ハプニング連鎖ツアー 9 | 添乗員のゆく地球の旅!

添乗員のゆく地球の旅!

メキシコ滞在とひとり旅とツアー添乗中に起こった体験話&
 首のくびれた保護犬・黒豆柴まるちゃんとの愉快な日常

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ひとみおばあちゃんの不在は、出発までまだ15分もあるとは言え、私に一抹の不安をおぼえさせました。

もしかしてまた……?

何となくそういう嫌な予感がしてしまい、不安を打ち消したくてフロントデスクからひとみおばあちゃんが一人で宿泊していた部屋へと電話をかけました。

が、応答なし。

仕方なくエレベーターの近くに立って、ひとみおばあちゃんがその箱の中から現れてくれるのを祈るように待ちました。しかし、ドアがガタガタっと開いて出てくるのは、大抵が他のツアーでこのホテルに宿泊していたと思われる見ず知らずの日本人ばかり。どうやらこの日本人団体も同じ8時半にホテルを出発するようで、二ノ宮おじいちゃんとひとみおばあちゃんのことにばかり気を取られていた私は気に留めていなかったのですが、そういえば先ほどからロビーには他の日本人添乗員が一人、慌ただしく出発の準備をしていました。

「お疲れ様です。8時半出発ですか?」

大抵の添乗員がそうするように、私も同じ立場だというだけで親近感を持って、その別団体の添乗員に話しかけました。

「あ、お疲れ様です。そちらはもうだいぶお客様お揃いですね。うちはなかなか遅刻する人が多くって困ってます。人数も多いし」

30代半ばと思われる女性添乗員は、とても仕事ができそうに見えました。しっかりしていて何でもそつなくこなすだろうと自然に思わせながらも、おごり高ぶったようには全く見えないその雰囲気は、添乗員として理想的だと一瞬にして感じずにはいられませんでした。

「そうなんですか。うちもまだお一人いらしてなくて待っているところなんですよ」

そんなふうに軽く言葉を交わしただけで、あちらの団体のお客さんが出発間際ということでどんどんと部屋から降りて来られてたため、そのまま会話は途切れてしまいました。こちらもひとみおばあちゃんの姿をまだ見付けられない以上、呑気に初対面の添乗員と会話を楽しんでいる場合ではありません。

時間は8時半になろうとしていました。未だひとみおばあちゃんの姿をとらえることはできず、また部屋に電話をしても応答を得ることができずに、はらはらした時間を費やしていました。

ひとみおばあちゃん以外は完璧に乗り込んだ私たちのバスに目をやると、窓際で頭を垂れる二ノ宮おじいちゃんと、その横で曇らせた顔を仰向けて座っている三平おじいちゃんの姿が見えます。他のお客さんたちは誰もが心配そうに私の方をうかがっている様子です。

出発時間になったと同時に再度ひとみおばあちゃんの部屋に電話を入れ、不在を確認すると私は階段を駆け上って部屋へと大急ぎで向かいました。

「ひとみおばあちゃん! いらっしゃいますか!」

コンコンコンとノックしながら声をかけますが、やはり返事はありません。

何度か声をかけたところで諦め、フロントまで戻りましたが、やはりまだひとみおばあちゃんの居所はつかめないままです。

二ノ宮おじいちゃんの容態も気になるところで、なぜにまたこんな問題が重なってしまうのでしょう?

眉根を寄せてホテルの玄関口で立ち尽くす私の目の前を、例の別団体のバスが出発して行きました。しっかり者の添乗員さんがバスの車内から会釈をするのが見えましたので、こちらも心ここにあらずという心境で浮かぬ顔のまま頭を下げました。

時間はすでに8時35分を回っていましたので、おそらくあちらの団体も添乗員さんの言っていた通りお客さんの遅刻で出発が遅れてしまったのでしょう。

「出発が5分や10分遅れても構わないから、全員揃ってくれればいいですよね」

現地ガイドと小声でそう言葉を交わした私は、バスに乗り込んで事情を説明し、二ノ宮おじいちゃんの様子をうかがいながらも、忽然と消えてしまったひとみおばあちゃんの捜索を続けるしかありませんでした。幸いなことに小さなホテルでしたので、もしも迷子になってしまったとしても、館内に居るのであればどうにか見付けられるはずです。

ホテル内のレストランやトイレなど、ホテルスタッフにも協力してもらって捜索を開始したばかりのところで、心ならずもふと気になる日本人を一人発見しました。バックパックを背負ったいかにも旅行者風の中年の日本人男性が、私たちのツアーバスに一旦乗り込んで、その後間違いだと気がついたようで慌てて下りてきて、その後は困ったようにうろうろきょろきょろと挙動不審な行動をしているのです。

「どうかされたのですか?」

添乗員という仕事柄、何だか気になって話しかけてみると、驚愕の返事が。

「ちょっと遅れてチェックアウトしたんですけど、どうもうちのバスがないみたいで……」

ということは、さっき出発したバスのお客さん?

☆ つづく ☆


なかなか時間がないので、とりあえずコメントのお返事よりも先に続きを書かせて頂きました。前回のコメントのお返事もブログ訪問&コメントにかえさせてください~(-人-) いつも読んでくださってありがとうございます!