ロビン「ハニー」を聴いた。 | …

i am so disapointed.

今週もまた女性ソロ・アーティストによる素晴らしいアルバムがリリースされた。スウェーデンのダンス・ポップ・アーティスト、ロビンである。両親共に俳優であったロビンは本国では幼い頃から子役やアニメーションの声優として活動していた。ポップ・シンガーとしての活動を本格的に開始したのは1990年代の半ば、ロビンが16歳の頃で、スウェーデン国内のみならず、アメリカやイギリスでもヒットを記録した。2005年にはよりアーティストとしての自由を求め、所属レーベルを去ってコニチワ・レコードを立ち上げた。想像がつくとおり、コニチワとは日本語の挨拶である「コンニチワ」をローマ字にしたものである。

 

2007年には「ウィズ・エヴリ・ハートビート」が全英シングル・チャート1位を記録、革新的でありながらもキャッチーなロビンのダンス・ポップは、批評家や音楽ファンから高く評価されるのみならず、商業的にも成功をおさめていた。2010年には「ボディ・トーク」シリーズと呼ばれる3枚連続でリリースし、ここからも「ダンシング・オン・マイ・オウン」がシングル・カットされヒットした。

 

今回リリースされたアルバム「ハニー」は、この「ボディ・トーク」シリーズ以来、8年ぶりとなる。その間には友人でありコラボレーターでもあったクリスチャン・フォークが亡くなり、そこから立ち直るのにはかなりの時間を要したという。

 

「ハニー」からの先行トラックとして8月にリリースされた「ミッシング・U」は、クリスチャン・フォークが亡くなった2014年に書きはじめられ、完成には数年を要したのだという。あなたがいなくて淋しい、「ミッシング・ユー」とは、日本語ではそのように訳されるのだろうか。1980年代にマーヴィン・ゲイが亡くなった時、ダイアナ・ロスが「アイ・ミス・ユー」という曲をリリースし、その時にこの意味を知ったような気がする。その後、クライマックスというグループの「アイ・ミス・ユー」という曲がヒットしたりもしていた。その前にジョン・ウェイトの「ミッシング・ユー」というのもあった。そして、1990年代の後半にはエヴリ・シング・バット・ザ・ガールの「ミッシング」が大ヒットした。1980年にトレイシー・ソーンとベン・ワットによって結成されたこのデュオは、日本ではネオ・アコースティックにカテゴライズされるような音楽をやっていたが、少しずつ音楽性の幅を広げ、ヒットした「ミッシング」のトッド・テリー・ミックスは完全なダンス・トラックであった。

 

誰か大切な人を失ってしまうという体験には、たまらないものがある。その人の存在が大切であればあるほど、それまでに一緒に経験した時間の記憶が価値のありものであればあるほど、それは辛く苦しいものであろう。忘れてしまうのが良いのだろうが、そう簡単に行くはずもなく、また、忘れたくはないという思いも一方では強くある。

 

しかし、時間が経てばその記憶も薄れ、いつかはっきりとは思い出せなくもなる。私がそのような思いでいた数年前、サニーデイ・サービスの「桜 super love」という曲を聴いた。「きみがいないことは きみがいることだなぁ」ではじまるこの曲に、どれだけ救われたことだろう。

 

今回のアルバムにおいて、ロビンはこれまでの作品以上にサウンド・プロダクションに深くかかわっているという。「ミッシング・U」のデモはパソコンのソフトによって作られたが、歌詞を完成させるのに2年かかったらしい。ドラムビートとシンセのリフがとても印象的であり、中毒性があるともいえる。はじめて聴いた時から私のパーフェクト・ポップ探知機が激しく反応し、これもまた年間最優秀トラック候補だなと思った。

 

エレクトロ・ポップであり、サウンドとしては自動化された無機質なものであると思われがちだが、その表層はわれわれが生きる現代社会を象徴し、しかし曲そのものはきわめて人間的である。アルバムでは「ミッシング・U」の次に、ずばり「ヒューマン・ビーイング」という曲が収録されている。

 

アルバムのにはどこか懐かしいハウス・ミュージックのテイストを感じさせる雰囲気もあり、「センド・トゥ・ロビン・イミディエイトリー」ではハウス・クラシックのリル・ルイス「フレンチ・キス」がサンプリングされていたりもする。

 

 

 

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