【今日の1枚】Annie Haslam/Annie In Wonderland | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Annie Haslam/Annie In Wonderland

アニー・ハズラム/不思議の国のアニー

1977年リリース

英国プログレグループ、ルネッサンスを支えた

アニー・ハズラムの記念すべき初ソロアルバム

 1970年代の英国プログレッシヴロックの一翼を担うルネッサンスの歌姫であるアニー・ハズラムの初ソロアルバム。当時ウィゾ・バンドを結成していたロイ・ウッドが全面参加しており、楽曲提供からジャケットアートを手掛けている。アニーが仕事や私生活共に充実していた時期に発表されたアルバムで、5オクターブを誇る声域を活かした楽曲だけではなく、彼女のいじらしいほどの愛が感じられた傑作となっている。

 フォークロックにクラシック音楽を加味したサウンドで定評のあったグループ、ルネッサンスは、相次ぐメンバーの脱退により、セカンドアルバム『Illusion(幻想のルネッサンス)』をリリース後、ほぼ解散状態に陥っていた。そんな中、新メンバーを集めるべく、1971年1月にマイケル・ダンフォードをはじめとした残ったメンバーによるヴォーカル・オーディションを行い、応募してきた23歳の女性が見事リードヴォーカリストとして迎えられる。その女性ヴォーカリストこそ、アニー・ハズラムである。ルネッサンスの一員となったアニーは、その5オクターブという声域を活かした美しい歌声でグループを一躍スターダムにのし上げ、ブリティッシュロック界にとどまらず、世界中のリスナーに愛された女性ヴォーカリストである。

 

 本アルバムはルネッサンスの7枚目のアルバム『Novella(お伽噺)』と8枚目のアルバム『A Song For All Seasons(四季)』との間にリリースされたものである。プロデューサーはエレクトリック・ライト・オーケストラやウィザードで活躍したマルチプレイヤーのロイ・ウッドが担当しており、彼はアニーの婚約者であった。この時期はグループの活動はもとより、アニーの私生活でも最も充実していた時期であり、今回のソロアルバムの制作には本人の意向だけではなく周囲の働きが大きかったように思える。ロイ・ウッドはアニー・ハズラムの初ソロアルバムにプロデュースだけではなく、全曲の大部分の楽器を演奏している。また、ジャケットのアートワークもロイ・ウッドが手がけており、「不思議の国のアリス」をモチーフに描かれている。

 

★曲目★

01.Introlise/If I Were Made of Music(イントロリーズ/私が音楽でできていたら)

02.I Never Believed In Love(愛への疑い)

03.If I Loved You(もしも貴方を愛したら)

04.Hunioco(フニオコ)

05.Rockalise(ロッカリーズ)

06.Nature Boy(ネイチャー・ボーイ)

07.Inside My Life(インサイド・マイ・ライフ)

08.Going Home(家路)

 

 アルバムの1曲目の『Introlise/If I Were Made Of Music(イントロリーズ/私が音楽でできていたら)』は、アカペラによるイントロからホーンセクション、アコースティックギターやマンドリンといった多彩な楽器とシンセサイザーが絡まる曲で、作曲はルネッサンスのメンバーであるジョン・キャンプが担当している。2曲目の『I Never Believed In Love(愛への疑い)』は、ロイ・ウッドが作曲しており、ロイとアニーのデュエットに近い歌声が聴ける極上のポップの曲になっている。3曲目の『If Loveed You(もしも貴方を愛したら)』は、ミュージカル音楽の大御所である作曲家リチャード・ロジャースと、作詞家のオスカー・ハマースタイン2世による1945年に発表した『回転木馬』の劇中歌である。マンドリンを中心としたオーケストレイションとしっとりと歌い上げるアニーの美声が聴きどころになっている。4曲目の『Hunioco(フニオコ)』は、ロイ・ウッドが手がけたカリビアンリズムを取り入れた曲になっており、アフリカンドラムが南国的な雰囲気を感じさせてくれる。5曲目の『Rockalise(ロッカリーズ)』は、アニーの美しいスキャットが全編にあふれる曲になっており、ロイ・ウッドが作曲している。アニーの5オクターブという声域が溜息が出るほどクラシカルな演奏の中で響き渡っている。6曲目の『Nature Boy(ネイチャー・ボーイ)』は、1908年のシンガーソングライター、エデン・アーべの代表曲で、1947年にナット・キング・コールが歌ったことで有名になり、様々なアーティストがカヴァーしている曲である。哀愁のあるメロディをエレクトリックシタールとアニーの美しいヴォーカルで歌いきっている。7曲目の『Inside My Life(インサイド・マイ・ライフ)』は、再度ジョン・キャンプの曲であり、軽快なドラミングとギターを中心に、時折鳴り響くホーンセクションが際立ったポップな曲になっている。最後の曲である『Going Home(家路)』は、名曲であるドヴォルザークの『新世界より』であり、ドヴォルザークの弟子であるウイリアム・フィッシャーが英語の歌詞を付けたものをアニーが歌い上げたものである。クラシック曲でも真摯に向き合うアニーのヴォーカルが、センチメンタルに胸を熱くさせる1曲となっている。

 1曲1曲のタイトルを見て分かるとおり、本アルバムはロイ・ウッドとの音楽の絆で結ばれた愛にあふれた曲になっており、ルネッサンスの一連の作品とはまた違った親しみやすい内容になっている。それよりも、一番大きいのはアニー・ハズラムの伸びやかな美声を改めて気づかされてしまうほど、素晴らしい楽曲が並んでいることだ。アニー・ハズラムは9枚のソロアルバムをリリースしているが、どれもクラシック要素やカヴァー曲を取り入れては、自分のスタイルで歌い上げている。そんな本アルバムはアニーの歌唱力を引き出そうとするロイに対して、どんなジャンルでも歌ってみせるというアニーのいじらしいほどの意気込みが強く感じられてしまう。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はルネッサンスの歌姫のアニー・ハズラムのファーストソロアルバム『不思議の国のアニー』を紹介しました。ルネッサンスはアルバム『燃ゆる灰』と『運命のカード』、『シェエラザード夜話』が大好きで、フォークをベースにクラシックアレンジが利いた曲に惚れ込んだものです。それよりもアニー・ハズラムの透き通った美しい声が素晴らしく、今でもカレン・カーペンターに次ぐ、好きな女性ヴォーカリストの1人となっています。

 

 さて、本アルバムですが、プロデューサーには恋人であり婚約者でもあるロイ・ウッドが担当していますが、これが愛という名の絆かっ!と言わんばかりのアニーの歌唱力を引き出しつつ、本家のルネッサンスにも通じる楽曲にアレンジしているのはさすがと思ったものです。ロイが提供した楽曲の中で、アニーの5オクターブの声域(スキャット)が堪能できる5曲目の『Rockalise(ロッカリーズ)』なんて、聴いていて鳥肌が立つほどです。神々しさすらあります。でも、ちゃんとポップな曲としてすんなり頭に入ってくるんですから不思議です。

 

 アメリカのアルバムチャートでは167位と決して高い評価が得られた作品ではありませんが、プログレッシヴロックファンの間ではアニー・ハズラムとロイ・ウッドという類い稀な2人が作り上げた奇跡に近いアルバムということで必聴のアイテムとなっています。また、本家のルネッサンスもパンク/ニューウェイブの時代の流れに逆らうことができず、流行に合わせたグループになっていく中、初期のルネッサンスの音楽性をつなぎとめたアルバムとして評価されているようです。

 

それではまたっ!