【今日の1枚】Tabula Rasa/Ekkedien Tanssi(月の優美な罠と舞踏) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Tabula Rasa/Ekkedien Tanssi

タブラ・ラサ/月の優美な罠と舞踏

1976年リリース

キーボードの導入でより繊細で優雅になった

北欧らしい幻想美にあふれた傑作

 森と湖の国、フィンランドを代表するプログレッシヴロックグループ、タブラ・ラサが1976年にリリースしたセカンドアルバム。そのアルバムは美しい自然に囲まれ、白夜に煌めくガラス細工のような繊細で幻想美にあふれたサウンドが特徴となっており、どこか懐かしいノスタルジックな雰囲気に包まれた楽曲となっている。前作はギターを中心としたフォークロックだったが、新たにキーボードを導入したことでより優雅で美しく洗練されたサウンドになり、北欧シンフォニックロックの傑作となっている。

 タブラ・ラサは1972年フィンランドの首都、ヘルシンキの北にあるタンブレの隣町カンガサーラで結成されている。メンバーはヘイッキ・シルベノイネン(ギター)、アスコ・パッカネン(ドラム)、タピオ・スオミネン(ベース)の3人である。また、正式メンバーではないが別にもう1人、作詞家としてポピュラーミュージック界で有名なミッコ・アラタロがおり、キング・クリムゾンでいうピート・シンフィールド的な役割を果たしている。このタンブレという街は首都ヘルシンキよりも音楽が盛んで多数のロックグループが誕生している街で、タブラ・ラサもタンブレを中心に活動する数あるグループの1つとして注目を集めていたという。後にタブラ・ラサは1972年に開催されたフィニッシュ・ポップ・グループ・コンテストで2位となり、フィンランドですでに人気を博していたプログレッシヴロックグループ、ウィグワムのライヴの前座を務めるようになる。こうして一躍人気となったタブラ・ラサはフィンランドの名門レーベル“ラヴ”と契約。ヴォーカルにユッカ・レッピランピ、フルートのヤルノ・ソルムネンが加わり、1975年にファーストアルバム『タブラ・ラサ』がリリースされる。アルバムはシングルカットされた『孤独の王子/旅立ち』をはじめとした、柔らかなアコースティックギターとフルートによる美しくも儚いメロディが散りばめられた秀逸な作品となっている。その後、フルートのヤルノ・ソルムネンとドラマーのアスコ・パッカネンが脱退し、キーボード、エレクトリックピアノ、シンセサイザーのヤルノ・ニシサロとドラムのユッカ・アロネンが加わり、1976年に本セカンドアルバム『月の優美な罠と舞踏』がリリースされる。本アルバムでは初めてキーボードが導入され、さらにウィグワムのジム・ペンブロークがピアノで参加しており、よりシンフォニック度が高まったプログレッシヴロックの傑作として評価されている。また、ファーストアルバムには無かったファンタジック性を表すようなジャケットアートワークが施されており、プログレッシヴロックファンの間でも話題となった1枚でもある。

 

★曲目★

01.Ekkedien tanssi(月の優美な罠と舞踏)
02.Uskollinen(信仰)
03.Aamukasten laiva(朝もやの船出)
04.Omantunnon rukous(白夜のシンフォニー)
05.Lasihelmipeli(ガラス玉の遊戯)
06.Rakastaa(愛の歌)
07.Kehto(ゆりかご)
08.Babyla Rasa(バビラ・ラサ)
09.Saasta mun paa(思考の中で)

★ボーナストラック★
10.Rakastatko viela kun on ilta(たとえ人間であっても)
11.Yksin(孤影)

 

 アルバムの1曲目のタイトル曲『月の優雅な罠と舞踏』は、リリカルなピアノとギターにストリングスの効いたシンセサイザーが美しいナンバー。この1曲目から北欧ならではの幻想的なメロディーと、メンバーそれぞれが柔らかくも繊細な演奏に胸をときめかせてくれる。2曲目の『信仰』は、牧歌的なメロディー上で優しく歌うヴォーカル曲だが、後半はジャズっぽいエレピとブルージーなギターソロがあり、尻上がりにアップテンポになっていく曲である。3曲目の『朝もやの船出』は、エレピとアコースティックギターを中心とした曲となっており、胸に刺さるようなアコースティックギターの調べと哀愁のあるヴォーカルとハーモニーが美しいナンバー。4曲目の『白夜のシンフォニー』は、優しいヴォーカルとノスタルジックを思わせるギターとシンセサイザーが、いかにも北欧らしいシンフォニックな曲になっている。5曲目の『ガラス玉の遊戯』は、オルガンの響きが象徴的なナンバーで、力強いヴォーカルと伸びやかなギターが心地良い曲になっている。6曲目の『愛の歌』はアコースティックギターとピアノ上でしっとりと歌うバラード曲であり、7曲目の『ゆりかご』は、キーボードとギターが優しいポップな曲になっている。8曲目の『パピラ・ラサ』は明るく歌い上げるノスタルジックなヴォーカル曲だが、中間部のキーボードとギターが哀愁を帯びていて、どこか懐かしく思えてくるナンバーになっている。9曲目の『思考の中で』は、優雅で伸びやかなギターと幻想的なシンセサイザーが聴きどころのシンフォニックな曲で、とくに後半の泣きのギターソロは必聴である。

 タブラ・ラサのグループ名の由来は、古くはプラトン、アリストテレス、中世ではトマス・アクィナス、17世紀にはジョン・ロックによって提唱された哲学的な言葉であり、ラテン語で“白い板”と指し、“人間は生まれた時は真っ白な板のように無垢であり、後の経験によって知識を得ていく”という意味が込められている。彼らの音楽性は優美なファンタジック性にあふれた曲だが、伝統と歴史を重んじるイギリスのプログレッシヴロックには無い北欧ならではの優しさと温もりのあるサウンドが印象的であり、聴けば聴くほど安らぎに満ちて鬱蒼とした気持ちを洗い流してくれるように思える。グループは1977年に解散してしまうが、同年に1950年から60年代の音楽を演奏する謎の覆面プロジェクト“ヴァリカウシタッキ”というグループが登場するが、後に彼らがユッカ・アロネン、タピオ・スオミネン、ヘイッキ・シルベノイネン、ヤルノ・シニサロ、ミッコ・アラタロという元タブラ・ラサのメンバーだったことが分かっている。ギタリストのヘイッキ・シルベノイネンは、ウィグワムのベッカ・ライヒャルトらと参加したヴェルヴェット・ヴィルネタンのヘル(HELU)、80年代にはザ・サンクスやフレンズというグループで活躍し、フィンランドのプログレッシヴロックのペッカ・ポーヨラ・バンドのアンシ・ニュカネンとザ・レストやヘイッキ・ヘラというグループでプレイしている。ヴォーカルのユッカ・レピランピは、脱退後にクリスチャンとなってゴスペルシンガーとなり、また、フルート奏者だったヤルノ・ソルムネンも神の道を選択し、司祭兼ゴスペルミュージシャンとなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフィンランドの知る人ぞ知るタブラ・ラサの『月の優美な罠と舞踏』のアルバムを紹介しました。改めてジャケットデザインが幻想美にあふれてて良いですね。つい数年前に、そのジャケットの月の妖艶な魔女?の魅力に惹かれて購入したものですが、それまで全く知らないグループでした。ウィグワムやペッカ・ヨーポラ・バンドといったフィンランドのグループは知っていましたが、このアルバムはウィグワムのユッカ・グスタフソンがプロデュースしているんですね。前作よりファンタジック要素が強くなっているのは、もしかしたら彼の手腕によるところが大きいのかも知れません。

 

 さて、本アルバムですがジャケットの美しいアートワークから想像するとおり、幻想美にあふれたプログレッシヴロックとなっています。よくスウェーデンのプログレッシヴグループのカイパと比較されることが多いですが、個人的にカイパが叙情性にあふれた音楽性であれば、こちらはガラス細工のような繊細さにあふれた音楽性だと思います。とにかく泣きのギターと琴線に触れるようなメロディが素晴らしいです。アルバムでは特に1曲目のタイトル曲でもある『月の優雅な罠と舞踏』や3曲目の『朝もやの船出』、4曲目の『白夜のシンフォニー』がお気に入りで、中でも3曲目の『朝もやの船出』のアコースティックギターの旋律と優しいヴォーカルハーモニーは、今でもうち震えるほど聴き入っています。このアルバムを聴いてフィンランドには、まだまだこんな素敵なグループがあるんだと改めて痛感したものです。

 

 本アルバムはそんな北欧らしい美が散りばめれられた作品です。聴いたことの無い方は、ぜひ一度堪能してほしいです。

 

それではまたっ!

 

※3曲のみYoutubeにアップされていました。