【今日の1枚】arti+mestieri/Tilt(アルティ・エ・メスティエリ/ティルト) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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arti+mestieri/Tilt~Immagini Per Un Orecchio~

アルティ・エ・メスティエリ/ティルト

1974年リリース

イタリアのロックシーンを代表する

テクニカルグループのデビューアルバム

 「芸術家と職人」をグループ名にしたイタリア屈指のプログレッシヴ・ジャズロックグループ、アルティ・エ・メスティエリのデビューアルバム。元トリップを経た超絶ドラマーのフリオ・キリコを筆頭に、ヴァイオリンや管楽器を含む6人のメンバー構成されたそのアルバムは、テクニックが強調されているものの、豊かな歌心や柔らかなヴァイオリンやキーボードの音色など、シンフォニックな一面のあるジャズロックとなっている。南イタリアならではのラテン気質と泥臭さの中に気品あるバロックを組み入れた名盤誉れ高い1枚である。

 1960年末に英国で萌芽したサイケデリック/プログレッシヴロックのムーヴメントは、確実にヨーロッパ各国の音楽シーンに影響をもたらし、次々と新しいグループが誕生することになる。しかし、イタリアでは1960年代に映画音楽をはじめ、ドメニコ・モドゥーニョやジーノ・パオリ、ジリオラ・チンクェッティといったポップスターが世界的に活躍していた時代で、ロックミュージシャンは国内に数多く存在していたものの、国外で聴かれる機会は非常に少なかった。そんな状況を大きく変えたのが、1973年にエマーソン・レイク&パーマーが設立したマンティコア・レーベルから世界にリリースされたPFMのアルバム『Photos Of Ghosts(幻の映像)』だった。PFMの登場はこれまでのプログレッシヴロックとは異なるドラマティックで幻想的な作品であり、このアルバムをきっかけにイタリアン・ロックが注目され、バンコやレ・オルメ、イ・プーといったグループの作品が次々とリリースされることになる。そんな衝撃的だったPFMのアルバムがリリースされたわずか1年後に、クランプス・レーベルから新たなグループが誕生する。その名はアルティ・エ・メスティエリであり、デビューアルバム『ティルト』は、その超絶ともいえる演奏テクニックとハイセンスな楽曲でイタリアン・ロックのレベルの高さをまざまざと見せ付けた作品である。

 

 アルティ・エ・メスティエリは、元々はトリップというグループに在籍していたドラマーであるフリオ・キリコを中心としたグループで、1974年に北部の都市であるトリノで結成されている。フリオ・キリコ以外のメンバーにはジジ・ヴェネゴーニ(ヴォーカル、ギター)、ベッペ・クロべッラ(キーボード)、ジョヴァンニ・ヴィリアー(ヴァイオリン)、アルトゥーロ・ヴィターレ(サックス)、マルコ・ガッレージ(ベース)の6人編成となっており、それぞれが凄腕のテクニックのミュージシャンばかりである。その中でもずば抜けているのがドラマーのフリオ・キリコであり、彼の右に出る者はいないと言い切れるほど、神がかり的な手数の多さで有名なアーティストである。PFMの『Photos Of Ghosts(幻の映像)』のアルバムが幻想美を追求する作品であることに対して、アルティ・エ・メスティエリの『ティルト』のアルバムは、スリリングでアグレッシヴなジャズロックといえる。さらにヴァイオリンやサックス、メロトロンといった楽器を随所に盛り込み、よりドラマティックに演出している数々の楽曲から、ただのジャズロックグループではないことを示した画期的なアルバムでもある。

 

★曲目★

01.Gravit 9.81(重力9.81)
02.Strips(ストリップス)
03.Corrosione(侵食)
04.Positivo/Negativo(ポジティヴォ/ネガティヴォ)

05.In Cammino(歩きながら)
06.Farenheit(華氏)
07.Articolazioni(音節)
08.Tilt(ティルト)

 

 アルバムの1曲目の『重力9.81』は、アルティ・エ・メスティエリのテクニカルな演奏とジャズフィーリングが堪能できるナンバーだが、冒頭から唖然とするほどフリオ・キリコの凄まじいドラムが聴き取れる。この1曲目から5曲目の『歩きながら』まで組曲形式になっており、スピーディーでありながら緩急をつけた構成とめぐるましく展開されるフレーズは、聴く者の息をつかせる暇を与えない。それは単に高度なテクニックだけを披露したプレイではなく、計算されたようなヴァイオリンやサックス、そしてメロトロンの盛り込みがさらに楽曲に深みを与えている。ジャズでありながらどこかクラシカルな印象が感じられるのは、歴史あるイタリアならではの音楽の土壌から来たものだろうと考えられる。それだけ彼らの魅力が十分に息づいた楽曲となっている。6曲目の『華氏』は一転して叙情的なクラリネットを中心にしたナンバーであり、7曲目の『音節』は、プログレらしい13分を越える大曲であり、多彩な楽器による静と動のコントラストと複雑な展開が聴きどころの曲である。ここでもフリオ・キリコの神がかりともいえるドラミングが堪能できる。最後のタイトルナンバーである『ティルト』は、短いながらも現代音楽や実験音楽に通じるサイケデリックな曲であり、彼らのストイックなまでの音楽の手法と幅の広さを痛感できる内容になっている。

 アルティ・エ・メスティエリ=「芸術家と職人」というグループ名を体現した彼らの高密度のテクニックとメロディアスなフレーズは、イタリア音楽界だけではなく世界中に衝撃を与えることになる。日本では遅れて1977年にアルバムがリリースされ、イタリアンプログレ屈指の作品として現在でもその認識は変わらない。その衝撃が収まらない中、1975年にはセカンドアルバム『明日へのワルツ』がリリースされる。専任ヴォーカリストとして元プロセッションのジャンフランコ・ガザが加入したことでクオリティの高いヴォーカル曲が収録されるが、前作の『ティルト』に劣らない姿勢を貫いているだけではなく、アルバム全体の楽曲の構成やアレンジメントなどが充分に練られた密度の高い作品として仕上がっており、『ティルト』と並んで傑作の1枚となっている。

 

 こんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアンプログレでも屈指のグループ、アルティ・エ・メスティエリの『ティルト』を紹介しました。どちらかというとアルティ・エ・メスティエリのグループ名よりも、ドラマーのフリオ・キリコのほうがあまりにも有名なのではないかと思えるくらい馬鹿テク……もとい、驚異的なドラミングで知られるミュージシャンですよね。とにかく隙間があればすべてフィルインする手数の多さは、星の数ほどいるドラマーの中でもダントツで、しかもリズムに狂いが無いという凄さです。ドラムを経験している知り合いに聞いてみると、腕が4本ぐらいあるんじゃないの?と言われるほど、早いピッチの中で繰り出すスネアの数やハイアットの数が多すぎるといいます。このフリオ・キリコのドラミングだけでも本アルバムを聴く価値は十分にあると思います。

 

 さて、アルティ・エ・メスティエリは、セカンドアルバム『明日へのワルツ』をリリース後、1979年にサードアルバム『クイント・スタート』を発表してクランプス・レーベルから離れます。今度はフリオ・キリコが中心となってアウグスタからメンバーを変えつつも1983年に『アクアリオ』、1985年に『チルドレンズ・ブルース』と2枚のアルバムをリリースし、ジャズ・フュージョン色の強い作品を残します。その後はイタリア国内のライブ活動が中心となり、時代の波に飲まれるかのように消滅します。しかし、2001年にキリコ、ベッペ、ヴェネゴーニ、マルコのオリジナルメンバーを中心に復活し、16年ぶりに6枚目のアルバム『ムラレス』を発表します。このアルバムはストリングセクションを従えながらも複雑な楽曲を演奏するも、メンバーそれぞれがまったく衰えないテクニックを披露して多くのファンを感動させ、私も喜んだ1人です。磨きがかかるってこういうことなんだな~とつくづく思えてしまう素晴らしいアルバムです。

 

 イタリアンプログレは他にも好きなグループが多く存在しますので、機会があればどんどん紹介していこうと考えています。

 

それではまたっ!