【今日の1枚】Camel/The Snow Goose(キャメル/スノーグース「白雁」) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Camel/The Snow Goose

キャメル/スノーグース(白雁)

1975年リリース

ポール・ギャリコの短編小説『白雁』の物語を

一大絵巻のごとく奏でたキャメルのサードアルバム

 グレート・マーシュと呼ばれる沼地に銃によって傷ついた白雁を抱いてやってきた優しい少女フリーザと、それを介抱する孤独な画家ラヤダーの美しくも悲しい交流を描いた、ニューヨーク生まれの小説家ポール・ギャリコが1941年に発表した短編小説『The Snow Goose(白雁)』をモチーフにしたキャメルのサードアルバム。キーボードやフルートの優しい音色、エレクトリックギターのリリカルなトーン、ドラマティックに盛り上げるドラムなど、『白雁』の物語をファンタジックに表現した歴史的名盤でもある。本アルバムは、メロディメイカー紙のアルバム部門で10位にランクインし、グループはその年のブライテスト・ホープに選ばれる輝かしい実績を収めた作品である。

 キャメルはピーター・バーデンス(キーボード)、アンディ・ラティマー(ギター)、アンディ・ワード(ドラムス)、ダグ・ファーガソン(ベース)の4人のメンバーで構成され、本アルバムの収録された曲のほとんどは、ピーター・バーデンスとアンディ・ラティマーの2人で書き下ろしている。前作の『ミラージュ(蜃気楼))』に収録された『レディ・ファンタジー』という曲をきっかけに、より明確なコンセプトのある曲が必要と考え出された本作は、キャメルというバンドの方向性を決定付けた重要なアルバムでもある。また、本アルバムではケヴィン・エアーズやロイ・ハーパーなどの作品を手がけたデヴィッド・ベッドフォードがアレンジャーとして参加しており、美しくも悲しい『白雁』の物語の世界を壮麗なオーケストラで演出をしている。

 

★曲目★

01.The Great Marsh(グレート・マーシュ)

02.Rhayader(醜い画家ラヤダー)

03.Rhayader Goes To Town(ラヤダー街に行く)

04.Sanctuary(聖域)

05.Frithe(少女フリーザ)

06.The Snow Goose(白雁)

07.Friendship(友情)

08.Migration(渡り鳥)

09.Rhayader Alone(孤独のラヤダー)

10.Flight Of The Snow Goose(白雁の飛翔)

11.Preparation(プレパレーション)

12.Dunkirk(ダンケルク)

13.Epitaph(碑銘)

14.Fritha Alone(ひとりぼっちのフリーザ)

15.La Princesse Perdue(迷子の王女さま)

16.The Great Marsh(グレート・マーシュ)

 

 アルバムは1曲目からピーター・バーデンスのグレート・マーシュの情景を描いた美しいキーボードから始まる。静かな沼地に1人の画家ラヤダーがやってくるシーンをフルートをフィーチャーしたアンサンブルで表現している。『ラヤダー街に行く』は買い出しに行く以外は、ほとんど人と触れ合う生活を避けている理由が、彼の醜い姿によるものという街の華やかさの部分と彼の暗い影の部分をギターで表現している。美しいアコースティックギターとキーボードで織り成す『聖域』は、たった1人で住んでいる彼の小屋を表しており、そして5曲目『少女フリーザ』と6曲目の『白雁』は傷ついたスノー・グースを抱いてやってきた可憐な少女フリーザの登場を、美しいアコースティックギターのアンサンブルから優しいキーボードと高らかなエレクトリックギターで表現されている。『友情』では醜い姿ながら心優しいラヤダーが、何とか白雁を介抱しようとするシーンを管楽器による演奏で表現し、その白雁を「迷子の王女さま」として愛情を注ぐシーンをカラフルに演奏している。そして『渡り鳥』では傷の癒えた白雁と共に大空を舞う鳥たちと帰っていくシーンをスキャット風のヴォーカルとキーボードで表現しているなど、小説の流れを踏襲しつつ、キーボードやギター、フルートといった様々な楽器でドラマティックに演出している。物語ではその後、白雁が飛び立ってからフリーザも彼の元から去り、再び1人となるラヤダーだったが、次の年に再びあの白雁がラヤダーの元に帰ってきて、彼の小屋の周辺を棲家とする。白雁が帰ってきたのをきっかけに少女フリーザと再び平和な日常を過ごしていたが、ラヤダーの人生にも暗い影が忍び寄る。1940年5月、イギリス軍がダンケルクの海岸でドイツ軍に包囲され立ち往生していると聞いたラヤダーは、やがて命と引き換えに小さなヨットに乗り戦場に赴くことになる。それはかつての「迷子の王女さま」のように傷ついたイギリス兵を助けるために、ラヤダーは自分の命と引き換えに白雁が見守る中、勇敢に任務を遂行する。そんなラヤダーの帰りを1人で待つ少女フリーザの元に白雁が帰ってくる。じっとフリーザを見つめる「王女さま」を見て、フリーザは涙を流す。それはラヤダーが魂となって自分に別れを告げに来たのだと察したからである。そして小屋の中でラヤダーの描いた絵を見つけた時、フリーザが彼に抱いていた感情が「愛」であると悟り、その絵を抱えて小屋を後にして家に帰っていく。そして「王女さま」は再び空に舞い、遠くに飛び立って二度とグレート・マーシュに戻ることはなかった――。アルバムを通して聴いてみると、全編インストゥメンタルだが、ピーター・バーデンスの物語の情景を映し出す美しくも優しいキーボードと、アンディ・ラティマーのリリカルなギターが素晴らしく、フルートやオーケストレーションを加えた本作は、彼らの演奏技術にとどまらないアルバムの完成度の高さがうかがえる。1つ1つのシーンが思い浮かぶような展開と楽曲のセンスは、どこまでも優しく聴き手を包み込むかのようである。

 キャメルは本アルバムで一躍人気バンドになり、その後もコンスタントにコンセプトアルバムを作成していくことになる。また、1978年の「ライブ・ファンタジア」では、アルバム「スノー・グース」全曲を、ロイヤル・アルバート・ホールでロンドン交響楽団と共演したライブ演奏を収録している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はコンセプトアルバムとして名盤とされているキャメルのサードアルバム『スノー・グース(白雁)』を紹介しました。キャメルは早い段階でアルバムをそろえて聴いているバンドの1つです。特に本作は想い入れが強く、レコード盤からCD、紙ジャケとそろえたものです。時間が経つにつれてというか、年を重ねるごとにこのアルバムの素晴らしさに気がつくことが多く、言葉では中々言い表せないような感情が湧き上がることがあります。

 

 さて、あの「ポセイドン・アドヴェンチャー」の作者として有名な小説家ポール・ギャリコの『スノー・グース(白雁)』をモチーフにしていますが、この物語は一羽の傷ついた白雁をきっかけに画家と少女との秘めた愛情と恐ろしい戦争という悲哀が込められた、まさに日本人好みというか琴線に触れるような美しい作品だと思います。キャメルのピーター・バーデンスは元々、小説を題材にしたコンセプトアルバムを考えていたようで、最初はヘルマン・ヘッセの『シッダールタ』が候補としてあったらしいです。しかし、最終的にメンバーと協議を重ねた結果、『スノー・グース(白雁)』に決めたとされています。ピーターは小説を基にした歌詞を作り始めたところポール・ギャリコから著作権で訴えられ、異議も兼ねて全曲インストゥメンタルになったという経緯があります。本来ならばテーマの却下という選択肢もあったはずですが、意地でも楽曲だけでアルバムを作るというピーター・バーデンスの凄みが伝わりますね。

 

 美しいメロディが定評のピーター・バーデンスですが、6枚目のアルバム『ブレスレス - 百億の夜と千億の夢(Breathless)』を発表後に脱退し、後任に元キャラバンのディヴ・シンクレアやヤン・シェルハースがキーボードで参加します。その後もメンバーは入れ替わりますが、ギタリストのアンディ・ラティマーはずっとバンドに残り、彼主導で2000年代に入っても活動を続けています。

 

 このアルバムがきっかけでポール・ギャリコの小説『白雁』も読みました。内容を知った上で本アルバムを聴くと、またこの上ない感動が蘇るはずです。

 

それではまたっ!