【今日の1枚】Locanda Delle Fate/妖精 | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Locanda Delle Fate/Forse Le Lucciole Non Si Amano Piu
ロカンダ・デッレ・ファーデ/妖精
1977年リリース

1970年代後期に生み落とされた
イタリアンプログレの最後の名盤

 プログレッシヴロックそのものが衰退期に入った1977年に彗星のごとく出現したイタリアのロックグループ、ロカンダ・デッレ・ファーデの唯一作。そのサウンドは究極なまでのテクニックとメロトロンを含む美しいアンサンブルを基軸にしたドラマティックな楽曲となっており、イタリアンプログレの最後の名盤と言われている。たった1枚のみ残して解散してしまったが、その高い音楽性とは裏腹に本国やヨーロッパでは無名に近く、遠く離れた日本で高い評価を今でも受け続けているという稀有なアルバムでもある。

 1970年代後期のイギリスを端に発したパンク/ニューウェイヴの影響は、他のヨーロッパ各国にも及び、次々とプログレッシヴロックの姿が消えていく流れにあった。イタリアの音楽シーンでもニューウェイヴと連動した様々なアーティストが登場するも、かつてのプログレッシヴな音楽は鳴りを潜め、意欲的で新たなグループは誕生していない。そんな中、ロカンダ・デッレ・ファーデは1974年に結成されたグループであるが、経緯や詳細は不明である。ただし、メンバーのほとんどがセッションマンであったことと、複数の楽器を演奏するマルチプレイヤーであることが分かっている。改めてメンバーはジョルジョ・ガルディーノ(ドラムス、ビブラフォン)、ルチアーノ・ボエロ(ベース、ハモンドオルガン)、エツィオ・ヴェヴェイ(ギター、ヴォーカル、フルート)、アルベルト・ガヴィーリオ(ギター)、ミケーレ・コンタ(ピアノ、チェンバロ、クラヴィネット、シンセサイザー)、オスカル・マッゾーリオ(ハモンドオルガン、ピアノ、シンセサイザー)、そして元ソウル・システムというグループに在籍していたレオナルド・サッソ(ヴォーカル)という7人編成となっている。音楽性は初期のジェネシスやキャメルに似たフレーズが多く、ジェスロ・タルのスタイルに近いフルートを含めて、英国のプログレッシヴロックに影響されたグループであることは分かっている。後にライヴを収録したアルバムをリリースしていることを考えると、レコーディングを行う前は、ライヴを中心に活動してきたのだろう。卓越した演奏力はセッションマンであっただけではなく、多くのステージをこなしてきた証でもある。彼らは1977年にポリドールを契約し、プロデューサーにニコ・パパタナシウ、エンジニアにディヴ・マリノーンを迎えて録音をしている。あの美しいジャケットアートはビアジオ・カローネというイタリアのイラストレーターが描き、かくして儚くとも美しいデビューアルバム『妖精』がリリースされることになる。そのアルバムはピアノやハモンドオルガン、メロトロンといった2人のキーボーディストによるメロディ、そしてフルート、12弦ギターによる美しいアンサンブルを中心としたテクニカル&ドラマティックなシンフォニックロックのお手本とも言うべきアルバムとなっている。

★曲目★
01.A volte un istante di quiete(ひとときの静寂)
02.Forse le lucciole non si amano più(蛍が消える時)
03.Profumo di colla bianca(白色の香)
04.Cercando un nuovo confine(新しい世界を求めて)
05.Sogno di Estunno(憧れ)
06.Non chiudere a chiave le stelle(星に鍵をかけないで)
07.Vendesi saggezza(誤ち)
★ボーナストラック★
08.New York(ニューヨーク)
09.Nove Lune(9番目の月)

 アルバムの1曲目『ひとときの静寂』は、リズミカルなピアノをベースにクラシックとジャズを融合させたようなギターとドラミングが絡み合っていくナンバー。切れ味のよい演奏の中でビブラートを効かしたフルートやシンセサイザーの響きがとにかく美しく、この一曲だけでも彼らがただ者ではないことを物語っている。2曲目の『蛍が消える時』は、イタリア語のタイトルで『蛍は愛し合わない』という意味になっている。流麗なピアノ上でレオナルドのヴォーカルがカンツォーネ風に歌い上げているナンバー。10分近い曲だが、曲の合間を縫うようにギターやシンセサイザー、フルートが絡み合っていくところはドラマティックであり、後半の泣きのギターは胸に来るものがある。3曲目の『白色の香』は、リリカルで柔らかいシンセサイザーの響きを中心に、重量感あふれるカンツォーネ風のヴォーカルと、様々なキーボード類が変化していく高度なアンサンブルが素晴らしいイタリアンプログレならではの展開が聴きどころの曲になっている。4曲目の『新しい世界を求めて』は、ピアノにアコースティックギター、メランコリックなコーラスといったシンフォニック的な展開のあるナンバー。まるで深い森の情景を意識したような美しいメロディであり、生き生きとしたサウンドが特徴である。5曲目の『憧れ』は一転してリズミカルなドラム上でピアノとフルート、荒いギターが絡み合うロックっぽいアヴレッシヴなナンバーで、曲の展開がスピーディーでありながらもアンサンブルとしてしっかり完成されている。6曲目の『星に鍵をかけないで』は、、甘美なメロディの中で優しいヴォーカルが特徴のアコースティックギターを中心としたフォーク調のナンバー。7曲目の『誤ち』は、ピアノやチェロ、フルートを中心としたクラシカルなオープニングから始まり、彼らの持つ演奏テクニックをふんだんに盛り込んだ大作となっている。複雑な曲展開ながらも透明感のある演奏が素晴らしく、計算された緻密なアンサンブルであることが聴いていて良く分かる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ヴォーカルにツインギター、ツインキーボード、ベースにドラムという編成は他のグループでも見受けられるが、演奏はダイナミックで分厚いサウンドというわけではない。繊細なまでにシャープな音楽性であり、流麗なオルガンやピアノ、そしてフルートが楽曲の中で美しく絡み合い、どこか儚い印象が感じられるほどリリカルな演奏である。

 ロカンダ・デッレ・ファーデの唯一のアルバム『妖精』は、これほどの高い演奏力を誇りながらも商業的な成功を収めることなくグループは解散してしまう。それでも一時はイタリアの「TV Sorrisi e Canzoni」の週間ランキングで名誉ある25位に達し、後にプログレッシヴロックの最高の作品の1枚として多くの批評家から称賛されたという。受け入れられなかったのは時代の流れからして仕方が無いものの、だからこそ彼らが残した美しい楽曲と演奏はかけがえのないものだといえる。解散してからもメンバーの足取りがつかめないまま時は過ぎていくが、20年近く経った1998年にリードヴォーカル以外のメンバーで再結成し、アルバム『妖精の帰還』(1999年)を発表している。無論、プログレファンとしてはうれしいニュースだが、やはり高い演奏と楽曲を誇るグループは時代を越えるということだろう。また、最近では2012年に1970年代の未収録曲やライヴ音源を収録した『ザ・ミッシング・ファイアーフライズ』のリリースを果たしている。そのアルバムは全盛期を肉薄する華麗なシンフォニックロックとなっているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアンプログレの至宝とも呼ばれているロカンダ・デッレ・ファーデの『妖精』を紹介しました。このアルバムを初めて聴いたのは2000年代に入ってリリースされた紙ジャケです。まったく存在を知らず、単に美しいジャケットに惚れて購入したものですが、内容を聴いてこんな素晴らしい楽曲のあるアルバムがあるなんてっ!と喜んだものの、自分のあまりの無知さに落ち込んだアルバムでもあります。たぶん、紙ジャケで再発しなければ一生聴くことがない代物かもしれないと思うとゾッとします。今回紹介した『妖精』は、1977年というプログレッシヴロックの終焉とともにリリースされたアルバムであったために、先に述べたようにイタリア本国はもちろんヨーロッパでも無名のままで終わります。しかし、なぜか日本だけはプログレマニアを中心に売れて、高い評価を受け継がれているというのは面白い話で、こうして再発を繰り返しながら紙ジャケで入手できるのはうれしいの一言です。このアルバムは何度も聴いていますが、聴けば聴くほど彼らの高次元の技量と美しくまとめられたアンサンブルは虜になってしまします。イタリアンプログレを抜きにしても、そうそう彼らのような濃密で完成されたアルバムは無いと今でも思っています。

 紙ジャケ盤ではボーナストラックとして『ニューヨーク』と『9番目の月』という曲が収められています。こちらはメンバーチェンジした後にシングル盤として発表されたものですが、『ニューヨーク』はポップなヴォーカルがフィーチャーされた曲で、『9番目の月』は逆にスピード感あふれる展開が聴き応えのある曲になっています。ボーナストラックが入るとどうしてもアルバムの曲の流れが変わってしまって逆効果になってしまうことがありますが、どちらも自然に収まっているのが良い印象です。ぜひ、興味のある人は聴いてみてください。

それではまたっ!