先日、新潟を拠点として活動する4人組のアイドル・グループ、RYUTistのニュー・シングル「青空シグナル」を買った。表題曲、カップリング曲共に素晴らしく、それぞれについて感想のようなものをブログに書いた。ツイッターのタイムラインを見ていると、「雲遊天下」という雑誌の128号にRYUTistについての記事が載っていて、それは最近このグループに興味を持った人には資料としての価値も高いというようなツイートが目に入った。リンク先のURLをタップし、すぐに注文した。注文確認メールのようなものを見てみると、「新潟発アイドルRYUTistと町の記憶」という特集タイトルであることが分かった。このグループの音楽は好きでよく聴いているのだが、じつはメンバーのキャラクターやグループの歴史についてはまったく知らないに等しいような状態である。そして、このグループの音楽の魅力には新潟を拠点としていることによる部分も大きいのではないかと推測をしていた。この特集タイトルはそんな私にとってひじょうに興味深いものであり、雑誌が届くのが待ち遠しかった。
到着にはおそらく2、3日は要すると思われ、週末は仕事で忙しいのだが、その合間に読めればと思っていたのだが、金曜日の午後にマンションのポストをのぞくと、早くも版元であるビレッジプレスからの封筒が届いていた。その場で開封すると、思っていたよりも小さなサイズであり、その表紙の感じなどから、かつては各種発行されていたアンダーグラウンドなミニコミ誌を思わせる懐かしい感じがあった。中をパラパラめくってみると、パイドパイパーハウスの長門芳郎さんのインタヴューや、中川五郎さんや友部正人さんの原稿なども掲載されているようであった。巻頭から約30ページの特集を一気に読んだ。正に私の知りたかったことが凝縮された読みごたえのある特集だったし、このグループに対してますます興味が湧いてきた。
プロデューサーの安部博明さんがどうすればメンバーがやりやすい環境で活動でき、それによってより良いパフォーマンスが実現できるか、それを考えて運営していて、それゆえの敢えて新潟を拠点とした活動であったり、他のアイドルとは少し毛色の違ったイベントへの出演なのだということが何となく分かった。
RYUTistのことを音楽を気に入って聴いている以外にほとんど何も知らないに等しい私だが、北海道の西興部村で何度かライブを行っていることは何となく知っていた。この読みにくい地名は「にしおこっぺ」と読むのだということを、私はすでに知っていた。私は1980年代の前半に旭川の高校に通っていたが、同じ学年に興部町から汽車で通学している男子生徒が2人いた。そのうちの1人はハード・ロックが好きで、旭川駅近くの中古レコード店、レコーズ・レコーズでレコードを見ているところに出くわすことが何度かあった。よく知らないし行ったこともないのだが、かなり小さな町であることは間違いないだろう。西興部村はおそらくその興部町の近くにあり、さらに小さな村であろう。。では、RYUTistと西興部村とのあいだにどのような関係があるのだろうか。新潟から北海道まではるばる行くのに札幌や旭川ではなく、西興部村であることにはそれなりの理由があるに違いない。この特集を読むことによって、その疑問もやっと解けた。
西興部村に住むある1人の男性が新潟に滞在した際に「古町どんどん」でRYUTistを観て、その気迫の中に地元愛が滲み出たステージに感銘を受け、地元のイベントに呼びたいと思ったのだという。そして、直接オファーしたところ、これが実現したのだという。
私が高校生だった頃、興部町から通学していた生徒は汽車を使っていた。しかし、私はこれまでその興部町というのが北海道のどの辺りにあるのかまったく理解していなかった。これを機会に調べてみたところ、オホーツク海岸のようである。旭川からは想像していたよりもかなりの距離があり、よく毎日通っていたなと思ったのであった。そして、西興部村は興部町よりもやや内陸に位置するようである。しかも当時、汽車が走っていた名寄本線は私が高校を卒業した4年後に廃止になっているらしく、交通アクセスはひじょうに厳しくなっているようである。にもかかわらず、RYUTistがライブを行う日には遠方から多数のファンが訪れ、地元の宿泊施設が満室になることもあるという。
単にビジネスとしての効率だけではない、こうした人の想いや縁というようなものを大切にす考えがなければ、このようなことは実現していないだろう。
新潟の北書店で開催されているイベント「柳書店」では、RYUTistのメンバーが好きな本を紹介し、それにサインをしたものをファンが買えるのだという。これほど想いがこもり、記念にもなるグッズもなかなかないのではないか。
また、RYUTistにはオリジナル曲の他にカヴァー曲のレパートリーが50曲もあるということを知り驚いた。以前に佐野元春「世界は慈悲を待っている」のビデオクリップコンテストに応募し、入賞したという動画を観たことがあった。私はいわゆる流行歌以外の音楽を自分で見つけて意識的に聴くようになったごく初期に佐野元春の音楽を知り、特に10代の頃にはかなり影響を受けた。そして、この特集を読むことによって私が東京で一人暮らしをしてから最初のクリスマスに向けて、佐野元春がリリースした「Christmas Time In Blue」をもまたカヴァーしていることを知った。
メンバーのインタヴューも掲載されているのだが、想像していたのにかなり近いキャラクターであり、これがそのまま音楽の魅力にもつながっているように思える。これもおそらく新潟を拠点としているからこそであろう。そして、とても美しいRYUTistのヴォーカルの中でも私が特に声質を気に入っているメンバーの名前がともちぃこと宇野友恵さんであることも分かった。
ますます暴威をふるう社会のグローバル化によって、日常は加速を余儀なくされ、効率化だけが過剰に求められる。それは、人間の生活における大切なものを確実に破壊しているように思える。
この特集を読む限り、RYUTistの活動においては人の想いや縁といった、必ずしも効率的ではないものが重視されているような気がする。ある意味において、これは現在におけるカウンター・カルチャーなのではないだろうか。
私がこのグループの音楽になぜか魅かれてしまう理由の核心も、もしかするとこのようなところにあるのかもしれない。
そんなRYUTistは週末、東京でリリースイベントを行うのだという。私はそんなことも知らずに、単純に「青空シグナル」のCDが欲しくて新宿のタワーレコードで買ったのだが、土曜日のイベント参加券のようなものももらえた。しかし、当日は仕事のため、どうしても行くことが出来ない。残念だがこれは仕方がない。
私が「青空シグナル」のCDを買ったちょうど2年前、2016年5月15日には「古町どんどん」でNegiccoを観るために新潟にいた。せっかく新潟まで行ったのだから、本来ならば他のアーティストのライブやお祭り全体を楽しみたかった。しかし、当時。原因がよく分からない片足首の痛みに加え、当時のブログを読み返すと他にもいろいろ体調が悪かったらしい。それで、古町のステージにはNegiccoが出演する直前に行ったのだが、アンコールの1曲だけRYUTistを観ることができた。その時の印象については、下記のように記録していた。
快晴の日曜日、しかも大きなお祭りの真っ只中である。家族連れなど、多くの人々で賑わっていた。中でもオレンジローソン前のステージあたりには、かなりの人だかりが見える。そして、アンコールを求めるような声がしていた。そして、アイドルの声が聞こえた。
古町出身のアイドルグループ、RYUTistのようだ。じつは少し気になっていて、ちゃんとライブを観たいとも思っていた。しかし、足が痛かったので断念したのであった。
人だかりの後ろの方に場所を確保した。目の前にはかなりアツいRYUTistファンがいて、熱心に応援していた。アンコールのパフォーマンスしか観ることができなかったが、とても真っ直ぐでひたむきなステージのように思えた。ファンの応援にも一体感があり、地元ではすでにかなりの人気を得ていることが分かる。とても好感を持った。
RYUTistの音楽や活動と新潟という街の歴史や風土とは深く結びついている。直観的に感じていたことは、この特集を読むことによって確信に変わった。そこには人がより良く生きるために必要な何かがあり、それはおそらく変えるべきではないものなのであろう。それを変えようとする力が不可抗力的に押し寄せるとき、大切なものを守るために抗おうとする。私がRYUTistの音楽を好ましく感じる理由は、どうやらこの辺りにあるような気がしてならない。
アルバム「柳都芸妓」の最後に収録された「口笛吹いて」には、「慌てないで行こう 僕らが生きてるこの世界は いつでも希望に溢れてる」「焦らないで行こう 嫌なこともあるけど この世界はそれでも愛が溢れてる」という歌詞がある。効率化を重視して人間的な精神性を不機嫌に削っていきがちなこの時代において、こういった姿勢こそが最も必要なレジスタンスなのかもしれない。
それはかつて高度経済成長の時代に、行き過ぎた物質主義に対して異議申し立てを行った芸術家たちの姿勢に通じるところもあるのではないだろうか。そう考えると、じつは今回はじめて知ったこの「雲遊天下」のような雑誌でRYUTistが取り上げられるのは、じつに自然なことのようにも感じる。
RYUTistのライブを観ることとふたたび新潟に行くことが、私のやりたいことリストの上位に上がってきた。
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