ハプニング連鎖ツアー 8 | 添乗員のゆく地球の旅!

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メキシコ滞在とひとり旅とツアー添乗中に起こった体験話&
 首のくびれた保護犬・黒豆柴まるちゃんとの愉快な日常

なかなか更新できない状況でまた中断してしまいました。コメントくださった方々、お返事できないままですみません(iДi) 実はまだ話半分しか済んでいなくて、これからがクライマックスです。良かったら続きを読んでくださいませ~。

前回までは→ **1** **2** **3** **4** **5** **6** **7**

現地時間の早朝、医療に携わっている母の意見を聞いて、二ノ宮おじいちゃんの症状が脳梗塞なのではないかと思った途端にパズルが合ったような気持ちになった私は、何はともあれ現地ガイドに連絡を取りました。

「救急車を呼びたいのですが、手伝ってくれますか?」

事情を話すと、ガイドは声を詰まらせました。事情を聞いてみると、何と救急車を呼んだところで、最も近くにある大きな町がここから2時間も先にあるということ。つまり、救急車は片道2時間、往復で4時間かかるだろうということなのです。

現地時間は朝の7時近くになっていました。今すぐに救急車を要請したところで、ここに辿りつくのは9時近くになります。それならば連れて行った方が良いのではないでしょうか?

ホテルのフロントにかけ合って色々な策を講じたのですが、ホテルでも大きな町に行くための人手や車の手配がつかないと申し訳なさそうな顔で謝るしかない状況で、結局は私たちのバスで二ノ宮おじいちゃんを病院へ引率するしかないだろうという判断になりました。

幸いなことに、私たちに同行している現地ガイドが、二ノ宮おじいちゃん到着後の病院での通訳ガイドを手配してくれましたので、言葉の問題はこれでなくなりました。

後は順調にホテルを出発すれば良いだけです。

胸が引き裂かれるような思いで、二ノ宮おじいちゃんに声をかけました。

「二ノ宮さん、バスで病院まで行きましょう。通訳も用意できましたから。万が一の為ですよ。無理はいけません」

すると、二ノ宮おじいちゃんは少し驚愕した表情で

「大丈夫! 一緒に行くから。日本に帰れば大丈夫だよ」

と見るからに痩せ我慢して言い張るのです。言葉も通じない国に一人で取り残されることの不安が何よりも大きいのでしょう。そう感じた私は、ああでもない、こうでもないと悩んだ末に、結局こう告げることになりました。

「いいえ、病院へ行きましょう。もし万が一にでも脳の病気だったらいけませんから」

本当に残酷な言葉です。自分が言われたら卒倒してしまうような冷たい言葉です。

しかし、この非常時にあたって、もしもこの判断が間違いであっても良いから、二ノ宮おじいちゃんには何が何でも病院で検査をして安全策を取ってほしいと心の底から願いました。だからこそ発してしまったこの冷酷な言葉だったのですが……。

「はあ……脳の病気……」

おそらく二ノ宮おじいちゃんもそういう可能性は感じていながらも信じたくなかったのではないでしょうか。私の言葉を聞いたことによって一気に元気を喪失したのは一目瞭然です。この後もしばらくの間、私はこの判断の是非について悩むことになりました。

次第に吐き気や体のだるさがひどくなってくる二ノ宮おじいちゃん。脳の病気を意識したがゆえに、気持ちが弱くなってしまったように見受けられます。

時間は8時15分になりました。

ほとんどのお客さんは、呼びかけによってはやめに用意をしてバスに乗り込んでくれています。バスのトランクルームにスーツケースを積み込み、お客さんの人数を何度となく確認し、出発予定時間の15分前の時点でまだバスに乗り込んでいないのは後もう一人だけという状態でした。

後もう一人?

「ひとみおばあちゃんだわ!」

まだ来ていなかったのは、朝食のレストランで笑顔で会釈を交わしたっきりのひとみおばあちゃんでした。


☆ つづく ☆