そして、水曜日の正午ぐらいに大阪に着いた。お昼どきでもあり、とりあえず新世界に串カツを食べに行くことにした。地下鉄御堂筋線の動物園前駅から行く場合が多いのだが、今回は南海電鉄の新今宮駅から歩いた。途中でパンチの効いた教会があったりしたので、初めての道を歩くのは楽しいものだ。結局、地下鉄御堂筋線の動物園前駅の所まで来るわけだが、ここで左折して少し歩いた所で左折するとジャンジャン横丁であり、飲食店などが立ち並んでいる。かつてはもっと危険な雰囲気が漂っている街だったということだが、現在は観光客などで賑わっていて、ひじょうに健全である。そして、私はそうなってからしか知らない。
囲碁クラブやスマートボールができるゲームセンターなど、レトロなムードが漂い、何の仕事をしているのかよく分からない人々が平日の昼から酒を飲んでいる。初めて来た時からこの空気感がすぐに気に入ったのだが、それは日常の緊張状態から解放されたいという思いが、必要以上に理想化している部分も多分にあるのではないか、という自覚はある。つまり、私にとってのテーマパークであり、日常から離れた癒しの空間なのである。
串カツの店がひじょうに多いのだが、中でも人気なのが八重勝で、私も一番好きである。だいたい行列ができている場合が多いのだが、今回は平日ということもあり、それほどでもなかった。真向かいの方の店が今日は営業していないようだったので、やや進みが遅いような気もしたのだが、それほど待たずに案内された。若いカップル、サラリーマン、外国人観光客、中年夫婦など、ひじょうに多様性のある人々がカウンターにひしめき合い、楽しそうに酒を飲みながら串揚げを食べている。
携帯電話・スマートフォン使用禁止ということが書かれていて、それはどこまでなのかよく分からなかったのだが、見渡してもスマートフォンで何らかの操作をしている人が一人も見当たらなかったので、料理の写真も撮れなかったのが残念である。それはそうとして、その後にフィールドワーク的な用事もあったのだが、やはりビールなどを飲みながら食べるのがスタンダード気味なムードもあったので、滅多にやらないことだがまずビールを注文し、いくつか尋ねられた選択肢で魅力的な方を選んでいったところ、瓶ビールを平日の昼間から飲むことになったのであった。
東京にもここ数年間で大阪の串カツが食べられるチェーン店などが増えた印象があるが、やはりここは最高だなと改めて思った。様々な具材があるのだが、いずれもサイズが大きく、しかもカラッと揚がっていて、揚げものにもかかわらず胃にもたれず、何本でもいけてしまう。揚げものをいくつか注文し、その間に食べるために土手焼きを注文するのだが、これは3本セットですぐ出てくる上に、白味噌の味もとても美味しい。
串カツは3本セットで、他は1本ずつの注文となる。今回は串カツ、牡蠣、海老、茄子と、肉、魚介、野菜をバランス良さげに注文していた。やはりどれも美味しいし、海老はすごく大きい。そうこうしていると、私の隣には大学生ぐらいの女性2人組がやって来た。週末や祝日ならば家族連れも少なくないし、本当に多様な人々が分断されていない。カマンベールチーズ、プチトマトなど、お洒落な具材もある。子持ちししゃもというのが気になったのだが、私は得意ではないというか、むしろ苦手なので注文しなかった。笹身生姜というのに興味をそそられ、グリーンアスパラと一緒に注文したのだが、どちらも美味しい。特に笹身生姜は新感覚という感じで、生姜の爽やかさが揚げものに合うことを再認識させられた。食べたり待ったりしている間、職人達の仕事ぶりがライヴで見られるのも雰囲気があってとても良い。
それから新世界を少し散歩したのだが、づぼらやのフグが宙に浮いていたり、通天閣はちゃんとそこにあり、ビリケン像が阪神タイガースのコスプレをしていたり、相変わらずファンキーで最高であった。
それから梅田にメインの用事があったので、地下鉄御堂筋線に乗って行った。となれば阪神百貨店梅田本店スナックパークのいか焼きが食べたくなるので行こうとしたのだが、何度も行っているはずなのにやはりスムーズには行けない。地下鉄の方から行くと、阪神電車方面への方向を示す表示があったり無かったりで不安になる。阪急やJRについてはずっと表示されているのだが、阪神はあったり無かったりである。
阪神百貨店には有名ブランドの化粧品店やブティックなどが多数入っているのだが、この同じ建物の地下がスナックパークとなっていて、いろいろな飲食店がひしめき合い、そこで人々はお土産を買ったりその場で立ち食いをしたりしている。これもまた老若男女問わずという感じで、ひじょうに好ましい。いか焼きはとにかく人気があって、すごくよく売れているのだが、東京などの人がいか焼きと聞いてイメージするであろうイカの姿焼きのようなものではなく、生地にイカを練り合わせて焼いている。いわゆる粉ものの1つである。値段も安いので、お土産に何枚も買っていく人の姿をよく見かける。私はスタンダードないか焼きと和風デラというのを1枚ずつ注文した。玉子と一緒に焼いたのがデラバンで、それにネギを入れてソースではなく醤油で味付けしたのが和風デラである。
実は私は外で立ち食いをすることにやや抵抗があり、これまでもいか焼きは持ち帰り用に包んでもらい、ホテルに帰ってから食べたりしていた。しかし、ここ数年でこれが克服できたのは新潟の万代バスセンターでカレーを何度か食べたからなのだが、今回はここで食べて行こうと思った。当然だが、やはり焼きたての方がとても美味しいし、改めてイカがこんなにもたくさん入っていたのだな、と思った。
そして、私の中では阪神百貨店梅田本店スナックパークとセットになっているのが、阪神電車の梅田駅改札近くにあるジュースコーナーのミックスジュースである。様々なフルーツとおそらく牛乳がミックスされ、氷を砕いたもののようなジャリジャリ感もある。暑い夏などは特にありがたみを感じるのだが、冬でもやはり良いものである。これも老若男女が150円で買い、飲み干しては空になったカップを決められた場所に捨て、それぞれの目的地へと向かっていく。
ホテルにチェックインできる時刻が近づいていたので地下鉄御堂筋線に乗り、なんばで降りた。まだ数十分あったので、自由軒難波本店に行って名物カレーを食べた。ドライカレーのようなものに生卵がのったそのヴィジュアルにはひじょうにインパクトがあるが、これがとても美味しいのである。テーブルにある特製ソースも適量かけて、混ぜ合わせて食べるのだ。前回、ソースを入れるのを忘れたまま食べていて、次に来る時には絶対に忘れないようにと思っていたのだが、今回は店員が私を観光客だと判断してか、ソースを混ぜて召し上がることを伝えてくれた。
この店は雰囲気もレトロな感じがするのだが、店員達の会話のかしましい感じも、何かドラマのセットに入り込んだ気分を味わえるようなところがあり、得をしたような気分になる。せんば自由軒というチェーン店があり、似たようなカレーを出しているが、この自由軒とは別らしい。
名物カレーが有名な自由軒だが、他にもメニューはたくさんあり、その中にはごく一般的なカレーライスもあるのだが、それをこの店では別カレーと呼んでいるようだ。
ホテルにチェックインしようと街を歩いていると、Negiccoがライヴを行ったことで知っていた味園ユニバースを見つけ、感激していた。
ホテルで少し休んだり、まとめなければいけないものをまとねたりしてから外に出て、千日前の方に行った。吉本興業の劇場であるNGKことなんばグランド花月の入口には様々な芸人の名前が彫られた木彫り看板が設置されているが、あれには私の実家が旭川の木が使われているらしい。
せっかく大阪に来たのだからお笑いのライヴでも観て行こうと思ったのだが、私が好きなのはなんばグランド花月でやっているオーセンティックな感じのものよりは、荒削りだがイキの良い若手のネタだったりはする。それで、向かいのジュンク堂書店の5階にあった5upよしもとに何度か観に行っていたのだが、その後、よしもと漫才劇場に変わり、数年前にはジュンク堂書店が閉店した。今回、そこがドン・キホーテになっていることを知った。
5upよしもとの前はbaseよしもとで、文字通り地下にあったのだが、そこは現在、NNB48劇場となっている。今回、よしもと漫才劇場で夕方に約1時間の若手ネタライヴがあるということで、これはちょうど良いと思って前売券をインターネットで購入していた。わりと良いメンバーなのだが前売りが1000円という破格値であった。唯一の懸念としては、客層がおそらく女子中高生中心だろうということであった。本来、私のような年代のものはベテランの名人芸に唸っているべきなのだろうが、若手のネタが好きなのだから仕方がない。
からし蓮根は東京の劇場でも何度か観たことがあったのだが、その後、動画を観ただけでもかなり面白くなっていることは分かっていた。しかし、ライヴだとそれがさらに明白であり、会場をすっかり自分たちの空気に変えているようだった。ルックスやスタイルのコントラストもとても良いし、これは今後がさらに楽しみである。
ラニーノーズも確実に以前よりも面白くなってきて、今回のネタなどは若者以外にも十分にウケそうである。新しい形のギター漫才という感じで、以前はネタの中にギター歌を取り入れているという印象だったのだが、ギターや歌そのものが笑いになっていてとても面白かった。また、これは以前から思っていたのだが、色々なパターンの曲をそれっぽく作る器用さも貴重な才能である。
ニッポンの社長は「M-1グランプリ」の予選や敗者復活戦の動画で漫才を観たことがあるだけだったのだが、今回はコントで、しかもなかなかの演技派だということが分かった。また、企画のコーナーでメンバーの辻が「トレインスポッティング」のTシャツを着ていたのも良かった。
他の芸人も含め、全体的にとても面白かった。会場にはやはり若い女性がとても多かったのだが、会場を出ると次のライヴのためにさらにたくさんの人々が並んでいて、やはり圧倒的に女性が多かった。次は「大阪チャンネル」でも配信されている公開番組の収録があり、人気メンバーが多数出演するライヴだったのである。
その後、なんばグランド花月の売店などを観ていたのだが、1階に千鳥や和牛のUFOキャッチャーがあり、景品は缶バッジのようなのだが、家族連れの小さな男の子が和牛の方をやっていて微笑ましかったし、大阪らしいと思ったのであった。
千とせの肉吸いというのがあり、これはなんばグランド花月の近くにあるうどん屋で、吉本新喜劇の芸人が肉うどんのうどん抜きを注文したのが発祥だということである。その後、大阪名物の1つのようになっているのだが、この千とせという店は営業時間が10時30分から14時30分とひじょうに短く、なかなかタイミングが合わないのだが、現在はなんばグランド花月の1階に「べっかん」こと別館があり、ここは20時までやっている。
今回もタイミングが合わなかったので、この「べっかん」の方で食べることにした。肉吸いは肉うどんからうどんを抜いたものなので、主食にするには物足りないのだが、どうやら玉子かけご飯とセットで注文するパターンが多いようである。玉子かけご飯は大小から選ぶことができ、テーブルには千とせオリジナルの玉子かけご飯用の醤油が置かれている。また、肉吸いには豆腐が入ったものもある。豆腐が入っていない方の肉吸いと小さい方の玉子かけご飯を注文した。この時点で、実はそれほど空腹ではないのに勢いで次から次へと食事をしているなと気づき、少し間隔を空けようと思った。しかし、551蓬莱の看板が見えたので、やはり豚まんを買ってしまい、蒸したての方が美味しいに決まっているので、ホテルに帰るとすぐに食べた。
20時45分から道頓堀のZAZA POCKET’Sという会場でヒューマン中村と清友による「for R」というライヴがあるという情報を知り、これは観なければいけないので道頓堀まで行った。少し時間があったので外国人観光客に混じってグリコの看板などを撮影したりしていたらあっという間に開演時刻が近づいていたので急いで向かった。中座くいだおれビルの地下で、かつて松竹の劇場があった場所で吉本の芸人がライヴをやっているわけである。
中座くいだおれビルの入口からエスカレーターで下ると、ロビーは想像していた以上の人達で溢れていた。出演者が開演の2時間前ぐらいまでチケットの取り置きができことをツイートしていたので、わりと余裕があるのだろうと思っていたのだが、会場はほぼ埋まっていて、私は最後列で観覧することにした。
「for R」というタイトルは「R1ぐらんぷり2019」に向けてということだろう。それぞれが5本ずつ、合計10本のネタをやるというひじょうにストイックなライヴだったが、オープニングやエンディングのトーク、また、会場にいた方ならば分かるアンケートの特典動画撮影、それによってオープングトークときれいに繋がった流れなど、これぞライヴという感じで最高であった。
清友はライヴでは初めて観たのだが、とても良い声をしている。また、コントの衣装として使用する学生服などにそこはかとないアナクロ感が漂っているところもかなり好きだった。
ヒューマン中村はかつて「M-1ぐらんぷり」でファイナリストに選ばれたり準優勝したのはフリップ漫談であり、やはりそのタイプのネタが多かったが、着眼点やワードセンスに唸らされるところがいくつもあった。ライヴを観ながら細かくノートにメモを取っている男性や女性の姿も見られたのだが、やはり本人も芸人で勉強を兼ねて観に来ているのか熱心なファンなのかレポートを書く仕事の人なのか、それはよく分からなかった。最後にやった一人コント的なネタも良かった。実は男性ファンが多いのではないかと勝手に思っていたのだが、女性がひじょうに多かったのが印象的である。また、ヒューマン中村といえばかつて笑い飯のラジオ番組の中でできたエナジーボーイズというグループの一員ではあったが、メンバーには先日、「M-1グランプリ2018」で優勝した霜降り明星の粗品もいた。
なんばグランド花月の前のたこ焼き道楽わなか千日前本店で4周類の味が楽しめる「おおいり」というのを買って、ホテルに戻った。
一夜明け、早くも帰らなければいけないのだが、その前に道頓堀今井本店できつねうどんを食べる予定であった。ホテルをチェックアウトし、千日前から道頓堀まで歩いていくと、色々な飲食店やたこ焼きの屋台などが開店の準備をしていた。少し時間があったので、心斎橋筋商店街を散歩した。早くも外国人観光客で賑わい、開店前の免税店の前には長い行列ができていた。好きだった書店が閉店したことは知っていたが、その場所がマツモトキヨシになったことを知った。また今回、ツルハドラッグを大阪でもよく見かけた。旭川で創業され、以前はクスリのツルハという名前だったが、カセットテープが安くて、よく中高生の頃に利用していた。その店はもう無いのだが、いまや東京でも大阪でもよく見かけるようになった。
少し前まで確か大きな百貨店があった場所は工事中で、そこに大阪の街の歴史を追った写真がいくつも掲示されていた。年表のように時系列で並んでいるようなのだが、平成では2003年に阪神タイガースが優勝した時、たくさんの人が集まった戎橋を上空から撮影したものもあった。
道頓堀今井の横にとても狭い道があるが、これは昔の道を当時の広さのまま残したものらしく、当時の雰囲気を思わせるディスプレイなどがされている。上の方を見ると、魚をくわえた猫のはりぼてもあった。中座くいだおれビルの前では、お笑いライヴの呼び込みをやっていた。上の方の階には飲食店などが入っているのだが、大阪の懐かしいモノクロ写真もたくさん掲示されていて、これを見るのも楽しい。
道頓堀の商店街をさらに奥に進むと大だこというたこ焼きの屋台があるが、以前は反対側の橋の所で営業していて、色々揉めていたと読んだことがある。私が大阪で初めてたこ焼きを買ったのも、まだ橋の方にあった頃のここであった。当時、食べ物を外で食べることにひじょうに抵抗があったのだが、この時にその場で食べる仕様で渡され、周りでも多くの人達がそうしていたのでその場で食べてみたところ、よく分からない開放感に包まれ、少しだけ自由になれたような気がした。
道頓堀今井にはたくさんのメニューがあるのだが、いつも注文するのはきつねうどんである。いままで食べてきたすべての食べ物の中で一番好きだと言っても過言ではない。関西出身の知人や友人が東京のうどんは辛くて食べられたものではないというようなことを言う度にやかましく感じていたのだが、初めて大阪できつねうどんを食べた時、そのあまりの違いに驚いたものだ。透き通っただしは上品でありながらコクがあり、うどんもお揚げもネギもすべて美味しい。もうこれは1つの芸術ではないだろうか。今回もブレることがない、安定盤石の旨さであった。














