【今日の1枚】Genesis/Nursery Cryme(ジェネシス/怪奇骨董音楽箱) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Genesis/Nursery Cryme

ジェネシス/ナーサリー・クライム(怪奇骨董音楽箱)

1971年リリース

イギリス伝統の演劇芸術をロックに織り込んだ

ジェネシス初期の最高傑作

 シアトリカルミュージックという新たな音楽スタイルを確立し、ヴォーカリストのピーター・ガブリエル在籍時のジェネシスの初期の傑作と言われているサードアルバム。『怪奇骨董音楽箱』という邦題と、不気味なジャケットアートワークに目が行ってしまうが、その音楽性は幻想的でありながらどこか牧歌的であり、英国情緒が織り込まれた美しいサウンドが魅力となっている。また、ギタリストにスティーヴ・ハケット、ドラマーにフィル・コリンズがメンバーとして在籍した最初のアルバムとして注目された作品でもある。

 ジェネシスはイングランドの南東部にあるサリー州のパブリックスクールの同級生だったピーター・ガブリエル(ヴォーカル)、アンソニー・フィリップス(ギター)、トニー・バンクス(キーボード)、マイク・ラザフォード(ベース)、クリス・スチュワート(ドラム)の5人が在学中に結成したところから始まる。1969年にプロデューサー兼ミュージシャンであるジョナサン・キングのもとで、ドラマーのクリス・スチュワートからジョン・シルヴァーに代えて、デビューアルバム『創世記』をリリース。当時人気だったビージーズを意識した内容だったためか、あまり評価を得られなかったという。後に大学進学のために脱退したジョン・シルヴァーに代わってジョン・メイヒューがドラムを担当して1970年にリリースされたセカンドアルバム『Trespass(侵入)』は、その練りに練られたアートロック的な音楽の方向性に一定の評価を得ることになる。ジャケットアートもホワイトヘッドのシュルレアリズムに影響されたイラストを使用し、寓話的なテーマを標榜するジェネシスのコンセプトに合わせた内容になっている。しかし、ギタリストのアンソニー・フィリップスが健康上の理由(ステージ恐怖症だったとも言われている)でグループを脱退し、元クワイエットワールドのギタリストだったスティーヴ・ハケットが加入。そして力量に問題のあったジョン・シルヴァーに代わって、フレイミング・ユースというグループでドラムを叩いていたフィル・コリンズがメンバーとなる。それぞれ公募によるオーディションによって選ばれたものだが、この2人の加入によって、ジェネシスの音楽性が大きく変貌していくことになる。

 

 本アルバム『Nursery Cryme(怪奇骨董音楽箱)』は、トラッド・フォーク的なアンソニー・フィリップスの資質が大きく左右した前作と比べて、先に述べたように新しく加入したギタリストのスティーヴ・ハケットとドラマーのフィル・コリンズの個性がアルバムに大きく影響している。その評価はプログレッシヴロックとしての音楽性は元より、ピーター・ガブリエルの演劇性を持った独特のステージ・パフォーマンスも相まって、シアトリカルミュージックという新たな方向性を確立した傑作となっている。今回のタイトルである『Nursery Cryme』は、イギリスの伝統演劇である「Nursery Rhyme(ナーサリーライム)」という童話と「Clyme(クライム)」という犯罪という言葉を組み合わせた造語であり、彼らの寓話的な世界観を表したものになっている。

 

★曲目★

01.The Musical Box(怪奇のオルゴール)

02.For Absent Friends(今いない友の為に)

03.The Return of the Giant Hogweed(ザ・リターン・オブ・ザ・ジャイアント・ホグウィード)

04.Seven Stones(セヴン・ストーンズ )

05.Harold the Barrel(ハロルド・ザ・バレル)

06.Harlequin(道化師)

07.The Fountain of Salmacis(サルマシスの泉)

 

 1曲目の『ザ・ミュージカル・ボックス』は、優しく清らかなギターアンサンブルで始まり、複雑な曲展開でありながらフルートやメロトロンといった楽器が細かく演出している素晴らしい曲のひとつ。この曲はアルバムジャケットの生首クロッケーの不気味なイラストとリンクした内容になっている。ジャケットの不気味に笑う女の子は9歳のシンシア・ジェーンであり、彼女は8歳になるヘンリー・ハミルトン=スマイズ君とクロッケーをして遊んでいたが、マレット(打球槌)で彼の頭を打ち抜いてしまう。それから二週間後、ヘンリーの部屋で彼の宝物であるオルゴールを彼の乳母が見つけて、それを開くと「オールド・キング・コール」のメロディとともにヘンリーが現れる。しかしヘンリーは急速に子どもの姿から老化が進み、それを見た乳母はオルゴールを彼に投げつけてしまい、ヘンリーもオルゴールも粉々に砕け散ってしまう。ヘンリーは亡霊になってでもシンシアに想いを遂げようとしたが、自らの欲望の大きさから老化という姿によって何もかも砕け散るという恐ろしい寓話が『ミュージカル・ボックス<オルゴール>』である。2曲目は『フォー・アプサント・フレンズ』は、ヴォーカリストとしてデビューするフィル・コリンズを中心とした曲であり、アコースティックなギターと彼のなだらかなヴォーカルが美しい曲になっている。3曲目の『ザ・リターン・オブ・ザ・ジャイアント・ホグウィード』は、ユニゾンで始まるアルペジオ、めぐるましく変わる曲展開、牧歌的でありながらダイナミックな内容になっており、ジェネシスのサウンドが集約された曲になっている。4曲目の『セヴン・ストーンズ』は、メロトロンを駆使したトニー・バンクスのキーボードとフルートが冴えた美しいメロディが特徴の曲になっており、この曲もジェネシスのサウンドらしい一面を持った細やかなアンサンブルが魅力の曲である。5曲目の『ハロルド・ザ・バレル』は、英国のグループらしいヴォーカル曲であり、ピーター・ガブリエルのリズミカルなヴォーカルが楽しい雰囲気にさせてくれる曲であり、次の6曲目の『ハーレクイン』はフィル・コリンズとピーター・ガブリエルの2人によるハーモニーが美しい曲になっている。最後の『ザ・ファウンテン・オブ・サルマシス』は、プログレッシヴロックらしい壮大な曲展開とメンバーそれぞれの力量が発揮されたアンサンブルが見事な曲であり、特にスティーヴ・ハケットの12弦ギターの演出とフィル・コリンズのダイナミックなドラムが顕著に表れている。ちなみにこの『ザ・ファウンテン・オブ・サルマシス』の曲は両性具有者である水の精の女王サルマシスの物語を題材にした曲である。

 本アルバム『Nursery Cryme(怪奇骨董音楽箱)』は、本国イギリスのアルバムチャートでは39位という結果だったが、イタリアでのチャートで4位を記録するなど、本国よりもヨーロッパでグループの人気に火がつき、徐々にジェネシスの知名度が高まっていくことになる。後の1972年にリリースする『フォックストロット』と1973年の『月影の騎士』、そしてピーター・ガブリエル在籍の最後のアルバム『魅惑のブロードウェイ』でイギリスのアルバムチャート上位に君臨し、ジェネシスの人気を決定付けることになる。とにかく、ピーター・ガブリエルのライヴでの奇抜な衣装やメイク、そして演劇性を持った独特のステージパフォーマンスは大きな注目を浴びたが、あまりにも強烈な個性だったために、結果としてピーター・ガブリエルはソロに向けて脱退することになってしまう。ピーター・ガブリエル脱退後はフィル・コリンズがリードヴォーカルとして、よりリズムを強調したプログレッシヴロックに変貌し、『トリック・オブ・ザ・テイル』や『静粛の嵐』をリリースし、さらにポップ色を加味した『デューク』、『アバカブ』、全米アルバムチャート3位となった『インヴィジブル・タッチ』など、素晴らしいアルバムを世に残すことになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はジェネシスの初期の名盤『ナーサリー・クライム(怪奇骨董音楽箱)』を紹介しました。誰がこんな邦題をつけたのか知りませんが、不気味なジャケットアートと相まってインパクトは凄いものがありまして、一体どんな音楽なのかとてもワクワクしたことを覚えています。というよりもジェネシスを最初に知ったのは1986年にリリースした『インヴィジブル・タッチ』がセンセーショナルだった時期でした。その前にリリースしていたフィル・コリンズのソロアルバムがバカ売れしていた時でもあったため、ジェネシスがプログレグループであることを認識したのは数年後になります。ちなみにビルボードのシングルチャートで1位を記録した『インヴィジブル・タッチ』を蹴落としたのが、皮肉にも同じジェネシスに在籍していたピーター・ガブリエルの『スレッジ・ハンマー』であったことは有名ですね。当時のフィル・コリンズは映画出演やプロデュース業もこなしていて、世界でもっとも忙しい男と言われていたこともありました。

 

 今回紹介した『ナーサリー・クライム(怪奇骨董音楽箱)』がリリースされた1971年は、エマーソン・レイク&パーマーの『タルカス』やキング・クリムゾンの『アイランズ』、イエスの『サード・アルバム』と『こわれもの』といったプログレの名盤が次々と出てきた時期でもあります。それでもジェネシスの音楽性はそれらとはまた違った繊細さとリリカルさに満ちたものであり、本アルバムでもその細やかな音の集まりが美しいサウンドであると思います。というより、ピーター・ガブリエルの奇抜な演出と美しいサウンドのギャップこそ、アルバムの本質であると言われていますが、アルバム主体で聴いていた私からは想像しにくいものがありますね。それだけ美しいメロディと旋律に溢れたアルバムだと今でも思っています。

 

 独特でありながらいち早くポップ性を加味したジェネシスのサウンドは、プログレッシヴロックの中でも異端であると評されていました。しかし、1970年代後半にパンク/ニューウェイブによって次々とプログレバンドが解散していく中、もっともプログレ色が薄いとされていたジェネシスが、1980年代以降も活躍していく点からして、かなり感慨深いものがあります。そんな彼らの原点ともいえる本アルバムは、ピーター・ガブリエルをはじめ、フィル・コリンズ、スティーヴ・ハケット、トニー・バンクス、マイク・ラザフォードという黄金メンバーがそろった初期の傑作であることは間違いないです。ジャケットを眺めつつ聴いてみるとまた違った味わいがありますよ。(。´Д⊂) ウワァァァン!!コワイヨー!!

 

それではまたっ!