【今日の1枚】Caravan/In The Land Of Gray And Pink | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Caravan/In The Land Of Gray And Pink
キャラヴァン/グレイとピンクの地
1971年リリース

初期カンタベリーミュージックを確立させた
キャラヴァンの記念碑的なサードアルバム

 ソフト・マシーンと共にカンタベリーミュージックの中心的な役割を担ってきたキャラヴァンが、1971年にリリースしたサードアルバム。そのサウンドはファズオルガンを得意とするディヴ・シンクレアと従兄弟のリチャード・シンクレアの甘いヴォーカルによるポップな色合いが強いジャズロックになっており、前作で確立された個性が本作でさらに完成された初期のカンタベリーミュージックの最高峰の作品となっている。デッカ傘下の新レーベルであるデラムのSDL-R番号における最初の作品となった記念すべきアルバムであり、後にアメリカのローリングストーン誌が挙げた史上最高のプログレッシヴロックアルバム50枚のうち34位に付けた歴史的名盤である。

 キャラヴァンは1968年に結成されたグループだが、その母体はカンタベリーシーンで重要な存在として知られるワイルド・フラワーズである。ワイルド・フラワーズは1964年にブライアン・ホッパー(サックス)、ヒュー・ホッパー(ベース)、リチャード・シンクレア(ヴォーカル、ベース)ケヴィン・エアーズ(ヴォーカル)、ロバート・ワイアット(ヴォーカル、ドラムス)によって結成され、後にメンバーチェンジを経てディヴ・シンクレア(キーボード)、パイ・ヘイスティングス(ヴォーカル、ギター)、リチャード・コフラン(ドラムス)が加わりながら活動をしてきたグループである。しかし、先に脱退したケヴィン・エアーズとロバート・ワイアットはソフト・マシーンを結成し、そこにヒュー・ホッパーが加わったことで、1967年にワイルド・フラワーズは活動を停止。キャラヴァンはその残ったメンバーによって結成されたグループである。キャラヴァンはソフト・マシーンと同様に、UFOクラブやミドルアースといったサイケデリック&アンダーグラウンドクラブでギグを行うようになり、一定の知名度を上げるようになるが、シンガーソングライター兼プロデューサーのトニー・コックスという人物と出会うことで大きく運命が変わることになる。キャラヴァンは彼を通じて英国に進出してきたばかりのアメリカのジャズレーベル、MGM/ヴァーヴとの契約に成功し、コックスがプロデュースを担当したデビューアルバム『キャラヴァン』を1968年にリリースすることになる。しかし、リリースして1ヵ月も経たないうちにMGM/ヴァーヴはイギリス部門の閉鎖を発表し、アルバムの出荷も止まるという不運に見舞われたことでグループの解散も考えたという。途方に暮れていたメンバーはそれでもライヴを続けつつ、新たにテリー・キングというマネージャーと契約し、ワーナーをはじめとした様々なレコード会社と交渉している。最終的にデッカレコードと契約することになるが、きっかけはロンドンのライシーアム・シアターで演奏するキャラヴァンを見ていたデッカレコードのアート部門の従業員だったデヴィッド・ヒッチコック(後にジェネシス、ピンク・フェアリーズ、キャメルをプロデュース)が上司に勧めたのが理由とされている。そして1969年9月にロンドンのダルストンのタンジェリンスタジオでレコーディングを開始し、1970年9月にテリー・キングとグループの共同プロデュースによるセカンドアルバム『キャラヴァン登場』をリリースする。

 彼らはカレッジツアーの人気グループとなり、多くのギグを行うようになった一方、カンタベリー近郊のケン州のウィットステイブルにあるテラスハウスで共同生活をしながら新たな曲を書きためている。やがて1970年11月から1971年1月までの3ヵ月間をかけてロンドンのエアースタジオとデッカスタジオの両方を利用して次なるアルバムのレコーディングを行っている。プロデュースにはキャラヴァンをデッカに推し進めたデヴィッド・ヒッチコックが担当し、エンジニアには後にブライアン・フェリーやジャパンをプロデュースするジョン・パンターが担当。こうしてディヴ・シンクレア(キーボード)、パイ・ヘイスティングス(ヴォーカル、ギター)、リチャード・シンクレア(ベース、ヴォーカル)、リチャード・コフラン(ドラムス)のオリジナルメンバーと、ゲストにジミー・ヘイスティングス(サックス、フルート、ピッコロ)、ジョン・ビーチャム(トロンボーン)、デヴィッド・グリンステッド(効果音)を加えて、1971年4月にサードアルバムとなる『グレイとピンクの地』がリリースされる。そのアルバムはデッカ傘下に設立されたプログレッシヴ・レーベルであるデラムのデラックスシリーズ(ゲイトホールドジャケット仕様)の1番目となるSDL-R1のレコード番号が付けられた記念すべき作品である。

★曲目★
01.Golf Girl(ゴルフ・ガール)
02.Winter Wine(ウインター・ワイン)
03.Love To Love You(ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー)
04.In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)
05.Nine Feet Underground(9フィートのアンダーグラウンド)
 a.Nigel Blows A Tune(ナイジェル・ブロウズ)
 b.Love's A Friend(愛は友達)
 c.Make It 76(メイク・イット 76)
 d.Dance Of The Seven Paper Hankies(7枚の紙ハンカチ踊り)
 e.Hold Grandad By The Nose(おじいちゃんの鼻をつまめ)
 f.Honest I Did!(オネスト・アイ・ディド!)
 g.Disassociation(分離)
 h.100% Proof(100%プルーフ)
★ボーナストラック★
06.I Don’t Know Its Name(アイ・ドント・ノウ・イッツ・ネーム)
07.Aristocracy(貴族)
08.It’s Likely To Have A Name Next Week(イッツ・ライクリー・トゥ・ハヴ・ア・ネーム・ネクスト・ウィーク)
09.Group Girl(グループ・ガール)
10.Disassociation/100% Proof~New Mix~(貴族/100%プルーフ~ニュー・ミックス~)

 アルバムはレコードでいうA面にポップな曲を配置し、B面に22分に及ぶロックとジャズの類まれなる組曲を収録している。アルバムの1曲目の『ゴルフ・ガール』は、ジョン・ビーチャムのトロンボーンとジミー・ヘイスティングスのフルートをフィーチャーしたヴォーカル曲。ザ・ビートルズを彷彿とさせるようなポップなメロディと、何よりもリチャード・シンクレアの癒しにも似たヴォーカルが素晴らしい。2曲目の『ウインター・ワイン』は、リリカルなアコースティックギターの音色とリチャード・シンクレアの甘いヴォーカルからはじまり、タイトなリズムに乗せたポップな内容に変化する楽曲。バックのファズを効かせたディヴのキーボードと繊細なコフランのドラミングの存在感はさすがである。3曲目の『ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー』は、パイ・ヘイスティングが作曲したブリティッシュ風のポップな楽曲。リズミカルなオルガンと共に歌う親しみやすいピュアなヴォーカルが耳に残るが、後半には瑞々しいフルートが曲に彩りを与えている。4曲目の『グレイとピンクの地』は、リチャード・シンクレアのヴォーカルが冴えた牧歌的なフォークロック。まるでカンタベリーの田園風景を映し出したような優しい楽曲であるが、ピアノやファズを効かせたオルガンが曲にスリリングさを引き出している。5曲目の『9フィートのアンダーグラウンド』は、9つの曲からなる組曲風になっており、ファズを効かせたディヴ・シンクレアのオルガンやキーボードをベースにした、まさにカンタベリーミュージックらしい雰囲気を作り出した楽曲。なだらかな曲調でありながら、繊細なドラミングや親しみのあるサックスがあり、インプロゼーションのある非常に完成されたジャズロックを聴かせた逸品となっている。ヴォーカルはパイ・ヘイスティングとリチャード・シンクレアが担当している。ボーナストラックの『アイ・ドント・ノウ・イッツ・ネーム』は、手数の多いドラミングとギター、そして緩やかなオルガンによるヴォーカル曲。少し憂いのあるメロディが特徴のアウトテイクである。『貴族』は、次のアルバム『ウォーター・ルー・リリー』で発表される初期ヴァージョン。ディヴ・シンクレアがヴォーカルを担っているのが珍しい。『イッツ・ライクリー・トゥ・ハヴ・ア・ネーム・ネクスト・ウィーク』は、静寂な雰囲気の中でリチャード・シンクレアのスキャットが終始響き渡った楽曲。『グループ・ガール』は、『ゴルフ・ガール』の歌詞違いの別テイクヴァージョン。『貴族/100%プルーフ~ニュー・ミックス~』はディヴのファズオルガンとフルートがフィーチャーされたミックスヴァージョンである。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作のサイケデリックでアンダーグラウンドな楽曲から親しみやすいポップテイストあふれる楽曲に変貌しているのが印象的である。ファズを聴かせたディヴ・シンクレアのオルガンをはじめとした多彩なキーボードと、安定感のあるリズム隊、そしてリチャード・シンクレアの落ち着いたヴォーカルがそれぞれの楽曲を味わい深いものにしている。そして22分に及ぶ『9フィートのアンダーグラウンド』は、後のカンタベリーミュージックの基盤となるインプロゼーション豊かなジャズロックは必聴ものである。この曲でキャラヴァンの後の音楽性が定まったと言っても良いほどの名曲となっている。

 アルバムは好評だったにも関わらず、英国のアルバムチャートにも入らず、セールス的に芳しいものとは言えなかった。これが原因でグループ内で不満が募り、キーボーディストのディヴ・シンクレアは、ロバート・ワイアットが結成したマッチング・モウルに加入するために脱退することになる。ワイアットは本アルバムに収録している『9フィートのアンダーグラウンド』を聴いて、ディヴのキーボードの才能を高く評価していたという。メンバーは脱退したディヴの代わりにスティーヴ・ミラーというジャズピアノ兼キーボード奏者を迎い入れ、グループの存続を図り、4枚目のアルバムとなる『ウォーター・ルー・リリー』を1972年にリリース。そして5枚目のアルバム『夜ごとに太る女のために』のレコーディングにディヴ・シンクレアが復帰するが、今度はリチャード・シンクレアがハットフィールド&ザ・ノースの結成で脱退してしまう。両シンクレアが再度顔を合わせるのは10年後のアルバム『Back To Front』である。

 なお、『グレイとピンクの地』はオリジナルメンバー最後の作品となったが、リリース後の1970年代を通して着実に売り上げを伸ばし、キャラヴァンのアルバムの中で最も高い売り上げを誇る作品となる。理由は批評家筋からカンタベリーミュージックへの良い導入作品として推薦していたためである。特に『9フィートのアンダーグラウンド』は、当時の深夜のFMラジオでかけ続けたことで人気の曲になっていたという。後にアメリカのローリングストーン誌は、史上最高のプログレッシヴロックアルバム50枚のリストに、本アルバムを34位に位置付けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はカンタベリーミュージックシーンを語る上で重要なキャラヴァンのサードアルバム『グレイとピンクの地』を紹介しました。重要というのは後にディヴ・シンクレアがマッチング・モウル、リチャード・シンクレアがハットフィールド&ザ・ノースというカンタベリーミュージックの名盤に名を連ねることになるからです。そんな2人ですが本アルバムでも最高峰ともいえる名演をしています。ディヴ・シンクレアのファズを効かせたオルガンやキーボードは、同じキーボーディストのディヴ・スチュワートと共にカンタベリーの中核と成すサウンドが息づいているのが素晴らしいです。またリチャード・シンクレアのヴォーカルはブリティッシュらしい牧歌性があり、全体的にゆったりしつつも落ち着いた中に何とも言えない安心感と美しさがあります。中世のフォークメロディとジャズの間で揺れ動くリリカルな楽曲を披露した22分に及ぶ『9フィートのアンダーグラウンド』は、キャラヴァンならではの完成されたジャズロックとなっていて、聴けば聴くほどため息ものです。

 さて、本アルバムのジャケットは、『指輪物語』で有名な英国の作家トールキンの影響を受けたと思われるアン・マリー・アンダーソンが描いたカヴァーデザインも人気のひとつとなっています。素朴なタッチで淡いピンク色のほのぼのとした風景のイラストは、キャラヴァンの出身地であるカンタベリー地方を描いたものだそうです。その淡い色調はキャラヴァンの少しくぐもった温かみのあるサウンドと良くマッチしていて、ものすごく想像力を掻き立ててくれる絵だと思います。

 そんなジャケットのイラストを眺めつつ、本アルバムを聴くとこの上ない充実感があります。カンタベリーミュージックに興味ある方は、ぜひとも、聴いてほしいアルバムです。

それではまたっ!