宇野維正、田中宗一郎「2010s」について。 | …

i am so disapointed.

「2010s」という本については、誰かがリツイートした写真で見て知った。ライトグリーンとピンクの装丁がきれいだと思った。著者についてはなんとなく知ってはいるような気もするが、それほど詳しくはない。2010年代のポップ・カルチャーについて書かれた本のようだ。

 

ポップ・カルチャーについて気が向いた時にレヴューや記事を読んで、気になったものを聴いたり観たりしている。気に入るものもあれば、そうでないものもある。以前ほどの熱心さはないが、なんとなく把握しておきたいという欲求もある。

 

私が学生だった80年代、ポップ・カルチャーといえば主に音楽と映画、それから文学やアートのトレンドをなんとなく知っていれば、それだけで事足りた。全体像を把握したような気になり、世界にアクセスしているような気分になれた。

 

大人になった現在もポップ・カルチャーになんとなく興味や関心があるのは、おそらくその頃の名残りなのだろう。しかし、今日、ポップ・カルチャーは多様化し、全体像を把握するのはとても難しいし、果たしてその意味があるのかも疑問である。それぞれが好きなジャンルや作家、作品に深くのめり込み、全体像を浅く把握するような感じは薄れてきているような気がする。

 

日本においてはドメスティックなポップ・ミュージック、アニメやゲーム、アイドルやお笑いなどの人気が高く、海外のポップ・カルチャーに対する関心はきわめて低いように感じられる。これをガラパゴス化ということもできるのだろうが、良いことか悪いことかはよく分からない。

 

たとえば現在、私が中学生だったとして、海外のポップ・ミュージックや映画などをそれほど必要としたかといえば、必ずしもそうではなかったかもしれない。日本のバンドの音楽を聴き、アイドルを応援して、アニメを観る、それだけで事足りていたかもしれない。

 

大人になったいま現在、それでも海外のポップ・カルチャーをうっすらとチェックせずにいられないのは、おそらく当時からの習慣なのだろう。

 

それらの情報はいくつもの点に過ぎず、全体像がなかなかつかめない。まあ、でもそれで良いのかもしれない。

 

というようなことを思っていた時に、この本のことを知った。その後、少しだけ忘れていたのだが、つつじヶ丘の書原に行った時にあったので買った。そして、貪るように読んだ。電車での移動中、人を待っているあいだ、帰ってから床に寝転んで、約350ページを読み切った。面白い本だった。

 

北米を中心としたポップ・カルチャーの盛り上がりと、それらの日本における受容状況の落差、それに対して著者は苛立っている。ポップ・カルチャーにおける日本のガラパゴス化を憂いているようだ。

 

これについては、個人的にはなんともいえない。私自身が日本のドメスティックなポップ・カルチャー、つまり、アイドル、アニメ、お笑いなどに時間とお金を使うタイプの日常をおくっているからである。

 

この本は2人の著者による対談という体裁をとっているが、とにかく情報量がすごい。ためになる。海外のポップ・ミュージックや音楽メディア、ドラマや映画について語られているのだが、日本の活字メディアではなかなか取り上げられない内容が多い。私も90年代には「NME」「メロディー・メイカー」「セレクト」「i-D」「ザ・フェイス」といったイギリスの雑誌を何冊も定期購読し、日本語のメディアはまったく読まないというような、よく分からないことをやっていた時期があり、今日もポップ・ミュージックや映画についての情報は主に英語で書かれたウェブサイトなどから得ている場合が多い。しかし、いくら大学まで英語を勉強していたとはいえ、書いてある内容を完全に理解できているとは必ずしもいえないし、その背景にある文脈などがよく分かっていない。そういった意味でこの本に日本語で書かれていることはとても助けになったし、その姿勢に深く感じ入ったのであった。

 

結果的に日本のドメスティックなポップ・カルチャーをメインに視聴していくのは別に良いのだが、教養のようなものとして、北米を中心としたポップ・カルチャーの状況について知っておくことには価値があるし、そうしておくべきだとは個人的になんとなく思う。その必要はまったく無いという意見もあると思うし、それはそれで良いのではないかとも思う。

 

それはそうとして、この本はとてもためになって面白かったのだが、個人的に最もグッときたのは著者のうちの1人である田中宗一郎による

「おわりに」であった。二人称の使い方に何となく覚えがあると思ったのだが、途中でなるほどあの小説だったのかと思った。その他にもいくつかの固有名詞に感じるものがあった。

 

ポップ・カルチャーは社会を映す鏡であり、結局のところ私に関心があるのはそのような側面である。ゆえに、これについて語ったこの本は、著者の意図に反し、必然的にそれへの言及をともなう。しかし、少なくとも私にとっては、だからこそこの本がリアルで価値があるものに思える。

 

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