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成田空港の再集合の時点ですでに行方不明になったこのお客さんは70才前の初老のご婦人でした。ハプニングを生んだ一人目のお客さんなので、便宜的に「ひとみおばあちゃん」と命名します。
さて、搭乗時間まで後20分を切りましたので、私もひとみおばあちゃんを待つのはやめて、手荷物検査場へと進みました。さほど時間はかからずに搭乗エリアに入った私は、免税店や両替所に挟まれた通路をキョロキョロしながら歩きました。というのも、途中で行方不明のひとみおばあちゃんが見付かるかもしれないという淡い期待を抱いていたからです。
歩いていても見付けられず、搭乗口でも出会えなかったら、もしかしたら飛行機の中でも会えないかも……
そう考えると胸の奥がぞくっとするのを感じるのですが、実際にそういうことがあったとしても、これは基本的にお客さんの責任となります。なぜなら、最初に会ったときにすでにひとみおばあちゃん用の搭乗券を渡して場所も軽く説明してあったからです。
しかし、そうは言っても、楽しみにしていたはずの旅行に乗り遅れてしまうなどということがあったらお客さんもショックが強いはず(もちろん旅行代金は返金されませんし)。そんな最悪なことになるのだけは避けたい……
と、頭の中でもやもやと考えながら足早に歩く私の視線がある人物を捕えました。
「あれ? あの服は」
ひとみおばあちゃんは小柄で痩せていて、服装も地味なグレーや茶色の大きな特徴のないものだったのですが、それが逆に私にとっては印象深く感じられて、何となくひとみおばあちゃんの全体像を記憶していたのです。
「すみません、ひとみさんではありませんか?」
「え? あ、はい、そうですが……」
ひとみおばあちゃんの方は添乗員の私を覚えていなかったようです。搭乗口からはまだまだほど遠い地点で銀行の両替所に並んでいたひとみおばあちゃん。時計を見ると搭乗時間までもう後5分しかありません。
「ここで会えて良かった!」
心の中で独り言を言いながら、急いでひとみおばあちゃんの両替を手伝い、大慌てで搭乗口まで引率しました。
お陰で一人も欠けることなく成田空港を飛び立つことは出来たのですが、こんなことは単なる序の口だったのです。
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