【今日の1枚】Mahavishnu Orchestra/Bird Of Fire(火の鳥) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Mahavishnu Orchestra/Bird Of Fire

マハヴィシュヌ・オーケストラ/火の鳥

1972年リリース

ジョン・マクラフリンのギターが冴える

ジャズロックの最高傑作!

 インドの三大神のひとつヴィシュヌ神にちなみ、法名で最高級の品格を表すマハヴィシュヌ=偉大なるヴィシュヌ神と名にしたグループ、マハヴィシュヌ・オーケストラのセカンドアルバム。そのアルバムは前作の『内に秘めた炎』から、様々なフェスティバルやツアーを経て、グループアンサンブルとしての密度や精度が増した驚愕ともいえる超絶技巧のアルバムとなっている。ジャズロックとしては異例のアメリカビルボード200のランキング中で15位にランクインし、数多くのジャズロックアルバムの中でも最高傑作として名高い名盤である。

 マハヴィシュヌ・オーケストラはギタリストであるジョン・マクラフリンを中心としたグループで、彼がイギリスにいた時代から結成の準備が進められていたという。具体的に結成に向けて大きく動き始めるのは、トニー・ウイリアムスの誘いでアメリカに渡り、マイルス・デイビスと出会ったことがきっかけである。彼はマイルス・デイビスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』の録音に参加し、続く『ビッチェズ・ブリュー』にもキーメンバーとして加わるなどして、突如としてアメリカの音楽シーンにその姿を現すことになる。1970年にデビューするマハヴィシュヌ・オーケストラは平たく言えば、マイルス・デイビスの人気にうまく乗じて結成されたものであり、当然のごとくアメリカの音楽シーンで大きなセンセーショナルを巻き起こしていくことになる。

 

 渡米してできるだけ早くグループ結成に動いたのは、ジョン・マクラフリン自身が当時インド哲学に深い関心を寄せていて、師事していたヒンドゥー教のグルであるシュリ・チンモイからマハヴィシュヌというという法名を授けられていたことで勇躍したのが大きいとされている。彼はマイルス・デイビスのレコーディングで知り合ったドラマーのビリー・コブハムを中心に添えて、エレクトリックヴァイオリンのジェリー・グッドマン、キーボードのヤン・ハマー、ベーシストのリック・レアードという凄腕のメンバーをそろえ、これが初代メンバーとして1971年8月にデビューアルバム『内に秘めた炎』が録音される。しかし、そのアルバムの録音中ではリック・レアードとジェリー・グッドマンの間にあったわだかまりがエスカレートし、なんと2人の喧嘩の間に入ったヤン・ハマーが殴られ、ヤン・ハマーが弾くキーボード上で取っ組み合いが行われる中で、ジョン・マクラフリンとビリー・コブハムがフルボリュームで演奏を続けていたという。そんなドタバタがあったにも関わらず、ジョンは出来上がりに大変満足し、曲の後半のビリー・コブハムのドラムソロにバッキングしている中は喧嘩していた3人を外に出して頭を冷やさせるなどして、ある意味、信じられない状況で録音を行っている。そんなデビューアルバムは全曲がジョン・マクラフリン自身が作曲を行い、弾けるような躍動感あふれる内容に新たなジャズロックの方向性を示した画期的なアルバムとして評価され、ビルボードのジャズロック部門で11位という快挙を達成する。

 

★曲目★

01.Birds of Fire(火の鳥)

02.Miles Beyond (Miles Davis)(マイルス・ビヨンド (マイルス・デイビス))

03.Celestial Terrestrial Commuters(天界と下界を行き交う男)

04.Sapphire Bullets of Pure Love(サファイア・バレット・オブ・ピュア・ラヴ)

05.Thousand Island Park(サウザンド・アイランド)

06.Hope(ホープ)

07.One Word(ワン・ワード)

08.Sanctuary(サンクチュアリ)

09.Open Country Joy(オープン・カントリー・ジョイ)

10.Resolution(リゾリューション)

 

 後に全米ツアーやプエルトリコのポップフェスティバルに参加して腕を磨いた彼らは、1972年9月から10月にかけてセカンドアルバム『火の鳥』の録音を開始するが、先のアルバム録音中にあったドタバタはどこに行ったのか5人はより結束し、大うねりを描きながら疾走感や躍動感を加えたエネルギッシュな作品になっている。その中でもジョン・マクラフリンがもたらしたギタリストとしての威容は凄まじく、ギブソンのダブルネック(SGの6弦と12弦とのダブルネック)ギターは、ジャズロックというジャンルを飛び越えるほどの斬新な衝撃を与えている。1曲目の『火の鳥』は、そんなジョン・マクラフリンの驚愕ともいえる旋律のギターが全編にあふれる名曲であり、2曲目の『マイルス・ビヨンド』はマイルス・デイビスをイメージして演奏されたジャズテイストの曲になっている。3曲目の『天界と下界を行き交う男』は、ロックっぽいアプローチの中でジェリー・グッドマンのエレクトリックヴァイオリンとジョン・マクラフリンのギターの掛け合いが聴きどころの曲であり、5曲目の『サウザンド・アイランド・パーク』は、ジョンの早弾きともいえるアコースティックギターにヤン・ハマーのキーボードが添えられた美しい曲になっている。6曲目の『ホープ』は叙情的なエレクトリックヴァイオリンから始まり、7曲目の『ワン・ワード』ではビリー・コブハムのドラムソロを中心にキーボード、ベース、ギターそれぞれが躍動するかように演奏されたグループ・アンサンブルとして密度が高い曲になっている。8曲目の『サンクチュアリ』は、静かなる曲の中でうめきに近いジョンのギターと蠢くようなメンバーの演奏が特徴の曲であり、9曲目の『オープン・カントリー・ジョイ』は、アメリカらしいヴァイオリンとキーボードを中心としたカントリーミュージックになっている。最後の曲の『リゾリューション』は、伸びやかなギターを中心とした演奏になっており、混沌とした時代の中で生き抜こうとする彼らの決意に近い楽曲になっている。

 マハヴィシュヌ・オーケストラの楽曲は、ジョン・マクラフリンのインド哲学で説かれる「幻想」が背景にあるものの、何らかの理論的な抑揚や筋道が求められてきたジャズ特有の形式をあっさり覆した作品であることは間違いないだろう。誰もがマイルス・デイビスのようなテイストを引き継ぐと思われた彼らの音楽は、ジョン・マクラフリンのトレードマークとなったダブルネックのエレキギターをはじめ、エレクトリックヴァイオリンやムーグシンセサイザーなど、ジャズには使われたことがない楽器を導入している点から見ても異彩を放っていたに違いない。それでも手段を選ばずアグレッシブに自分の理想とする音を模索し、ジャズテイストの即興演奏の中で前例の無いファンクやインド音楽、クラシカルな音楽まで幅広く取り入れたのが、本アルバムが最高傑作となった所以であるといえる。彼はジョン・コルトレーンやマディ・ウォーターズを聴いて育ち、ブルースやジャズを基本に、インド哲学の傾倒、そしてアメリカに及びつつあったプログレッシヴロックの波という要素を汲み取っている。そんなジョン・マクラフリンの独特の技法ともいえるギターと楽曲を中心としたマハヴィシュヌ・オーケストラの登場は、これまで続いていたアメリカの音楽シーンを大きく変えた痛快なグループのひとつとして今でも語り継がれている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はジャズロックシーンで傑作との呼び声が高いマハヴィシュヌ・オーケストラの『火の鳥』を紹介しました。それまではロックを中心に聴いていたので、ジャズ&フュージョンはまだ踏み入れていない未知の領域だったため、マハヴィシュヌ・オーケストラを聴いたのはずいぶん後になってからでした。プログレッシヴロックのカテゴリーから聴くとそれなりに親しみが持てますが、確かにジャズのカテゴリーから聴けばそれはそれは異様だったんだろうな~と想像できます。ジョン・マクラフリンのギターは、多くのロックギタリストにも影響を与えていて、特にダブルネックのギターを使いこなす彼の技巧的な奏法は、見た目だけではなく衝撃だったのだろうと思います。

 

 ジャズのことはあまり詳しくはありませんが、ジョン・マクラフリンが参加していたマイルス・デイビスのアルバム『ビッチェズ・ブリュー』は、調べてみると3人のキーボードとギター、ツインドラムとパーカッションという大編成のグループで演奏されたもので、その重厚なリズムとサウンドから1970年代のジャズシーンを決定付けた作品となっているそうです。マイルス自身もこれまでのジャズシーンには無かったロックやファンクの要素を取り入れ、新たな音楽を模索をしていたというのが面白いです。それだけ1960年代から1970年代にかけての音楽シーンはカオス的だったのだと物語っているように思います。とはいえ、ジョン・マクラフリンの音楽理論、すなわちマハヴィシュヌ・オーケストラの楽曲は、それよりさらに輪をかけてこれまでの音楽の道徳観が音を立てて壊れていくような斬新さと衝撃さがあったのだと考えられます。

 

 1972年録音という古典的なジャズ/フュージョンの作品ですが、今聴いてもまったく色褪せない素晴らしいアルバムです。とくにジョン・マクラフリンの超絶的なギタープレイは、ぜひ聴いてほしいところです。

 

それではまたっ!