国では成功はしなかったという。理由は同時期にアテネ工科大学でデモと流血の弾圧が起こったために国内の情勢が良くなかったことが考えられる。後に日本とドイツで高い評価を得られて、ギリシャ・プログレッシヴロックの代表する1枚として君臨するが、グループはまともな活動も出来ずにたった1枚のアルバムを残して解散することになる。ちなみにスタヴロス・ロガリデスは後にソロアーティストとなり、10枚以上アルバムをリリースし、ギリシャ国内ではロックミュージシャンの重鎮となっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はギリシャのプログレッシヴロックグループ、アクリタスの唯一のアルバムを紹介しました。ギリシャといえば、アフロディテス・チャイルドが有名ですが、彼らのギリシャのロックグループに影響を与え、重要な役割を果たした功績は大きいですね。プログレッシヴグループとして名盤である『666』を生み出しただけではなく、デミス・ルソスとヴァンゲリス・パパサナショウという2人のミュージシャンを輩出しています。それが後にヴァンゲリスというグループを生み出し、映画『炎のランナー』のサウンドトラックを担うことはすでに知られています。

 

 アクリタスというグループは今回、紙ジャケで初めて聴きました。というよりギリシャのプログレグループにこんな素晴らしいグループがあったんだと逆に驚いて、最近自分の中でギリシャブームになっていて、現在掘り起こし中です。アクタリスは初っ端からエマーソン・レイク&パーマーを意識したと思われるシンセサイザーから始まったのを聴いて結構驚いたのですが、チャーチオルガンやリリカルなピアノ、ジャジーなギター、そして何よりもサイケデリックな音空間など、ギリシャのロックシーンならではの土壌から生み出されたサウンドが新鮮です。また、海を挟んだイタリアに近いこともあって、一部オザンナっぽいヴォーカルも聴き取れますね。とにかくアルバムの完成度は非常に高くて、入手して非常に満足しています。

 

 さて、グループ名でありテーマとなっているアクリタスとはどんな人物かというと、正式名称はディゲニス・アクリタスであり、中世ギリシア英雄叙事詩に登場する人物です。ただし彼が登場するのは第2部です。第2部はアラブのアミールとギリシア人軍司令官の娘との間に生まれたディゲニス・アクリタス国境守備隊長を主人公とした物語であり、恋をはじめとした冒険談や武勇伝、ユーフラテス河畔でのビザンティン皇帝との謁見や御殿の建築、そして英雄の死などから成りたった、まさにロマンティズムあふれる内容になっているそうです。つまり、アルバムの曲目はディゲニス・アクリタス国境守備隊長の人生そのものを曲にしていると考えられます。最後の曲のタイトルにある『特殊部隊Z』がいったい何者なのかが気になりますが。(´・ω・`)

 

それではまたっ!