大森靖子のシングル「絶対彼女 feat. 道重さゆみ」が、2019年3月13日にリリースされるという情報を知った。
いまから約5年前、CBCラジオで放送されていた「モーニング娘。’14 道重さゆみの今夜もうさちゃんピース」という番組を聴いていると、私がまったく知らないアーティストの曲が紹介された。この番組でモーニング娘。やハロー!プロジェクト関連以外の曲がかかることはとても珍しい。以前に宇多田ヒカルや松田聖子の曲がかかったこともあったが、一時的なものであった。道重さゆみによる曲紹介は以下のようなものであった。
「それではここでですね、あの、私のことを大好きって言ってくださっている方がいるんですけど、あの、大森靖子さんていう方が私のことが大好きて言ってくださってて、それだけでもうれしいのになんと、さゆみんのことをイメージして、というか、さゆみのことを歌ってくださっている曲があるみたいなので、あの、みなさんにも聴いていただきたいと思います」
テクノポップというかニュー・ウェイヴ的な楽曲はわりと好みだったのだが、AMラジオの音源ということもあり、歌詞はよく聴き取れなかった。1コーラス目が終わって少ししたところで曲はフェイドアウトし、番組のジングルが流れた。「さゆの大部屋」というコーナーの後半に入る前に、道重さゆみはこの曲について、次のように話していた。
「はー、ということで、大森靖子さんの『ミッドナイト清純異性交遊』を、こう、かけさせていただいたんですけど、でも本当に、あの、大森さんがすごいさゆみのことを好きって、こう言ってくださることもすごくうれしいなって思うんですけど、コンサートとかも来てくださったりとかして、こう、CDをくださったりとか。あとは、ミュージックビデオを観たんですよ。そしたら、なんか、あの、私がサンリオさんとコラボしてるさゆうさの、なんか、お人形がちょっと見えたりとか、あとは、あの、なんか、『道重一筋』Tシャツが、私、誕生日の時とかに、こう、私がデザインしたTシャツとして発売したりとかしてるんですけど、それをまたちょっと違うバージョンみたいなのを、大森さんがたぶん独自で...たぶん、さゆうさもたぶんちょっと違うんだと思うんですけど、それをなんか、独自で作ってくださって、それをミュージックビデオにしてくれて、で、一番最後に、私のソロ曲で『ラララのピピピ』っていう曲があるんですけど、なんか『ラララのピピピ』を連呼してる部分とかあって、すごいなんか、さゆみっていう感じの曲だったので、すっごいうれしかったです」
「なんかそんなふうにこう、好きって言ってくれる人がいるんだなって思うと頑張ろうと思えるし、しかもましてやこうやって曲を作ってくれて、しかもその曲を世に出す人っていうことがすごいうれしいなって思いますね。もっと大森さんにも好いてもらえるように、頑張っていきたいと思います」
この回が放送されたのは、2014年2月3日である。雑誌の「SPA!」でハロー!プロジェクトの特集が組まれているということで、ローソンで立ち読みをしたのだが、そこに「今夜はうさちゃんピース」で知ったばかりの大森靖子も載っていた。当時、私は現在にもまして新しい日本のポップ・ミュージックに疎かったため、実はわりと注目されていたと思われる大森靖子のこともまったく知らなかったのだろう。気になってミュージックビデオを視聴してみたところ、道重さゆみが言っていたように、分かる人が見れば分かるオマージュに溢れていたのだった。歌詞においても、道重さゆみがモーニング娘。に加入する前、地元の山口県に住んでいた頃によく行っていたという、ときわ公園が出てきたり、ラジオで話していたエピソードを思わせる箇所があったりと、これは本物だと思わせるにじゅうぶんであった。そして、大森靖子の公式サイトを見てみたのだが、ものすごい熱量で道重さゆみに対する想いが綴られていた。
詳しいことは割愛するが、2007年に道重さゆみの存在によって生きる意味を取り戻したといっても過言ではない(いや、本当に)私は、自分なり方法で道重さゆみの魅力を言語化したり、ラジオ番組でのトークを書き起こしたりするブログをやっていて、一部ではそこそこ人気があり、道重さゆみ本人も読んでいるのではないかという疑惑が持ち上がったり(というか、道重さゆみが「今夜もうさちゃんピース」のオープニングで話していたファンブログの内容が当時、私が書いていたものとよく似ていた)して、なかなか楽しかった。2010年あたりに一旦やめたりトーンダウンしたりするのだが、それでも細々とは続けていた。道重さゆみのファンはたくさんいるし、私ごときは単なる在宅系スーパーライトファンに過ぎないとは自覚していたし、実際にそう言ってもいたのだが、一方で私のような角度で道重さゆみの魅力を表現している人もそうはいないだろうということで、そこが続けている理由でもあった。しかし、その時に大森靖子の公式サイトを見て、ついに道重さゆみの魅力をこのような熱量で語る人が、女性のしかもアーティストで現れたと興奮を覚えたのであった。
大森靖子の音楽は、道重さゆみの熱心なファンであるという点に興味を覚え、聴きはじめた。要は「ミッドナイト清純異性交遊」が収録されているアルバム「絶対彼女」をiTunesストアでダウンロード購入したのだが、これを聴きながら散歩をしているうちに、このアーティストはもしかするとものすごい才能の持ち主なのではないかと思ったのであった。すべての曲において歌詞とメロディーが良いのだが、フレーズが独特であり、しかも核心を突いているという、私がそれまでのポップ・ミュージックファン歴において、佐野元春、岡村靖幸、フリッパーズ・ギターなどに感じたのと同じタイプの感動を覚えたのであった。正直、新しいポップ・ミュージックというのは基本的に同時代の若者のためのもので、私にはそれを本質的に良いと感じるようなことはもう無いのだろうと思っていたようなところもあったので、この期に及んで日本の若手アーティストの音楽にここまで興奮できることが、とてもうれしかった。また、本質的に単なるミーハーにすぎない私は2013年には当然のようにNHK連続テレビ小説「あまちゃん」にハマるわけだが、能年玲奈が演じるアキよりも橋本愛が演じるユイの方に感情移入しながら観ていた。その橋本愛が大森靖子のファンで、「ミッドナイト清純異性交遊」や「君と映画」のミュジックビデオに出演しているというのもまた良かった。
![]() | 絶対少女 2,366円 Amazon |
私が大森靖子の存在を初めて知ってから約1ヶ月後、3月8日放送の「竹山ロックンロール」というテレビ番組に大森靖子は出演し、道重さゆみに対する想いを語っていた。当時、私はリアルタイムでこの番組を観ていたというわけではなく、少し後になってからその時の動画を見つけたのであった。世間一般的にはナルシストで毒舌のアイドルというイメージだったと思われる道重さゆみのことをロックだと語る大森靖子に、番組のメインMCであるカンニング竹山などはやや不思議そうなリアクションを取っていたが、私などはよくぞ言ってくれたという思いで、涙ぐみながら何度も再生していたのであった。ときわ公園のくだりで「ストーキングした成果」などと言っていたが、もちろん私もフィールドワークとして何度か行ったことがある。
この翌月、2014年4月29日に地元である山口県の周南市文化会館でのコンサートにおいて、道重さゆみは秋ツアー最終日をもってのグループからの卒業を発表した。その後、これはグループからの卒業のみならず、芸能活動の無期限休止であることも明らかにされた。一方、大森靖子は9月18日にシングル「きゅるきゅる」でエイベックスからメジャーデビュー、10月12日の深夜に放送されたNHK総合テレビ「MUSIC JAPAN」でモーニング娘。’14と共演を果たした。道重さゆみの卒業、そして無期限休業までは1ヶ月半を切っていた。
道重さゆみは2014年11月26日に行われた横浜アリーナでのコンサートをもって、モーニング娘。’14から卒業、当日は私も会場にいたのだが、「変な人たち、サンキュー」を含む卒業スピーチに号泣していた。その後、大森靖子は2015年に「洗脳」、2016年に「TOKYO BLACK HOLE」とアルバムをリリースし、着実に人気と知名度を獲得していった。
2017年1月27日、道重さゆみは3月19日から開催される「SAYUMINGLANDOLL~再生~」で約2年4ヶ月ぶりに芸能活動を再開することを発表した。大森靖子は3月15日にアルバム「kitixxxgaia」をリリース、雑誌「ユリイカ」の大森靖子特集には道重さゆみも寄稿していた。大森靖子は道重さゆみの「SAYUMINGLANDOLL~再生~」や2018年の「SAYUMINGLANDOLL~宿命~」「SAYUMINGLANDOLL~東京~」に楽曲を提供、アーティストとしては2017年にライブアルバム「MUTEKI」、2018年にはスタジオアルバム「クソカワPARTY」をリリースした。
また、2018年5月6日にさいたまスーパーアリーナで行われた音楽イベント「VIVA LA ROCK EXTRA ビバラポップ!」では大森靖子と道重さゆみが共演、大森靖子が2015年にシングルとしてリリースした「マジックミラー」は道重さゆみのお気に入りの曲だという。
そして今回、「絶対少女 feat. 道重さゆみ」のリリースが発表された。「絶対少女」は「ミッドナイト清純異性交遊」が収録された2013年のアルバム「絶対彼女」のオープニングトラックであり、「絶対女の子がいいな」というフレーズが印象的である。今回、改めて聴き直してみて、やはり素晴らしい曲だなと思ったのだが、「まず ずっと愛してるなんて嘘じゃない 若いこのとこにいくのをみてたよ」という歌詞が、「道重一筋」Tシャツに書かれた「若い子には流れません」と対になっていることに、今さらながら気がついた。このコラボレーションは、強い想いというものは、もしかすると伝わることもあるという希望を実証するものであり、それはそうとして早く聴きたい、【2CD+DVD】には収録されるらしいミュージックビデオも観てみたい、と強く思うのである。

