エルヴィス・コステロで好きな10曲。 | …

i am so disapointed.

8月25日はエルヴィス・コステロの誕生日ということで、今回はその素晴らしい楽曲の数々から10曲を選び、現時点で個人的に好きな順番を付け、カウントダウンしていくというのをやってみたい。

 

10. PILLS & SOAP

 

1983年にエルヴィス・コステロではなく、ジ・インポスターというアーティスト名でリリースし、全英シングル・チャートで最高16位を記録した。アーティスト名は偽物とでもいう意味だろうか。イギリスの総選挙の直前にリリースされたこの曲においては、当時のサッチャー政権の弱者切り捨て的な姿勢を、人間の動物に対する非情な扱いのアナロジーを用いて、激しく批判している。

 

当時、ヒップホップは世間一般的にはまだそれほどポピュラーではなかったが、イギリスではグランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴの「ザ・メッセージ」が前年に全英シングル・チャートで最高8位のヒットを記録した。エルヴィス・コステロは「ピルズ&ソープ」を書くにあたり、この「ザ・メッセージ」からも影響を受けたのだという。聴いた感じ、全くヒップホップのようではないのだが、ドラムのビートに乗せて強めのフレーズを繰り返すような箇所があり、そこに影響があらわれているような気がした。後にエルヴィス・コステロ&ジ・アトラクション名義でのアルバム「パンチ・ザ・クロック」にも収録された。

 

 

Punch the Clock Punch the Clock
7,543円
Amazon

 

9. I WANT YOU

 

1986年のアルバム「ブラッド&チョコレート」からのシングル・カットだが、全英シングル・チャートでの最高位は79位とそれほど高くはない。

 

エルヴィス・コステロは1984年にリリースされたジ・アトラクションズとのアルバム「グッバイ・クルエル・ワールド」を、キャリア中で最悪のアルバムだと言っていて、このアルバムを最後にバンドを解散した。個人的には後にカバー曲だと知った「アイ・ワナ・ビーラヴド」がかなり好きだったり、ダリル・ホールがゲスト参加した「ジ・オンリー・フレイム・イン・タウン」が入っていたりして、それほど悪い印象はない。というか、わりと初めの方に買ったエリヴィス・コステロのアルバムだったような気がする。

 

その後、1986年にザ・コステロ・ショウ名義で「キング・オブ・アメリカ」というアルバムがリリースされるのだが、クレジットも本名のデクラン・マクマナスとなっている。アニマルズやサンタ・エスメラルダ、尾藤イサオなどのバージョンでお馴染みの「悲しき願い」のカバーも収録されていたが、かなり渋い音楽性であり、当時は良さが分からず、買ったもののあまり聴いた記憶がない。そして、それから数ヶ月後に、エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズのニュー・アルバムとして、「ブラッド&チョコレート」がリリースされたのであった。解散したのではなかったのかと思いながらも、当時、小田急相模原のイトーヨーカドーの斜め向かいにあった友&愛で輸入盤のCDをレンタルした。記憶違いかもしれないが、当時、このアルバムは日本盤がすぐには発売されなかったような印象がある。このアルバムはより激しいロックンロールに回帰したようでもあり、すぐに気に入った。その中にあって、この「アイ・ウォント・ユー」はバラードである。

 

おそらく報われる見込みが薄いと思われる愛や欲望について、偏執狂的とすら思えるほどの熱さ、狂おしさで歌われている。

 

 

 

8. SHIPBUILDING

 

1983年のアルバム「パンチ・ザ・クロック」の収録曲であり、ロバート・ワイアットが歌ったバージョンが全英ヒット・チャートで最高35位を記録している。フォークランド紛争により、造船が盛んな地域では景気が良くなったが、若者が兵役に取られて死傷してしまう。そのような状況に対する異議申し立てが歌われている。エルヴィス・コステロのバージョンでは、ジャズ・ミュージシャンのチェット・ベイカーがトランペットを演奏している。

 

「パンチ・ザ・クロック」の収録曲で最もポピュラーなのは、おそらく「エヴリデイ・アイ・ライト・ザ・ブック」であろう。恋愛の行方を本を書くことにたとえたこのラヴ・ソングはエルヴィス・コステロにとって初のアメリカでのヒット曲となり、全米シングル・チャート最高36位を記録した。この曲も大好きなのだが、他にもっと好きな曲がありすぎて、今回は選外となった。

 

 

Punch the Clock Punch the Clock
7,543円
Amazon

 

7. (I DON'T WANT TO) GO TO CHELSEA

 

1978年にリリースされ、全英シングル・チャート最高16位を記録、2枚目のアルバム「ジス・イヤーズ・モデル」にも収録された。ポスト・パンク期のニュー・ウェイヴのシーンから登場したエルヴィス・コステロは、古典的なロックやポップスからの影響を消化した上で、それらの音楽をやっているという点で、早くから多くの批評家の高い評価を得ていたようである。この初期の代表曲においても、十分にそれが感じられる。この曲の内容は、最新の流行に浮かれるトレンディーな街、チェルシーとそれを取り巻く雰囲気に対して毒づいたものである。

 

 

This Years Model This Years Model
2,495円
Amazon

 

6. (WHAT'S SO FUNNY 'BOUT) PEACE, LOVE AND UNDERSTANDING

 

1978年、ニック・ロウのシングル「アメリカン・スクワーム」のB面に収録され、後にエルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズの3枚目のアルバム「アームド・フォーセス」のアメリカ盤に収録された。作詞・作曲はニック・ロウであり、これはカバー・バージョンである。冷酷なこの時代にこそ、平和と愛と理解が必要なのだというストレートな内容の曲なのだが、エルヴィス・コステロが歌うとどこかシニカルにも聴こえ、だからこそよりメッセージが逆に伝わりやすいという感じもある。

 

 

 

5. PUMP IT UP

 

1978年に全英シングル・チャート最高24位を記録し、アルバム「ジス・イヤーズ・モデル」にも収録されている。若者の欲求不満を性的な暗喩も込めて歌うという、いかにもパンク/ニュー・ウェイヴ的な楽曲である。当時、ナンパに行く前にこの曲を聴いて勢いをつけていたという話を、複数の友人から聴いたことがある。

 

 

This Years Model This Years Model
2,495円
Amazon

 

4. RADIO, RADIO

 

1978年に全英シングル・チャートで最高28位、アルバム「ジス・イヤーズ・モデル」にも収録されている。ラジオのコマーシャリズムについて痛烈に批判しながらも、曲調はポップでキャッチーである。当時、アメリカの人気テレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演予定だったセックス・ピストルズが出られなくなり、急遽、エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズが出演することになった。本当はこの「レイディオ、レイディオ」がやりたかったのだが、まだアメリカでは発売されていなかったデビュー・アルバム「マイ・エイム・イズ・トゥルー」を売り込みたかったレーベルの意向もあり、イギリスでのデビュー・シングル「レス・ザ・・ゼロ」を演奏することになったのだという。

 

この曲はイギリスの政治家、オズワルト・モズレーがファシストとしての過去を隠して、テレビのインタビューを受けていることに対しての怒りを歌ったものである。後にアメリカ用に歌詞を変えたバージョンも作られるのだが、この時点でこの曲をアメリカ国民に向けて歌っても、あまり意味がない。番組の生放送で、一旦、この曲をやりはじめるのだが、エルヴィス・コステロの指示でバンドはすぐに演奏を止め、勝手に「レイディオ、レイディオ」をやりはじめた。この件によって、エルヴィス・コステロはこの番組を出禁になったらしい。

 

後にまた出演できるようになり、1999年の25周年記念スペシャルでは、「サボタージュ」を歌うビースティ・ボーイズのステージに乱入し、演奏を中断させると、彼らをバックバンドとして「レイディオ、レイディオ」を歌うという場面もあった。

 

 

 

This Years Model This Years Model
2,495円
Amazon

 

3. OLIVER'S ARMY

 

1979年に全英シングル・チャートで最高2位を記録し、3枚目のアルバム「アームド・フォーセス」にも収録されている。いつの時代も、どこの国でも貧しい若者が戦争に行かされ、殺されるものだということが歌われたこの曲が、エルヴィス・コステロにとってイギリスで最も売れたシングルである。

 

40年近くも以前の曲だが、そのテーマは古くなるどころか、悲しいかなよりリアリティーを帯びてきているというのが現状である。オリンピックにおけるボランティアや資源の供出などが強要される場合、十分な注意が必要であろう。

 

 

 

2. WATCHING THE DETECTIVES

 

1977年にイギリスでシングルがリリーズされ、全英シングル・チャート最高15位を記録、これがエルヴィス・コステロにとって初めてのヒット曲となった。イギリスではデビュー・アルバム「マイ・エイム・イズ・トゥルー」には収録されていないが、アメリカ盤には入っている。

 

恋人が家で探偵もののテレビ番組を観ている様子を描写することによって、その状況における不機嫌さをシニカルに表現している。レゲエのリズムを取り入れたサウンドが印象的である。

 

 

 

1. ALISON

 

1977年のデビュー・アルバム「マイ・エイム・イズ・トゥルー」の収録曲で、シングルでもリリースされたが全英シングル・チャートにはランクインしていない。

 

ちなみに、エルヴィス・コステロのシングルでアメリカで最もヒットしたのは1989年の「ヴェロニカ」で、全米チャート最高19位である。アルバム「スパイク」に収録され、ポール・マッカートニーとの共作であるこの曲は、記憶を失った老婦をテーマにしている。この曲も大好きではあるのだが、今回は選外になってしまった。

 

それで、1位に選んだのがチャートにすら入っていない「アリスン」である。普通の感覚であれば、これは中二病的なマウントを狙った逆張りと取られても致し方ないのだが、どう考えてもこの曲が最も好きであり、また、客観的にもエルヴィス・コステロの代表曲とされる場合が多い。

 

個人的にはビッグ・スター「セプテンバー・ガールズ」、トッド・ラングレン「瞳の中の愛」などと並び、圧倒的に文句なく大好きな曲の1つである。まず、サウンドがたまらなく良いのだが、歌詞はおそらく以前の恋人と久しぶりに会ったシチュエーションを歌っていると思える。そして、おそらく当時よりも幸せそうには見えないし、自分自身もけしてそうではない。そして、その状況はおそらくこれから良くはなりそうにないし、寧ろより悪くなる予感すらしている。実にシニカルで救いのない内容のように思えるが、おそらく人生はそのようなものであり、だからこそこの曲にリアリティーを感じるのであろう。そして、そこに乾いたユーモアと優しさが感じられ、それが救いといえば救いである。人生におけるポップ・ミュージックの役割とは、実はそのようなものなのではないかとすら思える。