【今日の1枚】U.K./U.K.(憂国の四士) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

U.K./U.K.

U.K./憂国の四士

1978年リリース

輝かしい経歴を持った4人のミュージシャンによる

70年代のプログレッシヴロックの歴史的名盤

 元ファミリー&キング・クリムゾンのジョン・ウェットン、元イエス&キング・クリムゾンのビル・ブルーフォード、元ソフト・マシーン&テンペストのアラン・ホールズワース、元カーヴド・エア&ロキシー・ミュージックのエディ・ジョブソンという偉大なプログレッシヴロックグループを渡り歩いてきた4人が結成したU.K.のデビューアルバム。プログレッシヴロックが下火になりつつあった1970年代後半において、誰にもまねできない高度なテクニックを打ち出し、変わりゆく時代に挑戦した1970年代最後の傑作と呼ばれている。1978年9月1日までに250,000枚超える売り上げを達成し、2015年のローリングストーン誌では本作を史上最高のプログレッシヴロックアルバムの30位に付けている。

 本アルバムがリリースされた1978年のロックシーンは、英国を中心としたパンク/ニューウェイブが主流であり、それまで主流だったプログレッシヴロックやハードロックは“オールドウェイブ”というレッテルを貼られた激動の時代であった。大きな理由は高度なテクニックを重視し、高価な機材を要する音楽よりも、誰もが手軽に演奏できる音楽を至上とする潮流に押されたからである。そんなパンクの台頭による音楽主義を跳ね除け、あえて誰も真似できない高度な演奏技術を打ち出し、時代に抗うかのように登場したのが、スーパーグループU.K.である。U.K.の登場は次々と解散の憂き目に遭い、音楽の方向性を変えざるを得なかった70年代末の“オールドウェイブ”のグループたちにとって、ひとつの希望だったに違いない。それだけ本アルバムは自分たちが長年作り上げてきた音楽技術の結晶であり、変わり行く時代への挑戦でもあった。

 

 メンバーは元ファミリー~キング・クリムゾン~ロキシー・ミュージック~ユーライア・ヒープと渡り歩いてきたジョン・ウェットン(ベース、ヴォーカル)、元イエス~キング・クリムゾン~ジェネシス~ナショナル・ヘルスと渡り歩いてきたビル・ブルーフォード(ドラム)、元テンペスト~ソフトマシーン~トニー・ウイリアムス・ライフタイム~ゴングと渡り歩いてきたアラン・ホールズワース(ギター)、元カーヴド・エアー~ロキシー・ミュージック~フランク・ザッパ・バンドを渡り歩いてきたエディ・ジョブソン(キーボード、ヴァイオリン)という歴戦の勇士たち4人であり、それぞれが超絶的な演奏テクニックに定評のあるアーティストである。U.K.が誕生するきっかけは、ロバート・フリップがキング・クリムゾンの解散を決めた1974年9月に遡る。残されたジョン・ウェットンとビル・ブルーフォードは新たなグループを作るために模索し、キーボーディストであるリック・ウェイクマンを誘ってキーボードトリオを計画したが頓挫。そんな中、ビル・ブルーフォードはアラン・ホールズワースがギターで参加するソロアルバム『Feels Good To Me』を制作することになる。一方のジョン・ウェットンはブライアン・フェリー率いるロキシー・ミュージックに加入し、美青年のエディ・ジョブソンと出会う。自身でも優れたシンガーソングライターであるジョン・ウェットンは、バックで演奏するだけのロキシー・ミュージックに嫌気をさし、キーボードとヴァイオリンをこなすエディ・ジョブソンを誘って再度グループ結成に向けて動き出すことになる。別行動していたビル・ブルーフォードは、自身のソロアルバムに参加していたアラン・ホールズワースを誘うことで4人が集結し、こうして1977年7月にU.K.が誕生することになる。

 

★曲目★

01.In The Dead Of Night(闇の住人)

02.By The Light Of DAY(光の住人)

03.Presto Vivance And Reprise(闇と光)

04.Thirty Years(若かりし頃)

05.Alaska(アラスカ)

06.Time To Kill(時空の中に)

07.Nevermore(ソーホーの夜)

08.Mental Medication(瞑想療法)

 

 アルバムのプロデュースはメンバー全員が行い、ジョン・ウェットンの叙情性のあるメロディとヴォーカル、ジャズ的要素の強いビル・ブルーフォードとアラン・ホールズワースのテクニック、若いながらもモダンなキーボードを使いこなすエディ・ジョブソンなど、かつてのプログレッシヴロックが育んできた高度なアンサンブルと、磨きかかったスタイリッシュな演奏が随所に聴き取れる。1曲目の『In The Dead Of Night(闇の住人)は、2曲目の『By The Light Of Day(光の住人)』、3曲目の『Presto Vivace And Reprise(闇と光)』と繋がっている組曲形式になっており、ドラマティックな展開ながらも独特のリズムとアンサンブルの中でジョン・ウェットンの威厳あるヴォーカルが冴える曲になっている。また、3曲目の中では競うように奏でられるエディ・ジョブソンのキーボードとビル・ブルーフォードのドラムは必聴の価値あり。4曲目の『Thirty Years(若かりし頃)』は、エディ・ジョブソンのシンセサイザー上で奏でられるアラン・ホールズワースのアコースティックギターが美しい曲になっている。5曲目の『Alaska(アラスカ)』は、レコード上でB面の最初にあたり、エディ・ジョブソンの作曲のインストゥメンタル曲から始まる。静粛で威厳のあるアラスカの地を表すような壮大な曲であり、6曲目の『Time To Kill(時空の中で)』に曲が移る瞬間のスリルはあまりにも素晴らしく、神懸かっているとさえ思えてしまう。この『Time To Kill(時空の中で)』の曲がアルバムの最高潮であり、ジョン・ウェットンのベースと力強いヴォーカルをはじめ、エディ・ジョブソンのエレクトリックヴァイオリンといった各メンバーの技量が凄まじい名曲になっている。7曲目の『Nevermore(ソーホーの夜)』は、アラン・ホールズワースのアコースティックギターの爪弾きから始まり、曲想が変わるとエレキギターになるなど、アランのギタリストとしての技巧が冴えた曲になっている。ラストの曲『Mental Medication(瞑想療法)』は、シンフォニック&プログレッシグロックながらも中間部にジャズフュージョン的な内容が盛り込まれた曲になっており、ビル・ブルーフォードの小刻みなドラム演奏が素晴らしく、ジョン・ウェットンも曲の内容に沿ったプレイを見せており、彼のベーシストとしての実力を再認識させる美しい名曲になっている。

 最後の曲の『Mental Medication(瞑想療法)』を聴き終えると、少しだけ悲壮感が漂ってしまう。それはプログレッシヴロックとジャズフュージョン的な両方の内容が盛り込まれた曲構成から、すでにグループの分裂の予感が脳裏に浮かんでしまうからだ。結果、アルバムのリリース後にジャズフュージョン志向を強めていたビル・ブルーフォードとアラン・ホールズワースは脱退してしまう。残ったジョン・ウェットンとエディ・ジョブソンは、新たにフランク・ザッパ・バンドでエディと共演したテリー・ポジオをドラマーとして迎え、1979年にセカンドアルバム『デンジャー・マネー』をリリースする。しかし、来日公演を収めたライブアルバム『Night After Night』を最後に、結局U.K.は3枚のアルバムを残して解散してしまうことになる。スーパーグループの宿命をまざまざと思い知ったアルバムだが、脱退したビル・ブルーフォードとアラン・ホールズワースは、『BRUFORD』を結成してよりジャズフュージョン色の強い演奏を目指し、エディ・ジョブソンはジェスロ・タルに参加し、やがてZINCやニューエイジ系の音楽を目指していく。ジョン・ウェットンはソロアルバムをリリースしつつ、さらに新たなグループを模索する。それが後のAISAに繋がっていくことになる。パンク/ニューウェイブの音楽シーンの影に再び埋もれた彼らだったが、決して自分たちの音楽性にあきらめてはいなかったことは、後の彼らの行動を見ていれば良くわかる。より細分化していくロックシーンの中で、きっと自分たちの目指す音楽に光が当たる時代が来ると信じつつ、70年代は終わりを告げて80年代を迎えることになる。

 

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。プログレッシヴロックの中での屈指の名盤ともいえるU.K.のファーストアルバムを紹介しました。後に80年代のグループであるAISAやイエスの再結成、新生クリムゾンなどネオプログレとしてロックシーンで活躍はしますが、はっきり言ってU.K.と後のグループとは一線を引いていて、U.K.こそ最後のプログレッシヴロックグループだと今でも思っています。それだけ過去のプログレッシヴロックの流れを継承しつつ、職人芸としてのテクニックやセンスがずば抜けています。それよりも邦題に『憂国の四士』とあるように、プログレッシヴロックの終焉の最中に誕生したスーパーグループとして持てはやされたことが、やや哀愁を好む日本人の感性に合ったんだろうと思います。彼らの超絶技巧の演奏は震えるほど素晴らしく感じる一方で、1曲1曲がどこかもの悲しく感じてしまうことがあります。それは、滅び行く歴史ある古城の中に最新鋭の技術を施し、攻め立てられながらもそれを守護する歴戦の戦士のイメージに近いからだろうと思います。そういう意味では、彼らが生んだU.K.というグループは決して討ち死にしたのではなく、彼らの意思を継ぐかのように後の様々なミュージシャンに影響を与えていくことになります。たとえば、ドイツでは叙情派プログレグループであるエニワンズ・ドーターやザ・フラワーキングスのトマス・ボディーン、アメリカではドリームシアターの各メンバー、ギタリストであるイングェイ・マルムスティーン、そしてアラン・ホールズワースを師と仰いでいるエドワード・ヴァン・ヘイレンなど、U.K.からの影響を公言しているミュージシャンは多くいます。彼らは大衆的な音楽とはかけ離れた技巧を好むミュージシャンであり、次世代に影響を与えた点から見ても本アルバムの歴史的価値は高いです。

 

 U.K.はその後、1995年あたりにジョン・ウェットンとエディ・ジョブソンを中心に新生U.K.を進めていましたが幻に終わり、10年後にエディ・ジョブソンがU.K.の後継バンドとして新ユニットのUKZを始動します。2011年にはエディ・ジョブソンとジョン・ウェットンを中心に、正式な再結成を果たしています。後に来日公演をはじめ、ドラマーのテリー・ポジオが加入したアメリカツアーを行ったり、プログレフェスティバルに参加したりするなど、積極的にライブ活動を行います。しかし、2017年にジョン・ウェットンが死去し、さらに同じ年にアラン・ホールズワースも続いて死去し、その影響からかエディ・ジョブソンは様々なライブ活動から引退することになります。個人的にジョン・ウェットンの死は、私自身がU.K.のSHM-CD版のアルバムを中古で購入した4日後の出来事であり、当時はものすごく衝撃を受けて、しばらく2人を偲びつつ聴いていたことを思い出します。

 

 そんな彼らが残した本アルバムは、歴戦の4人のミュージシャンが築いてきた音楽技術の結晶というべき作品です。硬質なサウンド好きにはたまらない1枚です。

 

それではまたっ!