クライロ「イミュニティ」について。 | …

i am so disappointed.

アメリカのシンガー・ソングライター、クライロがデビュー・アルバム「イミュニティ」をリリースした。2017年、19歳の頃にYouTubeにアップロードした「プリティ・ガール」のビデオが話題になり、知名度を上げたアーティストで、その後、いくつかの作品を発表した後、ついにデビュー・アルバムのリリースとなったのである。

 

「プリティ・ガール」は家にあった楽器を使ってレコーディングされたらしく、サウンドはローファイでありながら、メロディーや歌詞のポップ感覚はひじょうに素晴らしく、才能を感じさせるものである。また、自分の部屋で撮影されたと思われるビデオの手づくり感と、リアルな雰囲気がまたたまらなく良い。

 

 

この魅力というのは、たとえばわれわれがお気に入りのYouTuberに対して感じるものに似ていて、マスマーケティングされた表現に比べ、より親密で、個人的なところが特徴であろう。「プリティ・ガール」について、「ベッドルーム・ポップ」という呼称が用いられたようだが、なるほどピッタリではないだろうか。

 

「プリティ・ガール」の成功により、いくつかのメジャーレーベルが関心をしめすが、クライロはインディーのフェーダー・レーベルと契約を交わすことになる。クライロの父はマーケティング界の成功者、ジェフ・コットリルであり、それを理由に難癖をつける向きもあるようだが、若い女性の成功を認めたくない、くだらないセクシストだとしか思えない。

 

それはそうとして、クライロは音楽的には母親が聴いていた1980年代のポップ・ミュージックから影響を受けていて、高校生の頃からインターネットで音楽を発表していたという。「プリティ・ガール」はおそらくその1つの到達点ということになると思うのだが、その後も作品を発表し続け、今回、ついにデビュー・アルバムのリリースに至ったのであった。

 

「プリティ・ガール」は今回のデビュー・アルバムには収録されていない。というか、あれからクライロは1歳しか年を取っていないのだが(8月18日の誕生日には21歳になるが)、音楽的には飛躍的な成長を遂げている。その間に、デュア・リパのオープニング・アクト、初来日公演や、海外の大型フェスティバルへの出演なども果たした。ヴァンパイア・ウィークエンドの元メンバーであるロスタム・バドマングリを共同プロデューサーに迎え、ハイムのダニエル・ハイムをいくつかの曲でゲストに迎えたサウンドは、ローファイではない。「ベッドルーム・ポップ」とも、もう呼べないのだろう。しかし、そこにあった親密さという魅力は保たれているどころか、サウンドがプロパーになったことにより、さらにアクセスしやすくなっているようにも思える。

 

「プリティ・ガール」ではサウンドやヴィジュアルに気が取られすぎていたのだが、クライロの大きな魅力は、そのボーカルにもある、というか、じつはこれがとても大きいのではないかと思う。一言でいうと、ナチュラルなのである。それでいて、絶妙に微妙なニュアンスははっきりと伝わる。

 

たとえばアルバムの1曲目、「エールワイフ」は、自殺未遂を友人によって助けられたという内容である。ヘヴィーなテーマを扱っているようにも思えるのだが、実際にはこのナチュラルでブリージーなポップ・アルバムのオープニングに相応しい、内容が充実していて音楽的に聴きやすいポップスに仕上がっている。必要以上に感情を込めすぎるわけでもないボーカルは、この事実と感情について、まるで親しい友達に対して告白するように歌う。これを私はとても新しくて素晴らしいものだと純粋に感じたのだが、やはりその理由が気になって少し考えてみたところ、これはSNS時代におけるアーティストとファンとの関係性を反映してもいて、サンドはプロパーになったものの、「ベッドルーム・ポップ」の良さが残っているというのは、こういうことではないかとも感じたのである。

 

どこか懐かしさも感じさせるヒップホップ調のビートにのせて、歌われた曲が多いのだが、とにかくメロディーが良く、ナチュラルなボーカルともひじょうにマッチしている。20歳という年齢相応のテーマを扱っている曲が多く、本来ならば私のようなこのアーティストの親世代の男性が聴いても感情移入などする余地もないのだろうが、ポップスとしてクオリティーが高いため、誰もが経験をしたことがあるエバーグリーンな青春ソングとして聴くことができる。

 

そして、ハイムのダニエル・ハイムがドラムを叩いている「バグズ」「ソフィア」の2曲については、インディー・ポップとしての魅力も感じられ、こうなると私も個人的にどストライクで大好きなジャンルなので、たまらないものがあるのである。

 

クライロはヘテロセクシャルではないことをカミングアウトしているのだが、「ソフィア」は同性に対して恋をしていると気づいた瞬間をテーマにしていると思われ、その瑞々しさもたまらなく良い。初期ザ・ストロークス的ともいえる、サウンドにおけるクールネスも最高である。

 

「バグズ」と「ソフィア」との間に収録された「ソフトリー」が、ヒップホップ調のビートにのせて歌われた、ゆるめのポップスなのだが、暑い夏の午後にはピッタリである。

 

若年性関節リウマチを患った経験から書かれたという「アイ・ウドゥント・アスク・ユー」は、子供たちのコーラスやフィーチャーし、苦境の中で気づかされた個人的な心強さが、普遍的なポジティヴィティーにまで昇華された素晴らしい楽曲であり、アルバムはこの曲で終わる。

 

久しぶりにフレッシュでありながら普遍的な魅力もあり、何度でも聴きたくなる素晴らしいニュー・アルバムに出会えたと、個人的にはそう感じている。

 

 

 

 

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