【今日の1枚】Rick Wakeman/The Six Wives Of Henry Ⅷ | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Rick Wakeman/The Six Wives Of Henry Ⅷ

リック・ウェイクマン/ヘンリー八世の6人の妻

1973年リリース

キーボードの魔術師と呼ばれた

リック・ウェイクマンの初ソロアルバム

 当時、人気絶頂だったロックグループ、イエスのキーボーディストであり、彼の天才的な鍵盤裁きから“キーボードの魔術師”と呼ばれる所以となったリック・ウェイクマンの初ソロアルバム。16世紀英国チューダー朝のヘンリー8世が娶った6人の王妃を描いたコンセプト作である本アルバムは、イギリス本国では1973年1月19日にリリースされ、英「NME」紙のアルバムチャートにおいて最高位6位となり、またアメリカ「ビルボード」紙のアルバムチャートでは最高位30位という輝かしい成績を収めている。プログレッシヴロックが華やかだった70年代とはいえ、一介の鍵盤弾きがソロアルバムを制作して成功するのはかなり稀であり、それだけリック・ウェイクマンというキーボーディストがいかに抜きん出ていた存在だったかが良く分かる。また、本アルバムもコンセプト、テクニック、メロディが素晴らしく、知性すら感じられる名盤としていまだにプログレッシヴロックのファンを魅了してやまない作品である。

 リック・ウェイクマンはピアニストだった父の影響で6歳からピアノを弾いており、その上達ぶりから将来はコンサートピアニストになること決めていたらしい。しかし、ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックに入学したものの、自分は教職に向いていないと自覚して学校を辞めている。地元のローカル・バンドに参加しつつ、レコーディング・セッションの仕事を数多くこなしているうちに、トニー・ヴィスコンティやデニー・コーデル、ガス・ダッジョンといった名プロデューサーの下で働くようになる。多いときは月に18件もののレコーディングを行い、60年代末から70年代初めにはデヴィッド・ボウイやT・レックス、アル・スチュワート、ルー・リード、エルトン・ジョン、ブラック・サバスといったアーティストのレコーディング・セッションに参加し、その数は1,800曲に及んでいる。リック・ウェイクマンが表舞台に出るのは、トニー・ヴィスコンティがプロデューサーを務めるストローブスというグループのアルバム『ドラゴンフライ』へのゲスト参加をしたのを機に、グループの正式メンバーとなったことである。クイーン・エリザベス・ホールでライヴ・レコーディングを行ったストローブスの『骨董品』(1970年)のアルバムは、彼らの人気を決定付ける大ヒットとなり、華麗なピアノソロを披露したリック・ウェイクマンの名も知られるようになる。そして『魔女の森から』のアルバムをリリースした1971年末、リックはストローブスを脱退してしまう。理由はリックの活躍ぶりを耳にしたイエスのスティーヴ・ハウとクリス・スクワイアからヘッドハンティングされたためである。最初は断っていたが、2人からの熱心な説得に折れたリックは、トニー・ケイの後釜として正式加入し、イエスのメンバーとなる。本アルバムの制作はイエスのアルバム『こわれもの』のツアーと『危機』のレコーディングの合間を縫うように行われており、ロンドンのトライデント・スタジオとモーガン・スタジオの両方が使用されている。

 

 メンバーはイエスからクリス・スクワイア(ベース)、アラン・ホワイト(ドラム)、ビル・ブルーフォード(ドラム)、スティーヴ・ハウ(ギター)が参加しており、ストローブスからはディヴ・カズンズ(バンジョー)、チャス・クロンク(ベース)、ディヴ・ランバート(ギター)、マイク・イーガン(ギター)、レイ・クーパー(パーカッション)が参加している。また、リック・ウェイクマン自身もスタンウェイのグランドピアノやハモンドオルガン、エレクトリックピアノ、ハープシコード、ミニモーグ、メロトロン(400D)といった鍵盤楽器を弾いている。ずらり並ぶ最新鋭の鍵盤楽器の中央に立つリックの写真を見て、そのスタイルに衝撃すら覚えてしまうほどである。

 

★曲目★

1.Catherine of Aragon(アラゴンのキャサリン)
2.Anne of Cleves(クレーグのアン)
3.Catherine Howard(キャサリン・ハワード)
4.Jane Seymour(ジェーン・シームーア)
5.Anne Boleyn/The Day Thou Gavest Lord Hath Ended(アン・ブーリン)
6.Catherine Parr(キャサリン・パー)

 

 アルバムの1曲目は最初の妻である『アラゴンのキャサリン』は、元々加入したイエスの『こわれもの』のアルバムに使用するはずだったが、ソロ契約(A&M)の関係で本アルバムに使用した経緯がある。2曲目の『グレーグのアン』は、ブルーノートにモード、ラテンの名曲エル・クンバンチェロの一節を挿入しており、ブルフォードの正確無比なドラミングとの相性が良いジャズ風のナンバー。3曲目の『キャサリン・ハワード』は、カントリー調のフレーズとモーグのシンセサイザーとの様式美が美しく、優雅なイメージに満ちたナンバー、4曲目の『ジェーン・シームーア』は、バッハのトッカータを連想するようなパイプ・オルガンの独奏で、格調高いバロック風の演奏を聴かせてくれる。5曲目の『アン・ブーリン』は、アメリカ音楽的なホンキートンク・ジャズの要素を入れており、リックの幅広い音楽性を気付かせてくれるナンバーであり、最後の『キャサリン・パー』は、ハードロック的でありながらもハモンドオルガンなどのキーボードを前面に立ててドラマティックに演奏している。

 各曲それぞれクラシック、ロック、ジャズ、教会音楽などが融合された内容でありながら、メロディを奏でる楽器が雄弁に物語った傑作であることは間違い無い。ロック的なビートが強いナンバーもあり、イエスの『こわれもの』や『危機』を思わせるサウンドが随所に展開されている。また、各曲でのウェイクマンのアドリブプレイは緻密であり、スリリングなジャズ的なプレイを垣間見せている。こういった様々な音楽を独自に解釈してレベルの高いアレンジができているのは、楽器を知り尽くしていることは元より、過去の豊富なセッションの経験が大きい。ドラマティックな運命を辿った6人の王妃という刺激的な題材と、イエス、ストローブスという腕利きのメンバーに囲まれて作られた本作は、キーボーディストとしての情熱だけではなく、クリエイターとしての想像力を見せ付けたリック・ウェイクマンの理知的なアーティスト性すら感じさせる重要な作品である。

 

 こんにちはそしてこんばんわです。今回はリック・ウェイクマンの初ソロアルバムの『ヘンリー八世の6人の妻』を紹介しました。リック・ウェイクマンといえば、大変な読書家でも知られており、今回のアルバムのタイトルにある『ヘンリー八世の6人の妻』は、イエスのアルバム『こわれもの』のプロモーションを行うアメリカツアーの最中に、アメリカヴァージニア州リッチモンドの空港で購入した『ヘンリー八世の私生活』(N.ブライソン・モリソン著)のアン・ブーリンの章を読んだことがきっかけだと言われています。読んでいるうちにヘンリー八世の妻たちをめぐるコンセプトアルバムのアイデアが思い浮かんだというから、その想像力は大したものです。中央集権体制を確立して絶対主義政治の成功者といわれているヘンリー八世ですが、リックが目をつけたのはヘンリー八世本人ではなく、数奇な運命をたどった妻たちというのが面白いです。ヘンリー八世は6人の妻を娶り、中には結婚をしたその年に離縁を言い渡したり、処刑をしてしまった妻もいたそうです。実はまだこの書籍は読んだことがないので、日本語版を一度目にしてみたいと思っています。

 

 さて、本アルバムですが、個人的に数あるキーボディストのソロアルバムの中でも一番好きな作品で、今でも聴き惚れています。華麗なオルガンや厳かなチェンバロなどクラシカルなムードをメインにしつつも、6人の妻たちの性格やエピソードをちゃんと表現しているところが素晴らしいです。また、リック・ウェイクマンの完璧に制御された演奏に目が行きがちですが、最後の曲の『キャサリン・パー』は、ビル・ブルーフォードの正確無比なドラム演奏に後押しされているのが分かります。それだけリック自身が曲ごとに配置した演奏者の適材適所がかなっているんだなあと感心してしまいます。名盤中の名盤なので一度は聴いている人も多いと思われますが、プログレッシヴロックをこれから聴いてみたいという人にはぜひ薦めたい1枚です。

 

それではまたっ!