【今日の1枚】National Health/Of Queues And Cures | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

National Health/Of Queues And Cures

ナショナル・ヘルス/オブ・キューズ・アンド・キュアーズ

1978年リリース


歴戦のカンタベリーミュージシャンによる
真髄を見せ付けた歴史的名盤

 ファーストアルバムのわずか9ヶ月あまりで発表されたナショナル・ヘルスのセカンドアルバム。前作でゲストとして参加しつつも大活躍だったアラン・ガウエンとアマンダ・パーソンズの名は無く、よりディヴ・スチュワート色が強くなった作品となっている。静と動、メロディアスと複雑さが入り混じり、個々が織り成す超絶技巧ともいえるサウンドは、アルバム全体がひとつのドラマのように展開しており、聴く者を圧倒させてくれる傑作となっている。ハットフィールド&ザ・ノースの『ロッターズ・クラブ』と共にカンタベリーミュージックを語る上で欠かせない重要なアルバムでもある。

 ナショナル・ヘルスは元々ハットフィールド&ザ・ノースがグループとして存続不能となったために、ギルガメッシュのメンバーとディヴ・スチュワートが新たなグループを結成しようと試みたバンドである。当初集まったのは元ハットフィールド&ザ・ノースのディヴ・スチュワート(キーボード)、フィル・ミラー(ギター)、元ギルガメッシュのアラン・ガウエン(キーボード)、フィル・リー(ギター)、元エッグのモント・キャンベル(ベース、ヴォーカル)、元ハットフィールド&ザ・ノースのコーラス隊だったアマンダ・パーソンズという、まさにカンタベリーミュージックの生え抜きのメンバーだった。さらにドラマーが不在だったため、ゲストとして元キング・クリムゾンのビル・ブルーフォードや当時ランドスケープで活動していたリチャード・バージェス、ヘンリー・カウのクリス・カトラー、ジャズシーンで活躍していたジョン・ミッチェルなど、腕利きのドラマーが参加している。この新グループの結成は音楽誌やラジオでも報道され、大きな関心を寄せられたにも関わらず、レコード会社との契約が進まずに3年近くが過ぎていくことになる。1978年2月に突然、ナショナル・ヘルスのデビューアルバムが発表され、そこにはモント・キャンベルの名は無く、ディヴ・スチュワートとフィル・ミラー、そして元ギルガメッシュのベーシストだったニール・マーレイ、元ハットフィールド&ザ・ノースのピップ・バイルが加わっており、メンバーだったはずのアラン・ガウエンとアマンダ・パーソンズはゲスト扱いとなっていた。3年の間に大きなメンバーチェンジがあったことがうかがえる。それでもアルバムは難解で緻密な楽曲を出来る限り排除し、飄々としていて雄大に展開する内容にファンを裏切らない完成度を誇っていた。

 しかし、ファーストアルバム発表後、再びメンバーチェンジがあり、ファーストアルバムで楽曲の提供と演奏をしてくれたアラン・ガウエンや大活躍だったアマンダ・パーソンズは不参加、ベーシストだったニール・マーレイはホワイトスネイク加入のために脱退し、代わりに元ヘンリー・カウのジョン・グリーヴスが加入する。結局、メンバーはディヴ・スチュワート(キーボード)、フィル・ミラー(ギター)、ジョン・グリーヴス(ベース)、ピップ・バイル(ドラム)の4人編成となり、そこに管楽器を中心とするミュージシャンが参加する形をとっている。楽曲はディヴ・スチュワートを中心に他のメンバーが提供し合う形で、ロンドン郊外のリッジファームにスタジオ機材を持ち込んで録音している。こうして1978年11月にファーストアルバムのわずか9ヶ月後というスピードでセカンドアルバムがリリースされることになる。しかし、そのサウンドは凄まじいほどの技巧と緻密な演奏で繰り広げられた、究極ともいえるカンタベリーミュージックの最高峰と呼ぶにふさわしい作品に仕上がっている。

★曲目★
01.The Bryden 2-Step~For Amphibians~Part.1(ザ・ブライデン2-ステップ パート1)
02.The Collapso(ザ・コラプソ)
03.Squarer For Maud(スクアラー・フォー・モウド)
04.Dreams Wide Awake(ドリームス・ワイド・アウェイク)
05.Binoculars(ビノクラーズ)
06.Phlakaton(フラカトン)
07.The Bryden 2-Step~For Amphibians~Part.2(ザ・ブライデン2-ステップ パート2)

 本アルバムの1曲目の『ザ・ブライデン2-ステップ パート1』は、ディヴ・スチュワートが作曲したもので、オープニングは録音スタジオ近くで鳴いていた鳥の囀りから始まり、ディヴのキーボードとフィルのギターが交じり合う鮮やかなカンタベリー色の強いサウンドになっている。非常にドラマチックなこの曲は、ゲストとして一時的に参加していたドラマーのビル・ブルーフォードがいたく気に入り、後にディヴを自分のグループに誘うきっかけとなった曲である。2曲目の『ザ・コラプソ』もディヴ・スチュワートが作曲しており、結成当初から温めていた曲である。コンパクトな曲のつながりであるにも関わらず、緻密に計算された展開になっており、個々の技量が発揮された素晴らしい楽曲になっている。3曲目の『スクアラー・フォー・モウド』は、ジョン・グリーヴスが提供した曲で、アルバムの中でも異彩を放った内容になっている。やや暗い出だしはヘンリー・カウの時代の雰囲気に通じるが、徐々にドラマティックに展開して様々な曲調を見せてくれる逸品となっている。ちなみに中間部で朗読しているのは、ピーター・ブレグヴァドである。彼のアルバムである『Kew. Rhone(キュー・ローン)』に参加したジョン・グリーヴスから声がかけられたのをきっかけに本アルバムで朗読という形で参加している。4曲目の『ドリームス・ワイド・アウェイク』は、フィル・ミラーが提供した曲である。ディヴの痛快なまでのオルガンが堪能でき、本アルバムに参加しているカンタベリー系のミュージシャンであるベーシストのリック・ビダルフが、前半の6/4拍子のベースリフを演奏しているのが聴き所である。5曲目の『ビノクラーズ』は、ドラマーのピップ・バイルが提供した曲である。彼はハットフィールド&ザ・ノースでも作曲した経歴を持っているのだが、爽やかなヴォーカルとギター、フルートが奏でられ、そして繊細に刻むピップ・バイルのドラミングが耳に残るメロディーが素晴らしい楽曲になっている。6曲目の『フラカトン』はお遊び感覚で作られた曲らしいが、ライヴでは観客と一緒に歌う定番の曲になっている。7曲目の『ザ・ブライデン2-ステップ パート2』は、重厚なオルガンとギターから始まり、徐々に1曲目の内容に寄せていきながらクロージングしていく。こうして改めて聴いてみると、やはり各メンバーがそれぞれ提供した1曲1曲が濃密で際立っており、静と動、メロディアスさと複雑さが入り交じり、アルバム全体がまるでひとつのドラマのように展開している。個々が織り成す超絶技巧ともいえるサウンドに1本の芯が通っているのは、前作からのメンバーであるキーボードのディヴ・スチュワートとギタリストのフィル・ミラー、そしてドラマーのピップ・バイルの存在が大きい。演奏の中で生まれた数々の曲展開や理論は、後のアーティストに多大な影響を与えるほど、魅力的なアルバムに仕上がっている。

 本アルバムの発表直後に、グループの中心メンバーだったディヴ・スチュワートが脱退してしまう。それは先に述べたように彼が作曲した本アルバムの1曲目の『ザ・ブライデン2-ステップ パート1』を聴いたビル・ブルフォードが気に入り、ビルが自分のグループの立ち上げる時、ディヴ・スチュワートに参加を要請したためである。残されたメンバーはアラン・ガウエンに応援を頼み、ガウエンと共に1年あまり活動を続けたが、1980年の3月に解散することになる。体調を崩していたアラン・ガウエンは後の1981年5月17日に白血病でこの世を去ってしまう。ガウエンが残した数々の楽曲を演奏するため、一時的にナショナル・ヘルスが再結成され、ゆかりのメンバーと共にサードアルバムとなる『D.S.al Coda』を翌年に追悼盤としてリリースしている。こうしてグループは再度離散し、カンタベリーミュージックは終焉を迎えることになるが、彼らの音楽はジャズロックやクロスオーバー、フュージョン系のサウンドへと継承されていくことになる。本アルバムが歴史的名盤となっているのは、変化していく音楽シーンという逆境の中でも、常に自分たちのスタイルを追求する彼らの凄まじいほどの情熱が注ぎ込まれているからにほかは無い。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は以前に紹介したナショナル・ヘルスのファーストアルバムに続いて、セカンドアルバムの『オブ・キューズ・アンド・キュアーズ』を紹介しました。このアルバムは私にとって、ハットフィールド&ザ・ノースの『ロッターズ・クラブ』と共に良く聴いていたアルバムで、現在でもスマートフォンに入れています。ファーストアルバムはジャズ的なエッセンスが強く、モント・キャンベルの複雑な展開が色濃く残る曲調になっていましたが、本アルバムはディヴ・スチュワートが主導権を握ったことである意味、開花した感じがします。特に1曲目の『ザ・ブライデン2-ステップ パート1』は、圧巻ともいえるダイナミックなフレーズが素晴らしく、2曲目の『ザ・コラプソ』はドキドキするほど緻密なユニゾンになっていて、5曲目の『ビノクラーズ』はドラマーであるピップ・バイルがどうしてこんな素敵な曲が書けるのだろうかと思えるほどメロディーが美しい内容になっています。ポップセンスあふれるハットフィール&ザ・ノースと比べるとシリアスなインプロゼーションの効いた曲調ですが、まさにカンタベリーミュージックの集大成といっても過言ではないアルバムになっていると思います。これだけ超絶なテクニックと緻密な展開、そして何よりもフレーズやメロディーが素晴らしいのにも関わらず、どこか悲哀に近い感情がこみ上げてくるのは、1978年に同じく超絶技巧を駆使したプログレの名プレイヤーによって結成されたU.K.に通じるところがあります。彼らのアルバムもまたイギリスのパンク/ニューウェイヴの台頭と音楽シーンの変化という逆境の中で残した名盤となっています。

 さて、ナショナル・ヘルスの素晴らしい音楽が、当時どれだけ虐げられていたかについては、カンタベリーミュージックやプログレッシヴロックのグループの活動の場を提供していた英ヴァージン・レコードの方針転換にあります。英ヴァージン・レコードは1978年にリリースしたアルバムを見ると、ジョン・ライドン率いるPILやマガジン、ディーヴォといったまさしくパンクを中心としたものになっています。つまり、ヴァージン・レコードが抱えていた往年のカンタベリーミュージックやプログレッシヴロックのグループにレコードの発表の機会すら与えられなかったという事実があります。セックス・ピストルズの歴史的なデビューアルバム『Never Mind the Bollocks』がリリースされたのは1977年です。時代の流れを考えれば、ナショナル・ヘルスに活動の場を与えなかったヴァージン・レコードの決断は決して間違っていたとは言えません。こうして時代を越えて彼らの名盤や発掘音源がCDとなって聴くことができるのは感謝としか言いようがありませんね。1970年代後半にプログレと共に消え往く運命にあったカンタベリーミュージックの真髄をぜひ、その耳で聴いてもらいたいです。

それではまたっ!