【今日の1枚】Island/Pictures(アイランド/ピクチャーズ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Island/Pictures

アイランド/ピクチャーズ

1977年リリース

突然変異の如く出現した

超絶技巧のチェンバープログレッシヴロック!

 H.R.ギーガーのジャケットが目を引く本アルバムの『ピクチャーズ』は、スイスのメモリアルなグループであるアイランドが、1977年にリリースした唯一のアルバムである。音源は徹底した構築的なアンサンブルと超絶技巧ともいえるシンフォニックなサウンドとドラマティックな曲展開でありながら、なじみやすいメロディラインを極力排除しているという、他のプログレッシヴロックとは一線を画した唯一無比な形態と評されたアルバムである。変拍子を多用したテンション溢れる展開と格調高いシンセサイザーとピアノがクールであり、チェンバープログレッシヴロックの傑作と言われている。

 このアイランドというグループは、作品の知名度の高さに反して謎が多く、突然変異的に現れては消えていったグループという認識が強い。その理由のひとつとしてグループの最後期のメンバーであるキーボーディストのピーター・シェラーが、スイス時代の音楽活動をあまり語らず、振り返ることをしないために一体どういう経緯で成り立ったグループなのかがしばらく不明であったことが大きい。後に得た情報だと、実はスイスのトードとザ・シルバーという2つのロックグループが合体したスーパーグループであったことが分かっている。トードというグループは、カリスマギタリストであるヴィクトリア・ヴァーゲイトを擁する人気グループであり、ザ・シルバーは最初期のアルバムにH・R・ギーガーのアートワークが使用され、60年代中期から活動していたグループである。ザ・シルバーの主要メンバーがDEAFというグループを1969年に結成し、1972年にトードから脱退したメンバーが合流する形で、今回のアイランドというグループに発展していったらしい。本アルバムの『ピクチャーズ』が1977年にリリースされるまでメンバーの出入りはあったものの、後の各メンバーの見解の違いから、いつごろ結成されて、いつ解散したのかいまだ分かっていない。そんな謎に満ちたグループであることに反して、H.R.ギーガーのアートワークが施されたジャケットとアヴァンギャルドで凄まじい演奏は衝撃的であり、スイスの代表的なプログレッシヴロックとして名を馳せている。

 

 本作のレコーディングメンバーは4人になっており、元トードの最初期のヴォーカリストだったベニ・イェーガー(ヴォーカル、パーカッション)、元DEAFのギューゲ・マイアー(ドラム)、後にアンビシャス・ラバーズで活躍するピーター・シェラー(キーボード、ベース・ペダル)、ルネ・フィッシェ(フルート、サックス)である。プロデューサーはかのP.F.M.やアクア・フラジーレを手がけたクラウディオ・ファビであり、イタリアのミラノにあるリコルディ・スタジオで録音している。原盤は完全な自主制作であり自主流通だったため、当時は幻のアルバムと評されていた。メンバーをよく見るとギター&ベーシストが存在していないが、ベースに関してはその部分をピーター・シェラーのフットベースが補っているという、曲を聴いた後だと信じられないほどの少ない楽器でテクニカルな演奏をしている。

 

★曲目★

1.Introduction (序章)
2.Zero (ゼロ)
3.Pictures (ピクチャーズ)
4.Herold And King~Dloreh~(ヘロルド・アンド・キング(ドロレー)) 
5.Here And Now (ヒア・アンド・ナウ)
★ボーナストラック★
6.Empty Bottles (エンプティ・ボトルズ)

 

 アルバムの1曲目である『序章』と2曲目の『ゼロ』は、H.R.ギーガーのアートワークを彷彿させるような呪術的なうめきから始まり、複雑なメロディと複雑な展開のアンサンブルに移行していく。少ない楽器でありながらその精緻すぎる演奏は聴く者を圧倒させてくれる。3曲目の『ピクチャーズ』は、パーカッションとサックスを中心としたダイナミックなヴォーカル曲であり、中盤から後半にかけてめぐるましく変わる曲展開が凄まじく、メンバー全員の演奏が難度の高い構築美を形成している。4曲目の『ヘロルド・アンド・キング(ドロレー)』は、荘厳なピアノから始まり、独特のリズム上で展開されるヴォーカルと楽器演奏が、まさに「陰」の空気が渦巻くサウンドになっている。5曲目の『ヒア・アンド・ナウ』は、ピーター・シェラーのキーボードを中心に速いテンポの中をサックスとヴォーカルが交錯するナンバー。最後のボーナストラックになっている『エンプティ・ボトルズ』は、ソフツ期のソフトマシーンやキング・クリムゾンの『アイランド』を想起させるような管楽器のアンサンブルと静と動の独特な曲展開がスリリングである。

 本アルバムはメンバーの脱退などによってギター&ベース・レスという変則的な編成で行われたが、結果としてサウンドにも大きく反映されていると考えられる。キーボードとピアノを主体とした硬質なシンフォニック要素と管楽器によるチェンバーロック的な要素が融合しているが、良い意味で安定感の無いサウンドを作り出しては超絶的なテクニックとスリリングな音楽性を引き立てている。その哲学的な歌詞や狂的な構築のサウンドは、聴く者を捕えて離さないまさに暗黒系チェンバー・ロックといえる。アイランドは本アルバムをリリース後に活動を停止し、キーボーディストのピーター・シェラーは80年代に入ってニューヨークに渡り、アート・リンゼイとアンビシャス・ラバーズを結成して活躍することになる。

◆ 

 

 こんにちはそしてこんばんわです。今回はスイスを代表するチェンバープログレッシヴロックグループ、アイランドのアルバム『ピクチャーズ』を紹介しました。エマーソン・レイク&パーマーの『恐怖の頭脳改革』やスティーヴ・ステーヴィンスの『アトミック・プレイボーイ』に並ぶほど、H.R.ギーガー好きにはたまらないジャケットアートワークが魅力です。私も最初はジャケットの魅力からアルバムを手にしたものですが、とくにこの『ピクチャーズ』のジャケットは、映画『エイリアン』に近いアートワークになっていて非常に好みです。ちなみにH.R.ギーガーがワールドデビューするのが、前身グループであるTHE SILVERのジャケットの仕事だったと言われています。本アルバムのリリース当時、自主的な販売だった上に、ジャケットがギーガーの描きおろしだったということで、マニアのあいだでは垂涎のお宝アルバムだったそうです。

 

 さて、本アルバムはチェンバーロックの開祖と言われているベルギーのユニヴェル・ゼロの1作目と同年にリリースされています。ユニヴェル・ゼロはアコースティックな室内楽を主軸としたヘヴィなロックをアプローチしているのに対して、本アルバムはキーボードを主軸においた曲構成の中で、恐ろしいくらいの変拍子と複雑な展開とメロディラインが強調されています。とにかく攻撃的です。ピーター・シェラーのキーボード演奏を中心としたシンフォニックなプログレシッヴロックの体裁を取りつつも、現代音楽やフリージャズ、さらにクラシックの器楽曲や室内楽曲的なアプローチも見られて、メロディ一辺倒の月並みなシンフォニックロックのアルバムとは一味も二味も違う作品に仕上げています。そのメロディ皆無のやや呪術的なダークなサウンドがまた、H.R.ギーガーのジャケットとよくマッチしていると思います。これだけ構築度の高いアルバムはそうそうに無いので、ぜひ機会がありましたら聴いてみて下さいな。

 

それではまたっ!