【今日の1枚】P.F.M./Photos Of Ghosts(幻の映像) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Premiata Forneria Marconi/Photos Of Ghosts

プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ/幻の映像

1973年リリース

イタリアが生んだ最高峰の

プログレグループの世界デビューアルバム

 世界遺産的な名曲、名演が散りばめられたイタリアのプログレッシヴロックグループ、プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ(以下、P.F.M.)が1973年リリースした歴史的名盤。彼らが登場しなければ、世界にイタリアンロックの人気は無かっただろうと言われるほど、本アルバムは衝撃的であり、センセーショナルな作品である。また、エマーソン・レイク&パーマーのグレッグ・レイクが設立したマンティコア・レーベルからリリースされた契約第1号のアーティストであり、世界的に注目されたアルバムである。

 P.F.M.の前身は学生時代に組んでいたグループ、ブラック・デビルズが母体となっている。メンバーはフランツ・ディ・チョッチョ(ドラム)、ピーノ・ファヴァローロ(リズムギター、ヴォーカル)、トニー・ジェスアルディ(ベース)、アウグスト・ロ・バッソ(サックス)であり、1964年にイタリアの歌手であるジャン・ピエレッティからバックバンドの依頼を受けるところからプロの活動を始める。その時、グループ名をジャン・ピエレッティ&ザ・グリフォーニと変えて、リードギターにフランコ・ムッシーダを加入している。歌手であるジャン・ピエレッティは、当時流行していたビートスタイルのポップシンガーで数多くのヒット曲を出しており、バックバンドのザ・グリフォーニの知名度も少しずつアップしていくことになる。オリジナル志向を強めていた彼らは、やがてグループ名をイ・クエッリと改名して、サックスのアウグスト・ロ・バッソを抜いた4人でジャン・ピエレッティから独立をする。イ・クエッリは1966年に『Via Con Il Vento(風と共に去りぬ)』でデビューを果たし、シングルを出すかたわら、多くのイタリアのアーティストと共に演奏している。しかし、その間にベーシストのトニー・ジェスアルディとギタリストのフランコ・ムッシーダが兵役で抜け、1969年にはオリジナルギタリストだったピーノ・ファヴァローロが脱退するなど、イ・クエッリにとって最大の試練を迎えるが、この機に弱冠17歳のキーボーディストであるフラウディオ・プレーモリと、ベーシストのジョルジョ・ピアッツァを加入させている。ちなみにフラウディオ・プレーモリはワールド・アコーディオン・コンテストで優勝した北イタリアで最も早い指と評された人物である。兵役からフランコ・ムッシーダが戻るとオリジナル曲を作るようになり、1969年7月にイ・クエッリとして最初のアルバム『Quelli』をリリースする。この時のメンバーはフランツ・ディ・チョッチョ(ドラム)、フラウディオ・プレーモリ(キーボード)、フランコ・ムッシーダ(ギター)、ジョルジョ・ピアッツァ(ベース)の4人である。そしてアルバムを発表したその夏にもう1人の人物と出会うことになる。マウロ・パガーニである。彼はフルートとヴァイオリンを独特の演奏で聴かせるミュージシャンで、後のP.F.M.の中心的な役割を果たす人物だった。マウロ・パガーニの加入は、グループのサウンドに新しい風を吹き込むことになる。

 

 1970年にシンガーでありプロデューサーでもあるルチオ・バッティスティのレコーディングに参加した時、彼の勧めでグループ名をプレミアータ・フォルネリア・マルコーニ(P.F.M.)に改名している。P.F.M.は1971年に『九月の情景』と『ハンスの馬車』のカップリングシングルでデビューをし、これまでイタリア音楽には無かったモーグ・シンセサイザーやメロトロンを導入している。1972年にファーストアルバム『幻想物語』をイタリア国内でリリースし、アルバムチャート3位を記録している。それでもP.F.M.はイタリアのクラブサーキットで演奏しているだけの毎日だったが、マネージャーのフランコ・マモーネがプロモーターとして世界ツアー中だったエマーソン・レイク&パーマーをイタリアに招聘していた。P.F.M.はエマーソン・レイク&パーマーの前座を務め、そのサウンドを聴いたグレッグはいたく気に入ったという。1972年12月にセカンドアルバム『友よ』をリリース後、グレッグ・レイクの勧めでマンティコア・レーベルと契約し、P.F.M.は世界進出を図ることになる。

 

★曲目★

01.River of Life(人生は川のようなもの)

02.Celebration(セレブレイション)

03.Photos Of Ghost(幻の映像)

04.Old Rain(オールド・レイン)

05.Banchetto(晩餐会の三人の客)

06.Mr. 9'Till 5(ミスター9~5時)

07.Promenade the Puzzle(プロムナード・ザ・パズル)

 

 本アルバムの『Photos Of Ghosts(幻の映像)』のほとんどの曲は、前2作のアルバム『幻想物語』と『友よ』で披露されたものだが、本作収録のためにロンドンで再録音されている。1曲目の『人生は川のようなもの』は、前アルバム『友よ』に収録されていた『ほんの少しだけ』が原曲になっており、クラシカルなアコースティックギターから始まり、まさに川の流れのような緩急のある曲調の中で、メロトロンと変拍子の楽器が交錯する曲。フランコの歌声は優しく、この1曲目で素晴らしいアレンジに思わず聴き入ってしまうほどだ。2曲目の『セレブレイション』は、前作『幻想物語』に収録していた『祭典の時』が原曲であり、キング・クリムゾンのメンバーだったピート・シンフィールドがプロデュースしている。独特のリズムからなるアンサンブルだが、後半では壮大なフラウディオ・プレーモリの歌声とシンセサイザーが聴けるナンバー。3曲目の『幻の映像』は、前作『友よ』のタイトル曲であり、荘厳なイントロから壮絶なアンサンブルに切り替わるジャズとクラシックが織り交ざったような豪快な曲。フラウディオ・プレーモリの柔らかなリードヴォーカルとマウロ・パガーニの流麗なヴァイオリンが聴きどころのナンバーだ。4曲目の『オールド・レイン』は、本作のために作られた新曲で、こちらもピート・シンフィールドがプロデュースしている。フランコ・ムッシーダの生ギターとマウロ・パガーニのクラシカルなヴァイオリンの調べが美しい曲。5曲目の『晩餐会の三人の客』は『友よ』のオリジナルイタリア語ヴァージョンとしてそのまま収録されている。リード・ヴォーカルはフランコ・ムッシーダが担当し、彼のギターとフラウディオ・プレーモリの様々な音源を用いたシンセサイザーの展開が聴きどころのナンバー。6曲目の『ミスター9~5時』は、『友よ』に収録されていた『生誕』が原曲であり、短いながらも変拍子が多く、イタリアらしい明るさに満ちた楽しい曲調でまとめられている。7曲目の『プロムナード・ザ・パズル』は、『友よ』に収録されていた『ゼラニウム』が原曲である。静と動の曲調と楽器による輪唱、そしてワルツといった、めぐるましく変わる展開が聴き応えのあるナンバーとなっている。こうして聴いてみると、前作のアルバムから選出された曲ばかりだが、ピート・シンフィールドのプロデュースと彼らの卓越した演奏力とアレンジ力によって、ここまで洗練された曲に生まれ変わるのかと驚いてしまう。

 アルバムは1973年にイギリス国内で発売され、その後に日本をはじめ世界中にリリースされる。特にイギリスでは名立たるプログレッシヴロックのグループが乱立する中で、オランダのフォーカスと並んで注目される外国勢のアーティストとなった。イタリア国内のアルバムチャートでは21位を記録し、アメリカではビルボードで180位につけるなど、イタリアのロックグループとして初のチャート入りを果たしている。P.F.M.の世界デビューとなったアルバムは、これまであまり認知されることの無かったイタリアンロックが注目されることになり、後にアルティ・エ・メスティエリやバンコ、アリア、イ・プーなどが世界デビューすることになる。まさしくP.F.M.の『幻の映像』のアルバムが生まれなければ、世界でのイタリアのロックはここまで盛り上がることは無かったと言っても過言ではないだろう。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアの歴史的な名盤であるP.F.M.『幻の映像』を紹介しました。このP.F.M.というグループは、ひと通り英国のメジャーなプログレッシヴロックグループのアルバムを聴いた後に耳にしたのですが、かなり衝撃を受けたことを覚えています。イエスやキング・クリムゾン、ジェネシスとはまた違った異なるドラマティックなサウンドを追求していて、アルバムとしての完成度は非常に高いです。きっと、聴いていて私自身がイタリアならではのクラシカルなテイストとヨーロッパの伝統と美学が散りばめられていると感じたからだと思います。原曲も聴きましたが、とにかくアレンジが素晴らしく、ひとつひとつの楽器の美しさに感動したものです。セカンドアルバムの『甦る世界』も彼らの音楽に対する美の追求が随所に感じられ、今ではどちらも名盤とされています。

 

 さて、P.F.M.というグループは、かのマンティコア・レーベルから世界デビューを果たしますが、このグレッグ・レイクとP.F.M.のエピソードは、ある意味出来すぎているほどドラマティックです。P.F.M.のマネージャーをしていたフランコ・マモーネがエマーソン・レイク&パーマーのイタリア公演のプロモーターだったことが大きく、P.F.M.が前座を務めることになったことや彼がP.F.M.の過去のアルバムやカヴァー曲の入ったカセットテープをグレッグ・レイクに渡しているところが凄いです。それが功と成して世界ツアー中にP.F.M.のサウンドを聴いたグレッグ・レイクはその魅力にそうとう取り憑かれてしまったようです。グレッグはエマーソン・レイク&パーマーのツアー終了後にイタリアに渡り、P.F.M.のセカンドアルバム『友よ』のプロモーションのために行っていたP.F.M.のコンサートに駆けつけ、ステージで共演するほどの熱の入れようだったらしいです。しかもそのコンサートの後に自ら設立したマンティコア・レーベルの契約を勧めるために、P.F.M.のメンバーをロンドンに招いたというから、グレッグはそうとうP.F.M.の才能を高く評価していたんですね。そのグレッグ・レイクのお目がね通り、確かにP.F.M.のサウンドは素晴らしいものです。

 

 P.F.M.はポップで親しみやすい80年代のアルバムを推すファンも多いですが、幻想的なシンフォニックロックとテクニカルなジャズテイストがあふれる初期の『幻の映像』と『甦る世界』、『チョコレート・キングス』は個人的に好きなアルバムです。機会があったら、ぜひ聴いてみてくださいな。

 

それではまたっ!