【今日の1枚】Ethos/Ardour(熱情) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Ethos/Ardour

イーソス/アーダー(熱情)

1975年リリース

幅広い音楽のエッセンスを凝縮させた

イーソスのデビューアルバム

 アルバムのジャケットアートワークそのままの幻想的で美しいサウンドに満ちあふれた、アメリカが生んだイーソスのデビューアルバム。イエスやジェネシス、キング・クリムゾンといったブリティッシュ・プログレッシヴロックの影響を受けたと思われる素晴らしい楽曲であるにも関わらず、キャピトルというメジャーレーベルと契約しつつも、なぜか国内で発表を見送られたグループである。しかし、アメリカという土壌で生まれたとは思えない緻密な構成力と複雑なリズムによる幅広い音楽のエッセンスを凝縮させたサウンドは、プログレファンにとって衝撃を与えたアルバムとして現在でもその価値は高まりつつある。

 イーソスはアメリカのインディアナ州で1972年に結成されたグループであると噂されている。噂されているという表現になったのは、彼らの結成に至るまでの経緯やアルバムの制作プロセスが不明で、ほとんど謎に包まれたグループだからである。ただし、大手エージェントであるATIがツアーのブッキングを手掛けるなど、かなり周囲の期待度が高かったグループだったらしい。本アルバムがリリースされた後の1976年から1977年にかけて、あのKISSの全米ツアーのオープニング・アクトに起用されていることから、結成後は主に他のグループの前座やライヴを中心に活動していたと思われる。メンバーはソングライターであるウィル・シャープ(ギター、ヴォーカル)を中心に、マーク・リチャーズ(ドラム)、ブラッド・ステファンソン(ベース)、L.ダンカン・ハモンド(キーボード)、マイケル・ポンゼック(キーボード)の5人編成である。注目すべきはツインキーボードとウィル・シャープのダブルネックギターであろう。インストゥメンタル・パートに比重を置いたサウンドになっており、メロトロンをフィーチャーした壮大なシンフォニックを主軸にしつつ、ジャズの要素を加味したアンサンブルやジェネシスのような複雑なリズムによる緻密な楽曲構成が最大の魅力となっている。

 

★曲目★

1.Intrepid Traveller(勇猛な旅人)
2.Space Brothers(スペース・ブラザーズ)
3.Everyman(エヴリマン)
4.Atlanteans(アトランティーアンス)
5.The Spirit Of Music(ミュージック魂)
6.Long Dancer(ロング・ダンサー)
7.The Dimension Man(ディメンション・マン)
8.E'mocean(イ・モーシャン)

 

 アルバムの1曲目の『勇猛な旅人』は、強めのパーカッションを中心にしたギターカッティングとメロトロンから始まるナンバー。中間部のリリカルなピアノとヴォーカルのバックで響く抒情的なギターとシンセサイザーが美しく、浮遊感のある演出に聴き手を引き込んでくれる。2曲目の『スペース・ブラザーズ』は、しっとりしたコーラスとギターを中心としたヴォーカル曲。中間部からジェネシスばりの複雑なリズムの起伏によるキーボードが展開する内容になっている。3曲目の『エヴリマン』は、全体的にコミカルな曲だが、インストゥメンタルのパートではアコースティックな雰囲気の中で緩急をつけた曲展開が非常に面白い。キング・クリムゾンのようなメロトロンの使い方があり、彼らのテクニカルな演奏が堪能できる楽曲である。4曲目の『アトランティーアンス』は、波の音から伸びやかなヴォーカルと美しいメロトロンにあふれた曲になっており、後半はジャズっぽいギターとシンセサイザーを中心としたユニゾンから、ハードなアンサンブルに展開していく静と動を表した良曲である。5曲目の『ミュージック魂』は、タイトでありながら変拍子なリズムと力強いヴォーカルが不思議な感覚にしてくれる曲であり、イーソスのポップセンスがあふれたメロディアスなナンバーになっている。6曲目の『ロング・ダンサー』は、清々しいヴォーカルと疾走感のあるキーボードを中心とした様々な楽器が入り組んだ曲であり、独特な感性とアレンジが効いた内容になっている。7曲目の『ディメンション・マン』は、強めのドラミングとギター、シンセサイザーを駆使した緩急のある展開が聴き所の曲であり、キング・クリムゾンを彷彿とさせるようなサウンドが随所に見え隠れするナンバーになっている。8曲目の『イ・モーシャン』は、波の音とカモメの鳴き声から始まり、ウィル・シャープの優しく伸びやかに歌い上げるヴォーカルと美しく奏でる12弦ギター、そして静かに響くシンセサイザーが心地よいメロディアスな曲となっている。こうして聴いてみると、サウンド面ではジェネシスやイエス、キング・クリムゾンといった楽曲や手法を用いたと思われる部分もあるが、メロトロンを中心としたツインキーボードの使い方が巧みであり、ヨーロッパ人の感性に酷似したイーソスならではの美の追求が感じられる。どの曲も繊細さと大胆さが入り交じりながらも独特のセンスとアレンジで作り上げており、かなり完成度の高いアルバムと言っても過言ではないだろう。

 イーソスは本アルバムのリリース後、キーボーディストのL.ダンカン・ハモンドが脱退し、4人編成となって1977年にセカンドアルバム『Open Up』を発表するが、結局、この2枚のアルバムで解散してしまう。セカンドアルバムのプロデューサーには、ビリージョエルの『ピアノマン』や『ストリートライフ・セレナーデ』を手掛けたマイケル・スチュワートが担当するものの、アルバムの内容がポップ寄りになってしまい、本アルバムのようなプログレサウンドを期待したファンは失望したという。イーソスがファンにとって、カンサスやスターキャッスルと比肩するほどのアメリカン・プログレッシヴロックの代表格と言われているのは、アメリカのグループでもセンスと実力でヨーロッパのグループに対抗し得るということが、本アルバムを聴いて強く感じたからに違いない。それほど彼らの創り出すサウンドに対する“熱情”が、ひとつひとつの楽曲に込められている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんはです。今回はアメリカン・プログレッシヴロックの隠れた名盤と言われているイーソスの『Ardour(熱情)』を紹介しました。このアルバムを初めて手に取ったのは、確か1993年頃の伊藤政則コレクションのシリーズの中の1枚でして、ほかにフォレストやベーブ・ルースという初めて知ったグループもありました。イーソスは個人的に当たりと感じたグループで当時はよくCDをかけて聴いたものです。とくに複雑なリズムと緻密な構成で展開する独特なサウンドの中で、メロトロンの使い方が効果的です。シンフォニックな展開かと思いきやジャズの要素を加味したナンバーもあり、幅広い音楽のエッセンスを凝縮させながら、オリジナリティあふれるサウンドを構築している点が何より素晴らしいと感じています。

 

 アルバムジャケットの裏には、バンド名のETHOS(気品)、アルバムタイトルのARDOUR(熱情)から想像できる極めて重要な内容がメンバーの言葉で説明されています。

 

   「誰もが認める芸術作品の本質、

     すなわちアーティストが自分の

       創造物に注ぐ至上の情熱……」

 

 イーソスのサウンドは確かに往年のブリティッシュ・プログレッシヴロックのグループから影響を受けて自分たちなりに表現しているグループですが、この言葉には彼らの純粋すぎるヨーロッパ的な伝統と歴史、精神性が込められていると思います。再度アルバムを聴いてみると、イエスやキング・クリムゾン、ジェネシス、ジェントル・ジャイアント、さらにはジェスロ・タルもあるかな~と思うくらいの楽曲やフレーズが随所に聴き取れますが、彼らのアレンジには他のグループに対しての敬意が感じられます。ポップな作風から逃げることなく、彼らなりにヨーロッパに寄せた美の追求の執念は大したものです。聴いたことのない人はぜひ、彼らの高いセンスの楽曲を堪能してみてくださいなっ!

 

それではまたっ!