ドミニク・ファイク「ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング」について。 | …

i am so disappointed.

ドミニク・ファイクというアーティストは1995年生まれの24歳であり、ビリー・アイリッシュなどと同じZ世代に括られている。ここは年代で分けられるので、シンプルで分かりやすい。デビュー・アルバム「ワット・クッド・ボッシブリー・ゴー・ロング」がリリースされたわけだが、最新のアーティスト写真では髪をピンク色に染めている。

 

ドミニク・ファイクの音楽を一言で説明するのは、なかなか難しい。なぜなら、ロックやポップやヒップホップやR&Bなどの要素が入り混じっているからである。しかも、ナチュラルに。

 

フロリダ出身で、シングル・マザーに兄妹と一緒に育てられたドミニク・ファイクは10歳からギターを弾きはじめ、やがて曲を作るようになったようだ。デモ音源の制作中に暴力事件で逮捕され、拘留中にその音源がアップされるが、たちまち話題を呼んで、レーベル間での争奪戦になったのだという。出所した後、結果的にコロムビアと契約を交わし、音源がリリースされた。2018年にリリースされたシングル「3ナイツ」は注目を集めるきっかけとなり、バラク・オバマ元大統領が公開したプレイリストに入っていたことでも話題になった。

 

満を持してリリースされたデビュー・アルバムだが、14曲入りで34分である。まあ、これがまさしくいまのポップスという感じで、個人的にはとても気に入っている。このアルバムと同日にリリースされたフォンテインズD.C.のアルバムなど素晴らしかったが、ジャンルとしてはいまメインストリームのポップスが最も充実しているな、ということを再認識させられた。

 

とはいえ、ポップ・スターで、やはりヒップホップやR&Bの要素をナチュラルに取り入れたポップスの要素が強いのだろう、などと思いながら、再生ボタンをタップすると、1曲目の「カム・ヒア」がいきなりピクジーズみたいで驚かされる。しかも、片想いの相手に対する情動を歌っているだけで、約1分17秒で終わる。続く「ダブル・ネガティヴ(スケルトン・ミルクシェイク)」はポスト・パンク的な要素もあり、なかなか面白い。ドミニク・ファイクはウィーザーとエミネムを好み、レッド・ホット・チリ・ペッパーのギタリストをギター・ヒーローとして崇めているということなので、それがこのエクレクティックな音楽性にも表れているのかもしれない。

 

「キャンセル・ミー」は仕事がキャンセルになると、家族と一緒に過ごせるから良い、というような内容がポップなトラックに乗せて歌われている。アルバムと同じぐらいのタイミングで公開されたミュージック・ビデオでは、海辺でドミニク・ファイクが小さな女の子と遊ぶ、微笑ましくて平和的な様子が収められている。これまでに稼いだお金で親に家を買ってあげたり、インタヴューを読んでも家族をひじょうに大切にしていることが分かる。

 

「10xストロンガー」は、もしかしてビーチ・ボーイズにも影響を受けたのではないかというようなコーラスが続き、歌詞は「僕は君のために実際よりも10倍強いふりをする」というような一節のみである。そして、1分15秒ぐらいで終わる。室内楽的なアレンジを、おそらくシンセサイザーのストリングスの音でやったと思われるようなところもあり、音楽的な幅もなかなか広いなと思わされる。ちなみに、最近は新たにピアノを練習しているらしい。「グッド・ゲーム」はレッド・ホット・チリ・ペッパーズが好きだというのが肯けるような、ロック的な楽曲である。「トゥルットゥットゥ」というようなキャッチーなフレーズも含め、かなりのポテンシャルを感じさせる。

 

先行トラックでもあった「チキン・テンダーズ」はいまどきのヒップホップを踏まえたポップスという感じなのだが、セレブリティー的な生活とそれについてのリアルな心の揺らぎのようなものが歌われている歌詞も新しいタイプのシンガー・ソングライターという感じで、好ましい。ファッション的なイメージが先行しがちなところがあるとは思うのだが、実はとても真摯なアーティストなのではないか、という気がしてくる。

 

「バンパイア」はイントロがTLC「クリープ」を思わせるところもあり、いきなりうれしくなってしまうのだが、その後もR&Bポップとして素晴らしく、セレブリティーの世界に踏み込みながらも、人としての真っ当さを保ち続けようとしているというか、そんなところも感じられる。

 

「ポリティクス・アンド・ヴァイオレンス」は先行でも公開されていた、このアルバムを象徴するような曲でもあるのだが、途中でテンポが変わって二部構成のようになっているところなども、かなり面白い。この次の「ジョン・ブレイジー」でも、同様の手法が用いられている。

 

コンパクトでありながら様々なアイデアが次から次へと繰り出され、そのすべてがいま現在のコンテンポラリーなポップスとして、ひじょうに生き生きしたものを感じさせる。実はそれほど期待していなくて、軽くチェックはしておこう、ぐらいの気持ちで聴きはじめたのだが、すっかりハマってしまった。