【今日の1枚】Focus/FocusⅢ(フォーカスⅢ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Focus/FocusⅢ

フォーカス/フォーカスⅢ

1972年リリース

世界にその名を轟かせた

オランダが誇るフォーカスのサードアルバム

 プログレッシヴロックやハードロックをはじめとするイギリスの最先端の音楽シーンの中、外国勢でもっとも成功したロックグループと評されたフォーカス。前アルバム『ムーヴィング・ウェイブス』のシングル『ホーカス・ポーカス(悪魔の呪文)』が欧米各国で大ヒットし、フォーカスが絶頂期に制作されたのが本アルバムである。次回作の伝説となったライヴアルバム『フォーカス・アット・ザ・レインボー』と合わせて、フォーカスを語る上で欠かせない歴史的な名盤でもある。

 フォーカスはリーダーであり、オルガンとフルート、ヴォーカルを担当するタイス・ヴァン・レアと、独学ながらも天才的なピッキングで高い評価を得ているギタリスト、ヤン・アッカーマンの2人の存在を無くしては語れない。タイス・ヴァン・レアは両親がクラシック・ミュージシャンだった影響から、14歳から音楽専門学校でフルートやピアノ、作曲を学んでいる。進学したアムステルダム大学では美術史を専攻して音楽から遠ざかっていたが、働いていたキャバレーでピアノやフルート、ヴォーカルを演奏する機会を得て再度音楽の道に進んでいる。その時のグループ名がトリオ・タイス・ヴァン・レアと自らの名前を冠したもので、メンバーはタイス・ヴァン・レア(フルート、ピアノ)、マーティン・ドレスデン(ベース)、ハンス・クルーヴァー(ドラム)である。そのサウンドはイギリスのグループ、トラフィックの影響から様々なジャンルとロックを融合させた演奏で、一定の評価があったもののレコード契約には至らなかったという。そんな中、新たな展開を求めていたベーシストのマーティン・ドレスデンが音楽出版社と話し合いの中で引き合わせてくれたのが、ギタリストのヤン・アッカーマンだった。一方のヤン・アッカーマンは、7歳の頃から中古のギターを手に入れ、独学でロック、ジャズ、フォーク、クラシックのギターテクニックと理論をマスターしていたミュージシャンである。22歳の時にBRAINBOXというグループを結成し、主にジャズやクラシック、フォークといった様々な要素からなるサウンドにオランダで話題を呼び、オランダのレコード会社のインペリアルから『ブレインボックス』というアルバムを出している。音楽出版社と話し合いの中で紹介されたヤン・アッカーマンはタイス・ヴァン・レアと意気投合し、BRAINBOXを脱退してトリオ・タイス・ヴァン・レアに加入している。最初の仕事であるミュージカル『HAIR』のオランダ版の音楽担当とアルバム制作をきっかけに、グループ名を“FOCUS”と変えている。

 

 1970年にはデビューアルバム『FOCUS PLAYS FOCUS』をリリースするが商業的には成功しなかったものの、今度は新たにレコーディングした『House Of The King』はTV番組で使用され、ヨーロッパで大ヒットすることになる。この大ヒットナンバーを収録した再発デビューアルバム『In And Out Of Focus』は、オランダだけではなくヨーロッパ中で注目されることになる。しかし、マーティン・ドレスデン(ベース)、ハンス・クルーヴァー(ドラム)が脱退し、後任としてBRAINBOXに在籍していたピエール・ヴァン・ダー・リンデン(ドラム)と、BIG WHEELというグループに在籍していたシリル・ヘイヴァーマンズ(ベース)が加入。そこへフリートウッド・マックやジョン・メイオールを手がけたプロデューサーのマイク・ヴァーノンの目に留まり、イギリスの“Blue Horizon”というレーベルと契約し、セカンドアルバム『ムーヴィング・ウェイブス(オランダ盤ではFOCUSⅡ)』がリリースされる。シングル『ホーカス・ポーカス(悪魔の呪文)』が全英チャート2位にランクインするなど欧米で大ヒットし、アルバムは全英チャート最高2位、全米チャート最高8位という驚異的な人気に躍り上がり、フォーカスの名は世界中にとどろくことになる。

 

★曲目★

01.Round Goes the Gossip(ラウンド・ゴーズ・ザ・ゴシップ)

02.Love Remembered(ラヴ・リメンバー)

03.Sylvia(シルヴィア)

04.Carnival Fugue(カーニヴァル・フーガ)

05.Focus III(フォーカスⅢ)

06.Answers? Questions! Questions? Answers!(アンサーズ?クエッションズ!クエッションズ?アンサーズ!)

07.Anonymous Two(アノニマスⅡ)

08.Elspeth of Nottingham(エルベス・オブ・ノッティンガム)

09.House Of The King(ハウス・オブ・ザ・キング)

 

 本アルバム『FOCUSⅢ』は、ベーシストのシリル・ヘイヴァーマンズが脱退し、セッションベーシストだったバート・ルイターが加入した変化があったものの、再度プロデューサーのマイク・ヴァーノンの手で制作されたものである。タイトなリズムを得意とする典型的なプレイヤータイプのバート・ルイターが加入したことで、フォーカスのポップな楽曲からテクニカルな高度なプレイを軽々と決めるスタイルに変化し、メンバー4人の音楽の方向性が初めて一致した作品となっている。その特色が伺えるのがアルバム1曲目の『ラウンド・ゴーズ・ザ・ゴシップ』だろう。引き締まったリズム上でタイス・ヴァン・レアのオルガンとヤン・アッカーマンのギターの交互に畳み掛けるようなパートは圧巻といっても良いほど構築度の高い曲になっている。2曲目の『ラヴ・リメンバード』は、打って変わって透明感あふれるアコースティックギターとフルートが織り成す美しい曲で、古典的でありながらも彼らの音楽の幅広さを痛感させられるナンバーだ。3曲目の『シルヴィア』は、ノスタルジックな曲風でありながら最高のメロディでまとめられた名曲で、『ホーカス・ポーカス(悪魔の呪文)』に並ぶ、フォーカスの代表曲になっている。4曲目の『カーニヴァル・フーガ』は、タイス・ヴァン・レアのバッハ風のピアノと、ギターやドラムの変拍子が絡む組曲風に展開する曲になっている。タイトル曲でもある5曲目の『フォーカスⅢ』は、ファーストアルバムの収録曲の続編であり、タイス・ヴァン・レアのしっとりしたクラシカルなオルガンをベースに、リリカルなヤン・アッカーマンのギターが何とも美しい曲であり、知性すら感じられる名曲である。6曲目の『アンサーズ?クエッションズ!クエッションズ?アンサーズ!』だが、今度はヤン・アッカーマンのギターをベースに、コンビネーションにあふれるオルガンやベース共に弾きまくっているのが印象的なナンバー。7曲目の『アノニマスⅡ』は26分に及ぶ大曲であり、ルネッサンス的なクラシカルなフレーズから巧みにギターとフルートがアグレッシヴに鳴り響くフォーカスならでは演奏が聴ける。各メンバーのソロパートがあり、特に中盤から後半のかけてのヤン・アッカーマンの隙の無い速弾きのギターは必聴である。8曲目の『エルベス・オブ・ノッティンガム』は、リュートを大胆に取り入れた古典的な楽曲であり、フルートとの絡みがノスタルジックに浸れる美しいナンバーである。9曲目の『ハウス・オブ・キング』は、ヤン・アッカーマンの正確無比なアコースティックギターとタイス・ヴァン・レアのフルートが織り成す曲で、短いながらもレベルの高い演奏を聴かせてくれる。こうしてアルバムを聴いてみると、それぞれの演奏のテクニックが飛躍的にアップしているだけではなく、楽曲のセンスがとにかく素晴らしい。多彩なジャンルのフレーズをうまく曲の中に取り入れ、持ち前のテクニックで華麗に消化させている点からしても、本アルバムが最高傑作と呼ばれている理由なのだろう。

 テクニカルな側面を極めた本アルバムは、再び各国で絶賛され、全英アルバムチャート6位、全米アルバムチャート35位にランクインし、シングルカットされた『シルヴィア』は、全英チャート4位という記録となっている。フォーカスはメロディ・メーカー紙で1973年度の「ベスト・インターナショナル・ホープ」を受賞し、ヤン・アッカーマンはギタリスト部門のリーダーズ・ポールを受賞し、ニュー・ミュージカル・エクスプレス紙では「ザ・ホッテスト・バンド」に選ばれるという輝かしい実績を収めることになる。しかし、売れすぎたグループの宿命か、高度なテクニックを模索するドラマーのピエール・ヴァン・ダー・リンデンが、コマーシャル的な演奏を目指そうとするベーシストのバート・ルイターに反発し、フォーカス初のライヴアルバム『アット・ザ・レインボー』を最後に脱退してしまう。その結果、新たにコリン・アレンというドラマーを加入して制作された6枚目のアルバム『マザー・フォーカス』は、まさにコマーシャル的な内容になり、グループの今後を左右する問題作となったという。結局ベーシストのバート・ルイターは脱退し、さらにヤン・アッカーマンもグループを去ることになる。1977年には新体制でリリースされたアルバム『Focus Con Proby(美の魔術)』を最後に解散してしまうが、1985年にタイス・ヴァン・レアとヤン・アッカーマンが再度フォーカスを結成してアルバムを制作。さらに1990年にはTV番組の企画でタイス・ヴァン・レアとヤン・アッカーマン、ピエール・ヴァン・ダー・リンデン、バート・ルイターのベストメンバーで一時的に再結集し、往年の名曲を演奏している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はオランダ屈指のロックグループ、フォーカスから傑作と名高いサードアルバム『FOCUSⅢ』を紹介しました。フォーカスは個人的に趣味と化して聴いているプログレッシヴロックの中でも、『ムーヴィング・ウェイヴス』、『フォーカス・アット・ザ・レインボー』と共に長らく愛聴しているグループのひとつです。この3枚のアルバムはタイス・ヴァン・レアのクラシカルで気品あるオルガンと、ヤン・アッカーマンのジャズテイストでありながら独特な奏法のギターが素晴らしく、クラシックとジャズの融合を持ち前のメロディセンスとテクニックで見事に聴かせてくれるアルバムだと思います。フォーカスのアルバムは、今でもスマホに入れてずっと聴いていますが、相変わらず高い彼らの演奏パフォーマンスに感動しっぱなしです。1曲目の『ラウンド・ゴーズ・ザ・ゴシップ』は、テクニカルなオルガンとギターのせめぎ合いに圧倒され、3曲目の『シルヴィア』はロック史に残る名曲だと思います。7曲目の『アノニマスⅡ』は彼らがプログレッシヴロックグループであると思わせるほどの大曲になっていて、どの曲も各メンバーの演奏技術を遺憾なく発揮しています。

 

 さて、オランダといえばトレースやアース&ファイアー、フィンチなどテクニカルなプログレグループが多いのですが、それぞれのグループが、フォーカスから多かれ少なかれ影響していることが分かります。脱退したドラマーのピエール・ヴァン・ダー・リンデンは、ヨーロッパ屈指のキーボードトリオのトレースのファーストアルバムに貢献します。トレースはエクセプションというグループから派生したグループで、天才キーボードプレイヤー、リック・ヴァン・ダー・リンデンが率いるグループです。ちなみに名前から分かるとおり、ピエールは、そのグループのキーボードプレイヤー、リック・ヴァン・ダー・リンデンの従兄弟にあたります。また同じく脱退したベーシストのバート・ルイターは、後期のアース&ファイアーに加入し、グループを支える存在となります。さらにはフィンチのギタリスト、ヨープ・ヴァン・ニムヴェーゲンは、フォーカスのヤン・アッカーマンをかなりリスペクトしていたと語っています。1970年代に出現し、欧米で一斉風靡したフォーカスは、今なお伝説のグループとしてオランダで高い人気を誇っています。

 

 フォーカスは個人的に思い入れのあるアルバムが多いです。機会があればどこかで紹介したいなと考えています。

 

それではまたっ!