よく晴れた五月の土曜日であった。私はボーリングにもバーベキューにも新宿や渋谷でのリリースイベントにも(新宿については特典券を持っていたにもかかわらず)行かず、朝からストイックに仕事をしていた。すべての局面において正しい選択だけを行っているので後悔は何もない。仕事中、RYUTistばかりずっと聴いていた。「RYUTist HOME LIVE」「日本海夕日ライン」「柳都芸妓」「青空シグナル」を続けて繰り返し、10時前から20時ぐらいまでずっと聴いていた。「日本海夕日ライン」「柳都芸妓」は好きでよく聴いていたのだが「RYUTist HOME LIVE」はあまりちゃんと聴いていなかったので、この機会にたくさん聴けてよかった。「私たちは太陽じゃなく 月だと知りました」が「Zero and Perfect Moon~変わらない想い~」の歌詞だと知ったのは収穫であった。この曲はいろいろヤバそうなので(「痛み感じながら過ごす それが日常だとしても」など)、また改めて心に余裕がある時にじっくりと聴いて、より深く味わってみたい。
前夜には西興部村関連の動画を強めのアルコール飲料を摂取した状態で視聴して涙ぐむなどいかんともしがたい状況なのだが(道新ニュースにまで取り上げられていたのには驚いた。そして、コッパーさんが男前すぎる)、他のライブ動画で観たオープニングのジャズみたいなやつの音源ほしいなと思っていたら「RYUTist HOME LIVE」の最初に「RYUTIswing take 2」としてちゃんと入っていた。いかにこれまでこのアルバムを聴いていなかったかである。「集中!」「笑顔!」「感謝!」「1つ1つのステージを大切に!」などと大事なことを言い、その後、独特なセリフのようなものを言っているようなのだが、最後が「そんな感じでぇーす!」で締められているのが良い。すごく良い。それにしても「ラリリレル」とは一体何なのだろうか。謎は深まるばかりである。
帰りの電車で自宅最寄り駅に着くまでの数十分を利用してツイッターのタイムラインを見ていたところ、WHY@DOLL「菫アイオライト」のSpotifyでの再生回数が急激に増えているという。しかも、海外のユーザーによく聴かれているようなのだ。何らかのリスト的なものに入ったことが原因らしいのだが、私はSpotifyのアプリケーションをiPhoneにダウンロードしているもののほとんど使っていないのでよく分からない。
主にiTunesというかApple Musicを利用している理由はCDや他の方法でダウンロードした音源と一括管理できて、Last.fmで自動的に再生回数が計算されたのをときどき観て楽しんでいるからである。ちなみに現在のところ私のLast.fmアカウントにおけるWHY@DOLLの累計再生回数は21位であり、ニルヴァーナとデヴィッド・ボウイとの間である。
約1年半前、私の音楽生活は一部の日本人アーティストを除けばほぼ海外のアーティストのものを聴いていたわけであり、WHY@DOLLについては北海道出身で、Negiccoと同じT-Palette Recordsに移籍したばかりという情報しか知らなかった。メンバーの名前も知らなければ、ユニット名すら正確に読めていなかった可能性が高い(ちなみに「ホワイドール」と読み、愛称は「ほわどる」である)。実際には活動拠点を東京に移して何年も経っていたのだが、北海道に住んでアイドル活動をやっているものだと勘違いすらしていた。
どんなものだろうと興味本位で「菫アイオライト」を聴いてみたところ、いきなりガツンときてすぐに好きになってしまった。ディスコやファンクの要素を取り入れたアイドルポップスが私は何となく好きだなという気はしていたのだが、これはそういったタイプのジャンルにおける1つの到達点ではないかと思った。サウンドはものすごくカッコいいのに、声がものすごくキュートなのも良かった。久しぶりに自分にとってのパーフェクトなポップ・ソングに出会ったと思えた。その後、この曲を気に入って何度も聴いたし、その時点における最新アルバム「Gemini」も聴いてみたところかなり良かったのだが、不思議とメンバーやユニットそのものまでは興味が湧かなかった。
翌年の夏にアルバムが出てこれもかなり良かったので感想のようなものをブログに書いて、たまたま翌日に仕事先の近くでイベントがあったので大して期待もせずに行ったらものすごく良くて、それからライブやイベントにおそらく30回ぐらい行っているような気がする。WHY@DOLLのパフォーマンスは実際にものすごく良いのだが、私のような古いタイプの人間というのは、アイドルのパフォーマンスなんて大したことはないだろうという先入観を持っているし、いろいろと加工や補正がされているであろう音源で聴いている方が良いに決まっているなどと思っているのである。ところが、WHY@DOLLの場合はライブを観たら音源だけで聴いているよりも、控えめにいって2億倍ぐらいは良かった。
しかし、この日、じつは大したことはないだろうと思ったにもかかわらず行こうと思った理由の1つは、たとえパフォーマンスが良くなかったとしても、あの「菫アイオライト」を生で聴けるならばそれだけでも行く価値があるのではないかと思ったからである。もちろんその曲もやって最高だったし、それ以前にリハーサルの「Dreamin' Night」の時点でこんなちゃんとしたものを無料かつ至近距離で観られていいのだろうか、という気分にはなっていた。
何が言いたいかというと、要は「菫アイオライト」はそれぐらい強力な曲だということである。ライブで何回も観たけれど、その度にいつも確実に良い。もっともライブに行きはじめた当初は周囲のファンの方々の多くが振りコピをやりがちなのに合わせることが必死で、ステージよりは最前列にいるファンの後姿を見て真似をしていることもわりと多かった。その方も来月には転勤で東京からいなくなってしまうということなので、もう頼れないと思うと不安で仕方がない。ザ・クラッシュの「ルード・ボーイ」で、ステージでの演奏を見つめるファンの姿に胸が熱くなるのだが、私はWHY@DOLLを熱心に応援するこの方の姿をいつも見ていてそれに近い感動をいつも覚えているのだが、人見知りなのでたとえ先日のように特典会の列ですぐ目の前にいたとしても本人に直接言うことは出来ない(知らんがな)。
さて、いまのところほぼ前置き的なことしか書けていないのだが、要は海外の一部の音楽ファンやDJの間では日本のシティ・ポップがわりと人気であるという話である。日本に来た外国人に取材するテレビ番組「Youは何しに日本へ?」において、大貫妙子の「SUNSHOWER」を探す外国人が取り上げられたり、YouTubeを検索すると海外の音楽ファンやDJによるオリジナルのジャパニーズ・シティ・ポップ・ミックスなどが簡単に見つかる。
日本のシティ・ポップとは1970年代後半のニュー・ミュージックをルーツに持ち、サウンド面においては当時、流行していたAORやフュージョンの影響を強く受けているようなものだろう。また、今年は日本にディスコ・ブームを広めた映画「サタデー・ナイト・フィーバー」の上陸(本国では前年の公開)40周年ということで、それに因んだ企画も進行しているようである。ディスコ音楽の要素を取り入れた歌謡曲も数多く制作され、それらは後にディスコ歌謡として再評価され、2001年にはPヴァインレコードからコンピレーションCDも数種類リリースされた。
尚、ポップ・ミュージック界のトレンドを貪欲に取り入れ、独自のものをつくり出す術に長けた日本の歌謡界においては、1980年代の前半にいわゆる「テクノ歌謡」と後に呼ばれるようになる作品が量産された。PヴァインレコードはこれについてもシリーズでコンピレーションCDをリリースしているが、これには「菫アイオライト」の作曲者である吉田哲人さんもかかわっているということである。
現在、海外の音楽ファンからはこういったディスコ歌謡ものも含めて評価されているようである。私は海外でリリースされたジャパニーズ・シティ・ポップのコンピレーションCDを通信販売で購入したのだが、それには浅野ゆう子「サマーチャンピオン」などのディスコ歌謡も収録されていた。シティ・ポップの中でも山下達郎や吉田美奈子などの作品には特にディスコ音楽にも通じるものがあり、この辺りが一緒にまとめて評価されるのも分かるような気がする。
日本でAORと呼ばれているような音楽は海外のロック批評的な文脈では正当に評価されていなく、それでも確かに好きだというような意味合いで、「ギルティー・プレジャー(後ろめたい喜び)」などと呼ばれることもあった。アメリカでは2000年代の半ばに「ヨット・ロック」というTVシリーズが制作、放送され、それは日本でいうところのAORを取り上げたものであった。1980年代のはじめに日本でベストセラーになった田中康夫の小説「なんとなく、クリスタル」で流れていたのは、AORであった。そこでは社会的なメッセージ性よりも気分が重要視された。「ヨット・ロック」によって再発見されたのは、まさにその気分であり、リアルタイムでは体験していないがそれを魅力的だと感じた若手アーティスト達による「ヴェイパーウェイヴ」が盛り上がった。この辺りは2010年代以降の日本における若い世代によるシティ・ポップ・ブームにも通じるところがあるように思える。
ディスコ・ミュージックの中でもわりと評判が良いのは、ブギーと呼ばれるようなものである。その定義は一言ではなかなか伝わりにくく、人によって認識に誤差があるようにも思える。しかし、これは間違いなくブギーだといえるのは1982年にパトリース・ラッシェンがリリースした「フォーゲット・ミー・ノッツ(忘れな草)」であろう。私はおそらくこのブログの中で何度かWHY@DOLLのアルバム「WHY@DOLL」に収録された浦谷はるなさんのソロ曲「忘れないで」について、「フォーゲット・ミー・ノッツ(忘れな草)歌謡」などと書いたはずである。「フォーゲット・ミー・ノッツ(忘れな草)」はジョージ・マイケル「ファストラヴ」やウィル・スミス「メン・イン・ブラック」といった大ヒット曲にもサンプリングされた大ネタではあるわけだが、「忘れないで」においてはタイトルにもインスパイアが見らる。また、「忘れないで」はただ「フォーゲット・ミー・ノッツ(忘れな草)」にインスパイアされたと思われるだけにはとどまらず、きわめて日本のニュー・ミュージック的な湿度のあるメロディーも素晴らしい。私ははじめて聴いたときに、荒井由実が三木聖子に提供したのを石川ひとみがカヴァーしてヒットさせた「まちぶせ」を思い出したりもした。そして、浦谷はるなさんの薄味のボーカルが本当によくて最高だと思っていたのだが、ライブパフォーマンスにおいてはかなりエモーショナルなダンスを見せる。私はWHY@DOLLが北海道で活動していた頃からの古参ファンの方々が浦谷はるなさんのことを「浦谷」と呼び捨てにしがちな感じがとても好きなのだが、昨年の秋にこの曲のパフォーマンスを観た後、地元のファンの方が「浦谷ってこんなに色っぽかったっけ」とため息にも似た感想を漏らしていたのが印象的であった。
ド新規泡沫(主に)在宅ファンの私としてはきれいなお姉さんとしての浦谷はるなさんしか知らないのだが、過去の動画などを観ると、なかなか小娘感があって、それはそれで好ましいと思うのである。
他にもWHY@DOLLの音楽にはアルバム「Gemini」収録曲も含め、ディスコやファンクテイストのシティ・ポップっぽい曲がたくさんあるし、新曲の「Sweet Vinegar」などはどうやらオリエンタルムードもあるらしい(もはやあまり覚えていない)ので、さらに海外の音楽ファンに受ける要素がありまくりということであろう。
日本のポップ・ミュージックがどのように海外の音楽ファンに見つかるのかというと、圧倒的にYouTubeらしい。WHY@DOLLが昨年からYouTubeにDanceMovieを上げまくって来たのも、そうなってくるとひじょうに有効であるような気がする。
NegiccoとかWHY@DOLLとかが好きになって、もしかして最近の日本のアイドルポップスもいろいろ好きになれるのではないかと思っていろいろ聴いてみたのだが、どちらかというと異端の部類であるという気が何となくしている。若くて可愛い女の子と接触したり認知されたりすることにはほとんど興味がなく、優れた楽曲とパフォーマンスを楽しみたいだけの私としては、出来れば音楽面でもっともっと注目されてほしい。
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