年末が近づくとベスト・アルバムがやたらとリリースされ、それはクリスマス需要を狙ってだったと思うのだが、おそらく現在はそれほどではないのだろう。かつてはプレゼントにレコードやCDを贈ることも少なくはなく、逆に現在はサブスクリプションサービスだったり音楽ライブラリをパソコンで管理していたりで、好みのコンピレーションをプレイリストとして簡単につくれてしまうので、ベスト・アルバムそのもののありがたみが薄れているということもあるだろう。
しかし、私が中学生や高校生だった頃、自由に使えるお金もそれほど多くはない中で、1枚にヒット曲がたくさん入ったベスト・アルバムはとてもうれしく、心が踊ったものである。ベスト・アルバムが好きだというと、ミーハーだとバカにされがちではあるのだが、こちとらミーハー上等で音楽ファンをやらせていただいているので、ベスト・アルバムが大好きだと改めて言いたい。曲数も多く詰め込まれがちなので、レコード盤で曲間をあらわす溝が小刻みにたくさんあるのもテンションが上がった。もちろんそれで音質は悪くなっているのだろうが、それを特に大きな問題だとは思っていなかった。というわけで、今回は好きなベスト・アルバム10組を選び、カウントダウンしてみたい。10枚ではなく10組である。
10. THE BEST OF BLONDIE/BLONDIE
1981年の秋にリリースされたブロンディにとって初のベスト・アルバムである。私は1980年から洋楽のレコードを買うようになったのだが、はじめのうちはまだ全米ヒット・チャートをちゃんとチェックしていなかった。その頃にブロンディの「コール・ミー」が1位になっていたのだが、この曲はラジオでもよくかかっていたので知っていた。1981年には「夢見るNo.1」「ラプチュアー」が立て続けに全米1位を記録し、これらは両方ともシングル盤を買った。このベスト・アルバムはその秋に出ていたのであった。私が実際にこのアルバムを買ったのはそれから数年後のことで、ブロンディはすでに解散していた。私がまだリアルタイムでは聴いていなかった、よりニュー・ウェイヴ的な音楽をやっていた頃のヒット曲がたくさん収録されている。その頃でいえば1978年の「恋の平行線」がポップ・ミュージック史に残る完璧なポップ・アルバムの1枚と言っても過言ではないほどのクオリティーなのだが、1980年に入ってからレゲエやラップを取り入れるなどより音楽性の幅が広がり、しかもさらに大きなヒットを連発してからの楽曲をも収録したこのベスト・アルバムは、バンドのキャリアを俯瞰する上でも便利だし、単純にとても楽しい。邦題の「軌跡!ザ・ベスト・オブ・ブロンディ」も勢いがあって良い。
![]() |
The Best of Blondie
618円
Amazon |
9. STREET LIFE: 20 GREAT HITS/BRYAN FERRY & ROXY MUSIC
ロキシー・ミュージックとボーカリスト、ブライアン・フェリーのソロ楽曲の中から20曲を厳選して収録したベスト・アルバムで、1986年にリリースされた。私はこれを出てわりとすぐに2枚組LPレコードで買い、引っ越したばかりの小田急相模原のワンルームマンションでよく聴いていた。ロキシー・ミュージックの「アヴァロン」が高校時代に流行っていて、全米ヒット・チャートにはランクインしていなかったものの、お洒落なロックの象徴のような認識の仕方はしていて、特にシングル・カットされた「夜に抱かれて」は気に入っていた。東京で一人暮らしをはじめてから少しして、ブライアン・フェリーがソロ・アルバム「ボーイズ・アンド・ガールズ」をリリースし、これは池袋パルコのオンステージヤマノで買った、CDプレイヤーはまだ持っていなかったので、やはりLPレコードを買った。「アヴァロン」の曲はラジオなどで聴いていただけでレコードは持っていなかったし、1970年代の作品は聴いたことすらなかった。ジョン・レノンが亡くなった直後にブライアン・フェリーがカバーして全英シングル・チャート1位を記録した「ジェラス・ガイ」まで入っているということで、買わない理由はない。実際に買って聴いてみると、1970年代の曲もものすごくカッコよくて度肝を抜かれた。個人的にはとても絶好のタイミングでリリースされ、出会うことができたアルバムだと思う。
![]() |
Street Life: 20 Greatest Hits
618円
Amazon |
8. 早熟/岡村靖幸
1987年にデビューした岡村靖幸の音楽をはじめて聴いて衝撃を受けたのは、1988年の春、帰省していた旭川から東京に戻る前の夜だった。旭川の書店で買った「ロッキング・オンJAPAN」でモノクロページのインタビューを読んで少し気になったのだが、深夜に地元のラジオ番組を聴いていると偶然かかり、すぐに気に入ったのであった。東京(正確には神奈川だが)に戻り、すぐにアルバム「DATE」を買って何度も繰り返し聴いた。プリンス、ビートルズ、松田聖子から影響を受けたというその新しい音楽性、独特な言語感覚で表現される当時の私にとってひじょうに切実な問題の数々、まさに衝撃であった。その後、デビュー・アルバムの「yellow」も買い、その後にリリースされたシングル「聖書」「だいすき」「ラブ タンバリン」、そして、1989年夏のアルバム「靖幸」とどれも素晴らしく、そのクオリティーは高まる一方であった。そして、1990年になり、シングル「Peach Time」に続いてリリースされたのが、このベスト・アルバム「早熟」であった。「yellow」と「DATE」の間にリリースされ、それまでどのアルバムにも収録されていなかったシングル「Dog Days」とカップリング「Shining(君がスキだよ)」が入っているのがよかった。「Dog Days」は「DATE」以降ほど岡村靖幸のオリジナリティーが全開にはまだなっていないが、当時における日本のポップスのフォーマットの中ではち切れんばかりの才能を感じ取ることができる。PSY・SのCHAKAによるゲスト・ボーカルも素晴らしい。そして、なんといっても夏ソングである。単にそれまでのシングルを集めたタイプのベスト・アルバムではなく、選曲はよく吟味されたのではないだろうか。収録されていないシングルがある一方で、「DATE」収録のエロ・ファンク「だいすき」や、折衷的なポップ感覚が堪能できる「靖幸」収録の「Vegetable」などが選曲されていて、やはり「DATE」収録の「Lion Heart」はオーケストラアレンジによる未発表の「Hollywood Version」を収録と、限られた収録時間、曲数でこの才能溢れる若手アーティストの多面的な魅力をコンパクトにアピールすることに成功している。このアルバムはオリコンのアルバム・チャートで3位を記録する大ヒットとなった。
![]() |
早熟
2,119円
Amazon |
7. GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA/山下達郎
山下達郎のことは中学2年の夏にヒットした「RIDE ON TIME」で知った。シュガー・ベイブとかナイアガラ・レーベルのことはもっと後になってから知った。カセットテープのテレビCMで流れていて、本人も出演していた。NHK-FMの「軽音楽をあなたに」で、他の曲もいくつか聴いたが、それはニューミュージックともまた違う、どこか新しさを感じさせるものであった。それから佐野元春や大滝詠一を聴くようになり、いずれこれらのアーティストたちがポップ・ミュージック史において同じ流れの中にいることを知るのだが、ごく自然な流れで1982年には山下達郎の「FOR YOU」を買った。これがまた素晴らしく、はじまったばかりの高校生活の毎を彩ってくれた。その後、シングル「あまく危険な香り」がリリースされ、そこそこヒットしていたがシングルは買っていなかった。そして、夏にはベスト・アルバムがリリースされ、後にそのタイミングでのリリースは契約上の都合などいろいろあったのだということを知るのだが、「あまく危険な香り」も収録されていたし、私にとっては最高のタイミングであった。このアルバムを録音したカセットテープを学校の同級生たちと行った海辺のキャンプに持って行き、ビーチ・ボーイズと替わる替わるに、ラジカセでずっと聴いていた。好きだったがレコードは持っていなかった「RIDE ON TIME」、しかもシングル・バージョンも入っていたし最高だったのだが、その時点では聴いたことがなかった1970年代の楽曲がまた初めて体験するようなカッコよさだった。
![]() |
GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA
2,130円
Amazon |
6. ROCK'N SOUL PART 1/DARYL HALL & JOHN OATES
ダリル・ホール&ジョン・オーツが1983年の秋にリリースしたベスト・アルバムで、邦題は「フロム・A・トゥ・ONE」である。私はこのレコードを高校の修学旅行の時に、オープンして間もない六本木ウェイヴで買った。私が全米ヒット・チャートをチェックしはじめた1981年に「キッス・オン・マイ・リスト」が1位になり、はじめてレコードを買った。それから「プライベート・アイズ」「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」「マンイーター」と1位を連発し、1980年代の半ばにおいてはアメリカのシングル・チャートで最もヒットを量産しているアーティストといっても過言ではなかった。このアルバムはそんな1980年代に入ってからのヒット曲の他に、全米1位になった「リッチ・ガール」をはじめとする1970年代のヒット曲や「セイ・イット・イズント・ソー」「アダルト・エデュケーション」という2曲の新曲が収録されていた。この過去のヒット曲に新曲を追加してリリースというパターンのベスト・アルバムはよくあったのだが、その新曲のクオリティーがそれほどでもなかったり、あまりヒットしなかったりというケースも無きにしもあらずであった。しかし、このアルバムに収録された新曲はちゃんとヒットした上に、クオリティーも他のヒット曲と比べて遜色のないものであった。
![]() |
Rock N Soul Part 1 (Slip)
887円
Amazon |
5. BEST OF BLUR/BLUR
ブリットポップブームにおいて、オアシスと人気を二分したブラーのはじめてのベスト・アルバムは、2000年の秋にリリースされた。実に18曲入りの大ボリュームである。このアルバムは新宿マイシティのHMVで買った記憶がある。これまでにブラーは「レジャー」「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」「パークライフ」「グレイト・エスケープ」「ブラー」「13」と6枚のアルバムをリリースし、「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」を除くすべてから、シングル・カットした曲を全英チャートのトップ10にランクインさせていた。インディー・ダンスブームに乗ってブレイク、商業的失敗と迷走、そこからの復活とブリットポップの隆盛、そして下降、音楽性の変化と様々な環境の変化があったが、卓越したポップ・センスは常に健在であった。「レジャー」と「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」との間にリリースされ、商業的には失敗したが、実は重要な楽曲だったのではないかと思われる「ポップシーン」が収録されていないのは残念だが、「ガールズ・アンド・ボーイズ」「カントリー・ハウス」「ビートルバム」「ソング2」「ゼアズ・ノー・アザー・ウェイ」「パークライフ」「テンダー」などのヒット曲や、トーキング・ヘッズ的な実験ポップ「ミュージック・イズ・マイ・レーダー」が新曲として収録されている。曲順も時系列ではなく、わりと考え抜かれたようなところがあり、そこもまた楽しめる。
![]() |
The Best of Blur
534円
Amazon |
4. SNAP!/THE JAM
ザ・ジャムのことは土曜深夜にアール・エフ・ラジオ日本で「悪意という名の街」のCMを聴き、モータウンみたいでカッコいいと思っていたのだが、そのうちに解散した印象が強い。当時は全米ヒット・チャートを中心に追いかけていて、ザ・ジャムはまったくランクインしていなかったので、よく知るきっかけがなかったのである。しかし、イギリスでは国民的バンドといえるほどの人気であり、全英シングル・チャートでは上位に入っていることが多かった。そのうちの何曲かはNo.1ヒットにすらなっている。フロントマンのポール・ウェラーがザ・ジャム解散後にミック・タルボットと結成したザ・スタイル・カウンシルはとてもお洒落な部分をも持つユニットで、日本でも雰囲気でなんとなくかなり受けたり、全米シングル・チャートにランクインしたりもした。そして、1980年代の半ばにザ・ジャムのベスト・アルバム「スナップ!」を2枚組のLPで買ったのだが、これがすごく気に入った。ザ・ジャムとザ・スタイル・カウンシルとで音楽スタイルは大きく変わってしまったが、ポール・ウェラーのソングライター及びボーカリストとしてのクセのようなものは共通していて、どうやら私にはそれがひじょうに体質に合うような気がしていた。「コンパクト・スナップ!」としてリリースされているCDは、曲数が少ないので要注意である。
![]() |
Snap
1,060円
Amazon |
3. THE IMMACULATE COLLECTION/MADONNA
マドンナはとても優れたポップ・アーティストとしてのみならず、反セクシズムのアイコンとしての重要性もひじょうに高い。このベスト・アルバムは1990年の秋にリリースされ、邦題は「ウルトラマドンナ~グレイテスト・ヒッツ」であった。この時点でリリースされていたオリジナル・アルバムは「バーニング・アップ」「ライク・ア・ヴァージン」「トゥルー・ブルー」「ライク・ア・プレイヤー」、また、この年には出演した映画「ディック・トレイシー」の関連作として「アイム・ブレスレス」をリリースし、そこからハウス・ミュージックの要素を大きく取り入れた「ヴォーグ」が大ヒットを記録していた。さらにはレニー・ウラヴィッツとの共作による「ジャスティファイ・マイ・ラヴ」(ビデオは過激すぎて放送禁止になった)など新曲が2曲収録されている。このアルバムは新宿のマルイシティ地下にあったヴァージンメガストアで買った記憶がある。CDショップなのにヴァージンコーラの自動販売機が設置されていたが、一度も買ったことがなかった。一度ぐらい買っておけばよかった。
![]() |
The Immaculate Collection
524円
Amazon |
2. THE HITS/THE B-SIDES/PRINCE
1993年にリリースされたプリンスのベスト・アルバムには、「ザ・ヒッツ1」「ザ・ヒッツ2」「ザ・ヒッツ&Bサイド・コレクション」の3種類があった。「ザ・ヒッツ1」「ザ・ヒッツ2」はそれぞれ別内容のベスト・アルバムであり、重複している曲はまったく無い。曲順は時系列でもなく、「1」「2」に振り分けられている基準がよく分からない。この頃までのプリンスはほぼ毎年ニュー・アルバムをリリースしていて、しかもそれがかなり話題になるという状態であった。一時期はプリンスがニュー・アルバムをリリースすることが、ポップ・ミュージック界全体の進化でもあるような雰囲気もあった。そんな時代のヒット曲を収録した2枚に、シングルB面の曲を集めた「Bサイド・コレクション」を加えた3枚組が、「ザ・ヒッツ&Bサイド・コレクション」である。この革新的なアーティストの魅力を堪能するには、単にビッグ・ヒットを追っているだけでは到底足りず、かといってオリジナル・アルバムをすべて聴き直すほどの時間も精神的余裕もない場合、このアルバムはひじょうに便利である。また、シングルのB面にひじょうに良い曲が多く、それが1枚にまとめられた価値も高い。
![]() |
HITS 1 & 2 (3CD BOX SET)
2,490円
Amazon |
1. 1962-1966/1967-1970/THE BEATLES
ビートルズの解散後、1973年にリリースされた2枚組ベスト・アルバム「1962年~1966年」「1967年~1970年」は、そのジャケットの色からそれぞれ赤盤、青盤と呼ばれたりもする。ポップ・ミュージック界に革命を起こし、このバンドがなければ現在のポップ・ミュージックはもっとつまらないものだったのではないかといわれるビートルズの音楽をコンパクトに楽しむには、最高のコンテンツである。ビートルズのベスト・アルバムとしては2000年にリリースされた「ザ・ビートルズ1」が最もお手軽ではあるのだが、個人的な見解ではあるが、あれではまったく十分ではない。とはいえ、「1962年~1966年」「1967年~1970年」を推している私に対し、ビートルズ・ファンの方々はやはり十分ではないと思われるのであろう。私が最も好きなビートルズは「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」「アイ・アム・ザ・ウォルラス」「アクロス・ザ・ユニヴァース」辺りに宿っているのだが、「ザ・ビートルズ1」にはこれらが収録されていない。しかし、実際にところ、「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」などが収録されていない時点でもちろん「1962年~1966年」「1967年~1970年」も十分ではないのだが、とりあえずまだましというレベルであり、しかも私はビートルズファンですらないのであった。とはいえ、この2タイトル、4枚にはポップ・ミュージック史上最も重要な音楽のいくつかが収録されていることは間違いなく、やはりこれ(ら)を超えるベスト・アルバムは現在のところ無いのではないかと思うのであった。
![]() |
THE BEATLES 1962 - 1966
1,492円
Amazon |
![]() |
THE BEATLES 1967 - 1970
1,604円
Amazon |










