ヴァンパイア・ウィークエンドが2008年にリリースしたデビュー・アルバム「ヴァンパイア・ウィークエンド」は、インディー・ロックなのだがアフロ・ポップからの影響も感じられ、なかなかおもしろかった。一方で白人のお坊っちゃんバンドがアフリカの音楽を剽窃している、というような批判を浴びたりもしたが、バンドはけして自分たちはお坊っちゃんではなく、大学にも奨学金で行ったし、そのローンをいまだに払っているというような反論をしていた。
その後にリリースされたアルバム「コントラ」「モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ」はいずれも全米アルバム・チャートで1位を記録、後者はグラミー賞で最優秀オルタナティヴ・ロック・アルバム賞をも獲得した。インディー・ロックがけしてメインストリームではない時代に、評価も高く商業的にも成功しているという、ひじょうに理想的な状態にあるバンドである。バラク・オバマやバーニー・サンダースの支持を表明していたように、政治的にリベラルであるところも好ましい。
オリジナル・メンバーのロスタム・バトマングリがバンドから脱退したが、友好的な関係は続いているようで、今回のアルバムにも参加している。18曲入り、58分間というヴォリュームはCD時代のアルバムとしてはそれほど珍しくはなかったが、最近のロックのアルバムとしては長い方ではないだろうか。キャリアを重ね、前作から期間が空いたこともあって、いよいよダブル・アルバム的な大作志向になってきたのだろうか。
アルバムを再生すると、1曲目の「ホールド・ユー・ナウ」はカントリーにフレイヴァーが感じられる曲である。よりオーセンティックさを増したように感じられるエズラ・クーニグとデュエットしている女性ヴォーカリストは、ハイムのダニエル・ハイムである。
アルバムからは先行でいくつかの曲があらかじめ公開されていたのだが、私はそれを聴いていなかった。アルバムでまとめて聴きたかったのと、このバンドの新曲を聴くことに対するガッツキ度がそれほどでもなかったという、両方の理由によってである。
そして、この1曲目を聴いた時点では、バンドは成熟に向かっていて、このアルバムもより深い内容になってはいるが、かつての溌剌としたところは後退しているのではないかと思った。半分は当たっていて、もう半分は外れていた。バンドの音楽性は確かにより成熟しているが、それでいて溌剌としてもいるのである。最近のロックのアルバムにしては曲数が多いし、演奏時間も長いのだが、アイデアに溢れまくっていて、それでいてヴァンパイア・ウィークエンドでしかあり得ないという記名性ははっきりしている。
ダニエル・ハイムは他にも何曲かに参加していて、このアルバムにオーセンティックなムードをあたえているのだが、他にもジ・インターネットのスティーヴ・レイシーなどゲストを迎え、これまでの作品よりも外に開かれた印象を受ける。アルバム・ジャケットのアートワークは地球儀のイラストだが、これもまたより広い世界を志向しているように思える。
先行で公開もされていたという「2021」では、細野晴臣が1983年に無印良品の店内BGMとして発表した「TALKING あなたについてのおしゃべりあれこれ」がサンプリングされている。曲調は全体的に明るめだが、歌詞は深刻な現実認識に基づいたものが多いように思える。カントリー的な楽曲については、ケイシー・マスグレイヴスから影響を受けたのあという。プライマル・スクリームやハッピー・マンデーズのインディー・ダンスを思わせなくもない「ハーモニー・ホール」においては、「こんなふうに生きたていたくはない。かと言って死にたくはない」と歌われ、これはニルヴァーナのように自分のことが嫌いだから死にたいとも、オアシスのように君と僕は永遠に生きるんだとも断言できない感じがまた、いまどきのリアルでもあるように思える。
このアルバムがヴァンパイア・ウィークエンドがメジャー・レーベルに移籍して初のアルバムとなるが、バンドとして成長しながら、より幅広い層にアピールするようなポップスとしての強度をも身につけているいるように思える。イギリスではアークティック・モンキーズやThe 1975がそうであるように、現在のアメリカにおいてひじょうに重要なバンドになりうるというか、もうすでにそうではないかという気がしてきた。
