コールドプレイ「エヴリデイ・ライフ」について。 | …

i am so disapointed.

先日、J-WAVEのカウントダウン番組「TOKIO HOT 100」のチャートを久しぶりに見たところ、コールドプレイの「オーファンズ」が1位で、なるほど、いまのコールドプレイというのはそういう位置づけなのか、というようなことをなんとなく思った。その矢先、8作目のアルバムとなる「エヴリデイ・ライフ」がリリースされたのである。

 

2000年にシングル「イエロー」でブレイクして以降、20年近くにわたって人気バンドであり続けているのは本当にすごいことで、デビュー・アルバム「パラシューツ」から前作「ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームス」までのすべてのオリジナルアルバムが、全英アルバム・チャートで1位を記録している。美しいメロディーとボーカルが特徴だが、一方でオルタナティヴやインディー・ロックのファンからすると、あまりにも保守的で退屈すぎると見られる場合も少なくないような気がする。生活のバックグラウンド・ミュージック的な快適さが重要視されがちな印象がある、J-WAVEの「TOKIO HOT 100」のチャートで1位だったことは、個人的にそのイメージをさらに強化するものであった。

 

実際に私は「パラシューツ」「静寂の世界」あたりはかなり気に入っていて、「X&Y」「美しき生命」も聴いてはいたのだが、それ以降となると、熱心なリスナーとはとてもいえない状態であった。ギターを主体としたロックがポップ・ミュージック界の主流たりえなくなった時代、他のジャンルからの要素も取り入れ、エンターテインメント性を高めていく、数年前のライブ映像を観て、コールドプレイもそのような方向に向かっているのだろうか、となんとなく思っていた程度である。それは、「アクトン・ベイビー」「ZOOROPA」辺りの頃のU2だとか、昨年ぐらいのミューズにも通じるアプローチなのか、という印象もあった。しかし、あまりちゃんとは聴いていなかったので、もしかするとまったく違っていたのかもしれない。

 

「エヴリデイ・ライフ」とは毎日の生活であり、コールドプレイがあたえがちな壮大なイメージに比べると、ややミニマルに過ぎるのではないか、という印象を受けた。しかし、2枚組アルバムということなので、おそらく一筋縄ではいかないのだろう。そして、アートワークに用いられている、ひじょうにレトロなモノクロ写真は一体、なにを意味するのだろうか。

 

17曲入りで57分と、CD全盛期においてはそれほど長くはないし、ディスク1枚にも収まりきる。そこをあえて2枚組にしたという意図はおそらくあるのだろうし、1枚目が「サンライズ」で2枚目が「サンセット」というコンセプトになっているようだ。

 

1曲目の「サンライズ」はインストゥルメンタルで、なにやら壮大な幕開けを感じさせる。続く「チャーチ」はここ最近のコールドプレイに対するぼんやりとした印象そのものというような楽曲で、メロディーとボーカルの美しさは健在である。このような曲のバリエーションが続くのかなと思いきや、実際にはかなり違っていた。「トラブル・イン・タウン」では警官による人種差別に言及されているのだが、他にもアルバム全体には、現在の世界を取り巻く悲観的な状況がしっかりと認識され、その上でポジティヴに生きていこうというメッセージというが感じられる。そして、魂の救済が希求されるため、必然的に宗教的なモチーフが援用されている。

 

家族や親しい友人といった、確かさをあたえてくれるであろう人たちに対する思いや、銃社会に対しての怒りや自己疑念に言及したものなど、現在の世界と、それを認識した上で正気を保ち、心の平安を祈る自分自身の意識を突き詰めた、ひじょうに真摯な表現のように思える。

 

音楽的にはゴスペル、フォーク、ドゥーワップ、フリージャズなどの要素が取り入れられ、世間一般的にコールドプレイが見られがちなイメージ以上に、バラエティーにとんでいて、実験的なところもある。

 

日々の生活をありがたく思い、それに感謝するというのは、小学生ぐらいの頃に深夜放送を聴いたままつけっぱなしにしていたラジオで、早朝に放送されていた宗教の番組、「暗いと不平を言うよりも、すすんであかりをつけましょう」というようなアナウンスと小鳥の鳴き声、ラジオドラマなどのイメージを思い出させる。当時、私がどのような気持ちでこの番組を聴いていたのかを、いまは思い出すことができない。

 

世界はそれほどまでに酷くなっているともいえるし、かといって現実逃避的に踊り続けるタイプのアプローチでも、ただただ恨みつらみを並べ立てるわけでもなく、それを直視した上で苦しみが少なく、より満たされた日々を送るとするならば、このような方向性に行く着くのだろうか。

 

というようなことを考えてしまったわけだが、音楽的に実験精神が感じられ、それでいて本来の魅力も健在である。その上で、現在の世界の問題に対峙したシリアスな表現であり、しかもJ-WAVEの「TOKIO HOT 100」でも1位になってしまうという、ひじょうにユニークな作品である。

 

 

 

 

 

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