ザ・ゴー・ビトウィーンズ「16ラヴァーズ・レーン」 | …

i am so disapointed.

【クラシック・アルバムズ Vol.1】

 

突然、始まった新企画だが、飽きた時点で知らないうちに終わっている可能性も高い。タイトルから容易に察しがつくように、いわゆるモダン・クラシックというか、名盤的なやつをちゃんと聴き直してみようというタイプのやつである。

 

そして、その第1回目に選ばれたのが、というか選んだのが、ザ・ゴー・ビトウィーンズの「16ラヴァーズ・レーン」である。どの国のアルバム・チャートにも一切ランクインしていない可能性が高いこのアルバムを選んでしまうあたりで攻めている雰囲気を漂わせながらも、とりあえずちゃんと名盤としての評価は確立しているらしいタイトルで置きにいく小市民ぶりが心憎いともいえるだろう(知らんがな)。

 

それで、このアルバムなのだが、オーストラリアのインディー・ロック・グループ、ザ・ゴー・ビトウィーンズの6枚目のアルバムである。1977年に結成され、当時はポスト・パンク的なエッジが立ちながらも、メロディーが良いという感じの音楽性であった。曲を書いているのは中心メンバーであるロバート・フォースターとグラント・マクレナンである。1979年にオーストラリアを後にして、活動拠点をイギリスに移す。1980年にネオ・アコースティックの名門レーベルとして知られるポストカードからシングルをリリースしていて、これにはオレンジ・ジュースのスティーブン・ダリーも参加している。

 

ネオ・アコースティックにカテゴライズされる場合もあり、1990年にフリッパーズ・ギターが「カメラ・トーク」をリリースした時、CDショップのウェイヴで配るために作ったチラシでも紹介されていた(選ばれた曲は「カトル・アンド・ケイン」)。このチラシのコメントでは「やっぱり解散しないそうで、うれしい」と書かれているのだが、実際には1989年で解散している。その後、2000年にロバート・フォースターとグラント・マクレナンを中心に再結成するのだが、他のメンバーはまったく変わっていて、別のバンドとして考えた方がいいかもしれない。しかし、再結成後のアルバムもなかなか良いのだ。1989年に解散するまでの作品をコンパクトに楽しむには、1990年にリリースされた2枚組のベスト盤「1978-1990」が最適であろう。日本盤はアナログレコードと同じ曲数の2枚組CDがリリースされたが、輸入盤のCDは1枚で曲数が少なかったはずである。


1987年にベーシストのジョン・ウィルスティードが脱退し、バンドは拠点をイギリスからふたたびオーストラリアに移すことにした。ギタリストのロバート・フォースタードラマーのリンディー・モリソンはプライベートでもパートナーだったが、この時点では関係を解消していた。また、ザ・ゴー・ビトウィーンズにはマルチ・インストゥルメンタリストのアマンダ・ブラウンが途中から加入していたが、ボーカリストのグラント・マクレナンと恋人同士の関係になった。この時期のグラント・マクレナンの作品のほとんどは、アマンダ・ブラウンについて書かれたものだといわれている。

 

ザ・ゴー・ビトウィーンズの音楽はキャリアを積むごとに、初期のポスト・パンク的なエッジが取れていき、洗練された聴きやすいものになっていった。そして、楽曲のクオリティーはひじょうに高まり、文学的な歌詞と卓越したメロディーは職人技ともいえるレベルである。そして、1988年リリースのこのアルバムにおいては、リンディー・モリソンと別れたロバート・フォースターが悔恨と追憶のメランコリックな曲を書けば、アマンダ・ブラウンと恋愛中のグラント・マクレナンの曲は歓喜と自信とに満ち溢れているようである。

 

シングルでもリリースされた「ストリーツ・オブ・ユア・タウン」は、中でも最もキャッチーな曲であろう。ギターのイントロからして素晴らしく、夏の爽やかな気分を感じさせてくれるものである。グラント・マクレナンが「今日はいい天気ではないかい?」と歌うと、アマンダ・ブラウンが「輝いているわ」と歌う。そして、その後には「でも、雨雲が近づいているらしいよ」と、不吉なことが歌われるのだが、やはりコーラスは「輝いているわ」である。さらに、「肉屋がナイフを研いでいるのを見て」に対しても同じコーラス、そして、次には「この街にはボロボロになっている主婦がたくさんいる」と、なんとなく嫌なことが歌われる。

 

このどこか苦くて甘い歌詞と、最高にポップなメロディー、さらに男女ボーカルによるハーモニーが素晴らしい。全英シングル・チャートでは最高80位だが、これでもこのバンドにとって最も売れたシングルなのである。翌年に再リリースされるも、この時は最高81位に終わった。イタリアのダンス・ポップ・グループが2003年にこの曲のイントロをサンプリングしたシングル「ミルキー」をリリースし、ビルボードのホット・ダンス・エアプレイ・チャートで1位を記録している。

 

また、一曲目の「ラヴ・ゴーズ・オン」がまた、前向きさに溢れた最高のギター・ポップだが、歌いだしの歌詞が、「路地の野良猫が夢に見る鳥は青くて、淋しい時に僕が思う君とはそのような存在」という素晴らしいものだ。ババーバーバーというコーラスに続き、「愛とは続くもの」、また、終盤では「僕は君を幸せにする」と、清々しいほどに直球の歌詞が続く。

 

「ストリーツ・オブ・ユア・タウン」と「ワズ・ゼア・エニシング・アイ・クドゥ・ドゥ」にはミュージック・ビデオもあるのだが、ここでもグラント・マクレナンとアマンダ・ブラウンとの演技を超えたラブラブぶりが窺えて微笑ましい。

 

このアルバムを最後にバンドは解散し、ツアーの後でグラント・マクレナンとアマンダ・ブラウンも別れてしまった。それだけに、この束の間の輝きが眩しい。そして、グラント・マクレナンは2006年に46歳の若さで亡くなっている。

 

「16ラヴァーズ・レーン」は恋愛の絶頂期と破綻後について、その当事者によってリアルタイムで書かれた曲が集められたマスターピースである。

 

 

 

 

 

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