【今日の1枚】Wind/Morning(ウインド/モーニング) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Wind/Morning

ウインド/モーニング

1972年リリース

メルヘン的な作風と童話的な歌詞が美しい

ドイツのシンフォニックロックの傑作

 マイセンの人形をあしらったジャケットが彼らの楽曲の内容を表すように、メルヘンタッチな作風とメロトロンが絡んだ美しいアンサンブルが妙と評されたウインドのセカンドアルバム。前作と同じメンバーで制作されたオルガンハードサウンドであるものの、よりシンフォニックなサウンドになり、英国的な幻想美を思わせる秀逸な作品となっている。初期のキング・クリムゾンばりの抒情的なメロトロンの洪水は、今なおプログレファンを惹きつけて止まない傑作アルバムである。

 ウインドは1971年にドイツのニュルンベルクで結成されたグループである。オリジナルメンバーのうち4人は、1964年頃からドイツ南部の米軍基地やクラブといった場所で演奏していたという。それから5年後の1969年にベトナムの米兵の慰問のために演奏するという目的で東アジアでツアーを行うが、そのツアーは熱帯の高温多湿に悩まされ、さらに戦争という悲惨な状況下だったという。そんな悪夢のような日々が続いたためか、ついにはマネージャーにギャラを持ち逃げされるという憂き目に遭い、彼らはドイツに帰国するために楽器や機材をすべて売却している。ドイツに戻った彼らはCHROMOSOMというグループ名で活動し、1971年にローカルバンドフライング・カーペットやファクションといったグループに所属していた巨漢のシンガー、ベルント・スティーヴ・ライストナーが加わり、リードヴォーカルを担当することになる。ベルントの加入はグループの演奏の質感やより叙情的な内容といったサウンドの方向性を変えるなどアイデアを披露し、この時点でグループ名をウインドと改めるようになる。メンバーはヴォーカルとパーカッション、ハーモニカのベルント・スティーヴ・ライストナーのほかに、ギターとヴォーカルのトマス・ライデンベルガー、キーボードとヴォーカルのルシアン・ベラー、ベースとヴォーカルのアンドレアス・ベラー、ドラムスとピアノ、ヴァイブのラッキー・シュミットの5人である。ちなみにルシアン・ベラーとアンドレアス・ベラーは双子である。ファーストアルバム『Seasons』はケルン郊外のシュトメルンにあるスタジオで録音され、廉価盤として主にスーパーマーケットやガソリンスタンドで販売されたが、ドイツのローカルグループとしては異例の3万枚を売り上げたという。この成功を機にウインドはハンブルクの音楽ホールでイカルスやトゥモロウズ・ギフトと共に合同コンサートに参加。その演奏はドイツ北部に定評があり、ついにハンブルクのシュタットバルクで行われたCANの前座を務め、主役を完全に食うほどのライヴグループとして高い評価を得ることになる。1972年の春には10万人の観客を集めたゲルメルスハイムの2ブリティッシュロック・ミーティング・フェスティバルでピンク・フロイドと共演するなど知名度を上げ、グループは複数のレコード会社からオファーを受けるほど成長する。

 

★曲目★

01.Morning Song(モーニング・ソング)
02.The Princess & The Minstrel(ある王女と吟遊詩人)
03.Dragon's Maid(ドラゴンズ・メイド)
04.Carnival(カーニヴァル)
05.Schlittenfahrt(ソリ遊び)
06.Puppet Master(パペット・マスター)
07.Tommy's Song(トミーズ・ソング)

★ボーナストラック★

08.Josephine(ジョセフィーヌ)

 

 そんな本アルバムの『Morning』は、CBSとレコード契約をした2枚目のアルバムとなる。前作と比べてコンパクトにまとめられた曲構成になり、より叙情的なメロディアスなサウンドを意識したプログレッシヴロック志向の強いクラシカルな内容になっている。1曲目の『モーニング・ソング』は、ハープシコードとオルガン、そして柔らかなリズムに乗せてベルントのヴォーカルから始まり、ストリングスやメロトロンを駆使した美しいサウンドになっている。2曲目の『ある王女と吟遊詩人』は、語りから始まりトマスの朗々としたギタープレイとヴォーカルを中心とした曲になっている。エレクトリックギターとアコースティックギターが交互に響き渡り、時折メロトロンとフルートが効果的に使用されている。3曲目の『ドラゴンズ・メイド』は、バッキングにパーカッションやヴァイブを巧妙に使用したロマンティズムにあふれたナンバー。壮大なメロトロンとリリカルな音空間がキング・クリムゾンを彷彿とさせるアルバムの中でも一番の大作となっている。4曲目の『カーニヴァル』は、マイナー調のトラックであり、タイトなリズムの中で響くメロトロンが哀愁を帯びたナンバー。5曲目の『ソリ遊び』は、コーラスと素朴なピアノを中心とした気品ある楽曲で、6曲目の『パペット・マスター』は、ストレートなロックとクラシカルが対比した内容になっている。7曲目の『トミーズ・ソング』はアコースティックギターとオルガンで紡ぐ軽快なサウンドが特徴の曲で、ギターのアルペジオが美しいナンバーだ。ちなみにボーナストラックの『ジョセフィーヌ』は、1973年にリリースしたシングル曲である。こうして聴いてみると、全体的にメロトロンやハープシコード、アコースティックギターといった楽器による優しい音世界と美的感覚にあふれたメロディに終始していると同時に、彼らの音楽の特徴であるメルヘンチックな歌詞がサウンドに大きく影響しているように思える。

 ウインドは本アルバムでドイツ本国で高い評価を得て、特にハンブルガー・アーベンブラッド紙では「ムーディー・ブルースのメロディに比肩する」とまで評している。しかしグループは結成以来、ずっと金銭的な困窮が続いており、ついに限界を迎えて解散することになる。ここまで金銭的な困窮に至った理由は定かではないが、ミュージシャンたちは2年間ほぼ無給状態だったと言われている。1972年12月23日にエルランゲンで最後となるコンサートを行い、1973年にボーナストラックに収録されている『ジョセフィーヌ』というシングルリリースと、ヒッツ・ア・ゴーゴーというTV番組で演奏を行った後にグループは姿を消すことになる。ライヴで培った技術とロマンティズムな音楽性、キング・クリムゾンに迫るような楽曲があるにも関わらず、たった2枚のアルバムで消えてしまうには惜しいグループである。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はドイツのシンフォニックグループの代表格ともいえるウインドの『モーニング』を紹介しました。マイセンの人形をあしらったジャケットがかわいいですよね。裏側にも2体表示されていて、フルートやマンドリン、アコースティックギター、そして楽譜を持った歌い手といった4種の人形が描かれています。実はというと彼らのファーストアルバムである『シーズンズ』を先に聴いていまして、ヘヴィーなオルガンハードロックと10分を越える組曲がなかなか魅力的だったのを覚えています。本アルバムは前作と比べてメロトロンやハープシコードを利用していていますが決して大仰ではなく、どちらかというと控え目でありながら、素朴な響きの中に哀愁を込めたドイツ的なロマンティズムを奏でていると思っています。曲それぞれがコンパクトなのでややインパクトは欠けるものの、ハープシコードやメロトロンを駆使したシンフォニックなサウンドは素晴らしいものがあります。とくに3曲目の『ドラゴンズ・メイド』と4曲目の『カーニヴァル』は、これぞプログレッシヴロックと言わんばかりの内容になっていて、かのキング・クリムゾンの『エピタフ』を思わせるような叙情的なサウンドに通じていると思っています。評論家の間ではザ・ムーディー・ブルースをはじめとする英国のロックを意識したサウンドと言われていますが、ドイツにおける最初期のシンフォニックロックを確立したグループであることは間違いありません。ホント、つくづく惜しいグループだと思います。

 

 さて、ドイツといえばグリム童話があり、メルヘン街道があり、中世ファンタジーの宝庫であり、彼らの曲の歌詞には吟遊詩人やお姫様、魔女、騎士などが歌われており、メルヘンチックにあふれています。アイデアマンだったリードヴォーカリストのベルントが、いかにドイツらしい世界観とメロディを大切にしていたか、楽曲だけではなくマイセン地方の陶磁器の人形をあしらったジャケットから見てもそう感じます。ザ・ムーディー・ブルースや初期のキング・クリムゾン好きには、ぜひ聴いてほしいアルバムです。

 

 ちなみに本アルバムの『モーニング』は、そんな内容をあしらったマイセン人形のジャケットが秀逸で、当時はレコードが高値で取り引きをされるコレクターアイテムとなったそうです。せめてその売り上げだけでもメンバーに渡せていたら良いのにな~とちょっとだけこれを書いていて思ってしまいました。

 

それではまたっ!