【今日の1枚】Turning Point/Creatures Of The Night | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Turning Point/Creatures Of The Night
ターニング・ポイント/クリエチュアーズ・オブ・ザ・ナイト
1977年リリース

透明感あふれるサウンドが魅力の
メロディアスなジャズフュージョン

 アイソトープを脱退した元ニュークリアスのベーシストであるジェフ・クラインが、キーボード奏者のブライアン・ミラーと共に結成したターニング・ポイントのファーストアルバム。そのサウンドはギターレスでありながら、エレクトリックピアノや女性のスキャットをフィーチャーした透明感あふれるジャズロックとなっており、初期のリターン・トゥ・フォーエヴァーやウェザー・リポートといったニューエイジ、フュージョン寄りの作品になっている。ジェフ・クラインがジャズやカンタベリーミュージックシーンを踏襲してきた経験が楽曲の中で随所に見られ、より洗練されたメロディアスなジャズロックとして後年高く評価されている。

 ターニング・ポイントは、1976年にベーシストであるジェフ・クラインが、アイソトープのファーストアルバムをリリース後、共に脱退したキーボード奏者のブライアン・ミラーと結成したグループである。元々、ジェフ・クラインは、1969年にジャズトランペット奏者のイアン・カーが、カール・ジェンキンスやクリス・スペディング、ジョン・マーシャルなど、当時新鋭のジャズミュージシャンを集結させて結成したニュークリアスのベーシストである。彼は1971年の3枚目のアルバム『ソーラー・プレクサス』で脱退してしまうが、英国ジャズ特有の繊細さをロック的なアプローチで表現した初期のニュークリアスのアルバムに参加している。ジェフは1972年にキーボード奏者であるアラン・ゴーウェンが結成したギルガメッシュに参加。しかし、1973年1月のデビュー公演でギタリストのゲイリー・ボイルによって結成したアイソトープに参加するために急遽脱退。代理にリチャード・シンクレアが参加したが、しばらくの間ギルガメッシュの不安定なラインナップが続くことになる。そんな彼だったが、1975年にリリースされるギルガメッシュのデビューアルバムのレコーディングには数曲参加している。アイソトープに参加したジェフはその技巧的なベースプレイでデビューアルバムに貢献したが、その後にメンバー同士で衝突。彼はアイソトープのキーボード奏者だったブライアン・ミラーを引き連れて脱退することになる。ジェフはブライアンと共に新たなグループを結成するために、最初に女性ジャズシンガーであるペピ・レマーに声をかけている。その後、サックス奏者のディヴ・ティドボール、ドラマーのポール・ロビンソンをメンバーに加えて、ジャズロックグループであるターニング・ポイントを1976年に結成する。作曲はブライアンが主に作成し、そのデモテープを基に1974年に設立したばかりのレーベル、ガル・レコードと契約している。エンジニアにリンジー・キッド、ミキシングにマーティン・レヴァンを迎えてレコーディングを行い、セルフプロデュースによるデビューアルバム『クリエチュアーズ・オブ・ザ・ナイト』を1977年にリリースする。そのアルバムはギターレスでありながら、美しいエレクトリックピアノやサックスを加えたメロウなフュージョン&ジャズロックとなっており、何よりもジェフ・クラインのベースラインが素晴らしいアルバムとなっている。

★曲目★
01.My Lady C(マイ・レディ・C)
02.The Journey(ザ・ジャーニー)
03.Vanishing Dream(ヴァニシング・ドリーム)
04.Creatures Of The Night(クリエイチュアーズ・オブ・ザ・ナイト)
05.Princess Aura(プリンセス・オーラ)
06.Rain Dance(レイン・ダンス)
07.Better Days(ベター・デイズ)

 アルバムの1曲目の『マイ・レディ・C』は、ジェフのゆったりしたベースのリードから入る美しいナンバー。表現こそソフトタッチだが、ベースの存在感が強いところがポイントである。ペピのスキャットとディヴのサックスの共演は心が洗われるようである。2曲目の『ザ・ジャーニー』は、伸びやかなペピのスキャットと歌うようなサックスが美しい楽曲。後半はブライアンによるソロピアノがリードするアンサンブルが素晴らしい。3曲目の『ヴァニシング・ドリーム』は、シンセサイザーと軽快なドラミングによるコミカルな楽曲。テクニカルな中にもユーモアが息づいているところはカンタベリーに身を置いたからだろう。4曲目の『クリエイチュアーズ・オブ・ザ・ナイト』は、ブライアンのピアノやキーボードを中心に、ペピのスキャットとディヴの滑らかなサックスとのアンサンブルが聴きどころの曲になっている。とくにペピのスキャットとディヴのサックスの入り方が面白い部分があり、彼らのやや抑え気味のユーモアが見え隠れしている。オーソドックスなスタイルながらもロマンティックで躍動感あふれる作風になっている。5曲目の『プリンセス・オーラ』は、リズムを中心としたカンタベリーミュージック風味の楽曲。後半は人を食ったようなエレクトリックピアノ主導の痛快なアンサンブルとなる。6曲目の『レイン・ダンス』は、ベースとエレクトリックピアノを中心としたファンキーな楽曲。落ち着いた雰囲気となっているが妙に緊迫感がある内容である。7曲目の『ベター・デイズ』は、エレクトリックピアノとサックスがリードしたナンバーとなっており、ニュークリアスやソフト・マシーンを彷彿とさせるスリリングな楽曲になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ジャズロックやカンタベリーシーンを渡り歩いてきたジェフ・クラインと、これからの時代を見据えたかのようなエレクトリックピアノを中心としたキーボードを華麗に弾きこなすブライアン・ミラーによる大人のジャズフュージョンになっていると思える。それぞれの楽曲はテクニカルでありながら非常に繊細であり、その淡い抒情のようなサウンドはアメリカには無い英国ならではのジャズロックを示している。

 ターニング・ポイントは本アルバムの翌年にセカンドアルバム『Silent Promise(暗黙の契り)』をリリースするものの、マイナーレーベルであるガル・レコードの影響もあってかあまり注目されず、2枚のアルバムのみ残して解散してしまう。それでも1977年からイギリス国内で精力的にツアーを行い、解散前の1980年の最後のツアーには、ギタリストのアラン・ホールズワースとジャズコンポーザーであるニール・アードリーが参加している。ジェフ・クラインは解散後、ジャイルズ・ファーナビーズ・ドリーム・バンドに加わり、古楽を中心としたトラディショナルミュージックに貢献。その後はドラマーのトレヴァー・トムキンスと共にセッションミュージシャンとして活躍することになる。2000年代も様々なジャズミュージシャンとコラボレーションを行ってきたジェフ・クラインだったが、2009年11月16日に心臓発作で他界している。その3年後の2012年にエア・メイル・アーカイブより本アルバムが紙ジャケリマスター化され、1970年代の作品とは思えない、彼らの洗練されたジャズロックが陽の目に当たることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1970年代とは思えない繊細なジャズロック&フュージョンを堪能できるターニング・ポイントのファーストアルバム『クリエイチュアーズ・オブ・ザ・ナイト』を紹介しました。ちなみにキッスの1982年のアルバム『クリエイチュアーズ・オブ・ザ・ナイト(暗黒の神話)』ではないのであしからず(笑)。本アルバムとセカンドアルバムの2枚組みとなったCDを持っていたのですが、紙ジャケで発売されていたのですね。アイソトープがらみで入手したのですが、ギタリストのクレジットが無いところを見ると、ジェフとブライアンのジャズロックとしての方向性がアイソトープとまったく違うことがこのアルバムから良く分かります。アルバム全体としてはフュージョン寄りの楽曲がメインとなっていますが、テクニカルな演奏の中にときおり魅せるユーモアや叙情性は、かつて在籍していたギルガメッシュの影響かな?と思えるところがあります。さらに女性ヴォーカルであるペピ・レマーの透明感あふれるスキャットとブライアンのポイントを突いたリリカルなキーボードは、少しだけハットフィールド&ザ・ノースを意識しているような気もします。それでも美声女性ヴォーカルと滑らかなサックスを加えた本アルバムは、シャープかつ無駄のない洗練されたアンサンブルになっていて、猛者がひしめくイギリスのジャズロック界の中にあっても高いクオリティを誇る傑作だと思います。

 さて、ターニング・ポイントと契約したレーベルのガル・レコードは、デレク・エヴェレット、モンティ・バブソン、デヴィッド・ハウエルズによって1974年に設立した新進気鋭のレーベルです。アイソトープやセブンス・ウェイヴ、クラーン、アルバトロスといったハードロック、プログレッシヴロック、ジャズロックといった幅広いジャンルを扱うレーベルですが、イギリスのメタルグループであるジューダス・プリーストも契約した“いわくつきの”レーベルでもあります。たしか当初はグループ側に不利な契約内容だったために、受け取るギャラは一ヶ月にわずか50ポンドしかなく、メンバーはアルバイトをしたり、生活保護を受けるなどしていたらしいです。レーベルによって左右するアーティストは多々ありますが、1977年といえばイギリスはパンク/ニューウェイヴ真っ盛りということで、ハードロックやプログレッシヴロックはおろかジャズ&フュージョンも淘汰される難しい時代だったということです。その中でもジューダス・プリーストはその後、世界的に知名度のあるヘヴィメタルグループとして成功していくんですから、改めて凄いのひと言です。

 ターニング・ポイントはディヴ・ティドボールのサックスとジェフ・クラインのベースラインが素晴らしく、アルバム全体が落ち着いた雰囲気のある、まさに正統派のフュージョン&ジャズロックです。ぜひ、1970年代とは思えない彼らの残したジャズアンサンブルを聴いてほしいです。

それではまたっ!