ゴールデンウィークはずっと仕事なので、火曜日のWHY@DOLLレギュラー公演でひとまず遊びに行くのは一旦終わりにしようと思っていたのだが、水曜日に思っていた以上にいろいろ捗り、ツイッターのタイムラインを見るとEBISU BATICAのイベントについてのツイートが流れてきた。
WHY@DOLLにDJ Megu(Negicco)、そして小西康陽さんが出演するという、とても魅力的なイベントである。はじめて知ったときから気にはなっていたのだが、時期的になかなか厳しそうであり、まずはWHY@DOLLのレギュラー公演に行けることを最優先にスケジュールを調整していった。
時間がつくれそうだとなればもう行くしかないのだが、私が見たツイートには前売りがお得であるというようなことが書かれていたので、リンク先のチケット購入サイト的なところに飛んだところ、すでに受け付けが終了しているということであった。当日券の有無は当日に問い合わせなければ分からないということだったので、当日券がもしあったら行っておこう的なスタンスで、その日も勤務表上は休日であったが、朝から勤務先に行って仕事をしていた。ある程度の目処が立ったので一旦帰宅し、ティーンエイジ・ファンクラブのことを書いたブログ記事を仕上げたり、銀行に行ってマンションの家賃を振り込むなどの用事を済ませたり、飼い猫と遊んだりしているうちに夕方近くになっていた。
恵比寿は上京したばかりの頃から馴染みの深い街なのだが、EBISU BATICAというクラブには行ったことがない。グーグルマップで調べながら行ったその場所は、何度も前を通ったことがあった。早すぎたのかまだオープンしていなく、外に受付の台のようなものはあるのだが、まだ誰もいない。意味もなく辺りをブラブラしながら、ちゃんと立ち止まってツイッターを確認すると、当日券はあるということであった。
ふたたび会場前に行くとスタッフの方がいたので尋ねてみたところ、当日券はあるのだが前売券を持っている人たちが全員入場した後の販売になるということであった。となると時間はまだかなりあるので、恵比寿駅の方に行こうと歩き出すと、DJ Megu(Negicco)がスタッフさんと歩いてきて、普通にすれ違った。Negiccoのメンバーをライブやイベント会場以外で見たのははじめてだったのだが、とにかくオーラがすごい。美しくて顔が小さくてキラッキラしている、という素人が街で芸能人を見たときの典型的な感想以外に何も出てこなかった。人生、本気で生きていると良いことがあるものだ。高揚した気分のまま歩いていると、恵比寿駅付近でいつも親切にしてくださるWHY@DOLLファンの方に遭遇した。「さっきDJ Meguとすれ違ったんですよ!」と興奮気味に話したところ、「あー私もさっきすれ違いましたよ」とクールに返されてしまった。
atreのショップを見たりして適当に時間を潰し、ふたたびEBISU BATICAの前まで行った。おそらく昨年の「ネギのカラオケ」で一緒のボックスで観覧されていた方がいらっしゃったのだが、人見知りが発動して話しかけられなかった。開場を待っているあいだ、少し前に恵比寿駅近くで遭遇したWHY@DOLLファンの方からEBISU BATICAの構造などについて丁寧にレクチャーしていただいた。辺りはすっかり都会の夜を待つムードにつつまれ、会場からはダンス・ミュージックが聞こえてくる。
私は当日券を購入して入場したので、列の後ろの方であった。開演時刻近く、順番に階段を上って2階のフロアへ行く。聴こえているのはピチカート・ファイヴの曲だが、おそらくカヴァー・ヴァージョンである。ステージにはもうすでにオープニングDJのWHY@DOLLがいて、プレイはもうはじまっているようだ。WHY@DOLLはこれまで何度かDJプレイを行なっているが、私が観るのはこの日がはじめてであった。機材や卓を前に横に並び、ヘッドフォンで音をチェックしたりしている感じがとても新鮮であった。
WHY@DOLLの曲と楽曲を提供してくれているアーティストの曲、それから洋楽を1曲というセットリストであり、持ち歌ではライブで歌ったりもしていた。ただ曲を続けて流している訳ではなく、いろいろな技も駆使していて、想像していたよりも本格的であった。
続いて、ポップでキュートな雰囲気の女性がDJとして登場した。後で調べてみたところ、YUKA MIZUHARAさんというモデルのようである。1970年代のアイドル歌謡曲ではじまったので、レトロな和モノをKAWAiiカルチャー的に表現するタイプのDJかと思ったのだが、そうではなかった。
ピチカート・ファイヴのレコードのセリフや歌の部分を細切れにして再構築するなど、かなりカッコいいことをやっていて、それでいて全体的にキャッチーでダンサブルでチャーミングである。未知すぎてどう形容していいものかよく分からないのだが、とにかく大好きでずっと聴いていたいと思った。ガーリィなセンスに満ち溢れていて、いわゆる「渋谷系」のある部分を継承しているようにも思えた。
ピチカート・ファイヴがヴォーカリストに野宮真貴を迎え、新体制になってからはじめてリリースされたアルバムが「女性上位時代」だが、やはり女性の存在を尊重するカルチャーからは、カッコよくて魅力的な表現が生まれるものである。逆に女性の自由や権利を制限するような環境では、文化もどんどんダサくて暗いものになっていくのであろう。だからこそセクシズムやセクシャル・ハラスメントなどは徹底的に踏み潰さなければならない。怒るべきものにちゃんと怒っているからこそ楽しみが何倍にも増幅され、良いことも次々に起こるのだろう。
続いてのDJは、OKAMOTO’Sのオカモトレイジさんである。OKAMOTO’SはNegiccoに「SNSをぶっとばせ」という最高のポップ・チューンを提供したイカしたロックンロール・バンドという印象だが、じつはそれほど詳しくはない。それで、ロック中心のプレイリストなのではないかと勝手に想像していたのだがまったく違い、ソウルやR&Bが主体のようであった。80年代ディスコ・ヒットの中でも私が特に好きな曲ではじまり、途中にもヒットした当時にリアルタイムで聴いていた曲などもあって、かなり楽しめた。
1980年の女性アイドル・ポップス、それもヒットしたわけではなく、マイナーな部類に入るであろう。そんな曲がかかった。それは和モノレア・グルーヴ的に再発見され、日本語ラップのネタとしてアップデートされ、いまやダンスフロアのクラシックになっている。
この曲を一昨年のゴールデンウィークにも、クラブイベントで聴いた。渋谷のクラブで行われたそのイベントには、DJ Megu(Negicco)が目当てで行くことにした。当時、私は12年以上も活動を続けていたアイドルグループ、Negiccoの音楽をはじめて聴いてからやっと2ヶ月が経った頃であり、中野サンプラザでのワンマンライブを観た直後であった。
テンテンコが主催したそのイベントには、DJ Meguの他にECDやKANDYTOWNの呂布なども出演していた。ECDはラップを3曲やった後、DJプレイを行った。そのときと同じ曲が、この日は別のヴァージョンでかかった。ECDは今年の1月に天国に旅立ったが、その魂はダンスフロアで生き続けているようだった(ECDの魂を感じられる瞬間は、イベントのもっと後の時間にも訪れた)。
続いてDJ Megu(Negicco)が登場し、やはり小西康陽さんへのリスペクトが感じられる選曲からスタートした。Negiccoの曲も含むJ-POPやアイドルポップスが中心のプレイリストで、ごく一部を除いたこのジャンルの音楽にひじょうに疎い私には分からない曲が多かったのだが、とにかくニコニコ笑顔でノリノリで曲をつなぐDJ Meguのオーラを感じているだけで、しあわせ指数が上昇していくようであった。
私はリスナーとしてはピチカート・ファイヴの音楽が好きでよく聴いているのだが、小西康陽さんのDJを体験するのははじめてである。というか、生で見ること自体が1992年に六本木ウェイヴのエントランスで行われたハバナエキゾチカのミニライヴ以来である。つまり、WHY@DOLLのメンバーが生まれてからはじめてということになる。
WHY@DOLLがオープニングでかけたのと同じ曲(歌い手、ヴァージョンは異なる)でスタート、それからは圧巻であった。
小西さんのDJなのだから珍しくてお洒落な曲がかかりまくるのではないかという先入観は、昨年リリースされた「エース」というコンピレーションCDの曲目を知った時点で無くなっていた。誰でも知っていそうな有名な曲を新たな切り口で聴かせる、そのようなコンセプトなのだろうと頭では理解しているつもりだった。
それ自体は間違いではなかったと思うのだが、実際にその内容というのは、まったく予想も期待もしていなかったレベルの驚くべき新体験であった。ドラマ、バラエティー、アニメーション、ファミコンなど、日本の文化においてTVがいまよりも存在感を持っていた時代の様々なノスタルジーを喚起し、それをリアルタイムでは想定していなかった東京のクラブで大音量で聴きながら踊るという、何とも不思議だがただただ楽しく、驚きと歓喜に溢れた時間である。選ばれた曲のうちの多くは国民的といっていいほどの有名曲ばかりである。思い入れがあるかないか、好きか嫌いかにかかわらず、その時代を日本で生きていた者であればある程度は共有できる感覚がある。
他にも様々な音楽ジャンルから、意外だがまったく不自然ではない選曲が続いていく。必ずしも有名曲ばかりというわけではなく、個人的には日本のヒップホップ黎明期のあの曲がかかったのが痛快で、おそらくフロアにいた客の中で最も喜んでいたのではないかと思う。そして、小西康陽さんがNegiccoに提供したあの曲がかかると、すでに出番を終えていたDJ Meguがふたたびステージにあらわれ、曲に合わせてキレッキレのダンスを見せてくれた。イギリスで1990年代に流行したブリットポップから日本で1970年代に流行したニューミュージック、それぞれのイニシャルがOではじまる代表的バンドの曲をつないだり、私が高校生だった頃にはダサさの極致だと思って完全にバカにしていた産業ロックの日本的解釈的なヒット曲がやたらとカッコよく聴こえたり、とにかく最高だったのである。
地方から夢を追いかけて都会に出てきたがうまく行かない、そのときの心情を表現した曲が1980年のはじめに大ヒットした。沢田研二が派手な衣装に落下傘を背負って、東京をスーパー・シティの「TOKIO」だと歌い、若者にはイエロー・マジック・オーケストラの「テクノポリス」が最先端のサウンドとして支持されはじめていた頃、実際にヒット・チャートの1位になったのは、都会のことを「裏切りの街」と歌ったこの曲であった。
この曲がヒットした頃、私は旭川で中学1年生であった。学校で学級対抗の演芸大会のようなものがあり、私は友人たちと4人組のグループで、この曲を当時流行っていた「人間カラオケ」で歌った。「人間カラオケ」とは何かというと、歌だけではなく楽器の音もすべて声でやるというもので、あのねのねが司会をしていたものまね番組などで素人がよくやっていた記憶がある。この演目はまあまあ受けて、確か何位かに入賞したのだったと思う。
曲の内容とは裏腹に、当時、私はすでに東京への憧れを強くいだいていて、思っているのと実際とは違うとか怖いことがたくさんあるとかいろいろなことを親などから言われたりしたのだが、この年の夏に父にはじめて東京に連れてきてもらい、やはり高校を卒業したらここに住もうと決意を固めたのであった。
小西さんは、EBISU BATICAでこの曲をかけるのが夢だったと言った。
その後、トリを務めるDJのNOELさんがステージにあらわれた。NOELさんは小西康陽さんの親友で、見た目もよく似たDJギャラガーと、ノエル&ギャラガーというユニットも組んでいるのだという。ドリンクチケットをまだ使っていなかった私はこのタイミングで交換に行くのだが、1970年代後半のニュー・ウェイヴが流れている。個人的には最も好きなプレイリストになるかもしれない。この時点で特にアイドルを目当てに来ていた客の中には帰った人たちもいて、フロアはなかなか快適な人数、男女比になりつつあった。後で知ったことだが、じつはこの直前までWHY@DOLLは後ろの方にいたらしく、ファンの人たちも周りにいたようである。WHY@DOLLと同じタイミングで、ファンの人たちも帰って行ったのだろうか。
私も正直、次の日は朝から仕事だったため、適当な時間で帰ろうと思っていたのだが、とにかく次から次へと良い音楽がかかるため、これはもったいないと、とにかく踊りまくったのである。DJ Meguも戻ってきて、私が大好きなNegiccoの「二人の遊戯」をかけてくれた。NOELさんとDJ Meguがバック・トゥ・バック、つまり2人のDJが交互に曲をかけるやつをやっている。私が日本の夏の曲で最も好きな1980年代のシティ・ポップ・クラシックをかけ、もう気分は最高である。その様子を小西さんが優しい表情で見守っていたのだが、じつは親友のDJギャラガーだったのかもしれない。なぜなら、DJ Meguがステージを降りた後、ノエル&ギャラガーかのようなバック・トゥ・バックがはじまったからである。
とにかくキラー・チューンの乱れ打ちであり、特に「渋谷系」クラシックスはめちゃくちゃ盛り上がる。この時点で遠くから来ている人たちには終電の時刻もあり、フロアに残っていたのは少人数ながらもかなりの音楽好きという感じで、ノリノリで踊っていた。NOELさんのDJももちろんはじめて体験したのだが、選曲、表情、盛り上げ方など、すべてにおいて最高である。
高校生の頃、旭川の実家や高校の授業中に「宝島」などを読み、東京に行ったらナイトクラビングをやりまくるぞと、期待に胸をふくらませていた。実際に東京に出てみると、クラブに日常的に通っているような人たちとはあまり友だちになれず、それでも無理して高い料金を払って入ってはみたもののなかなか馴染めず、所詮、自分には縁の無い世界なのだと思って暮らしてきた(一昨年に行ったイベントは最後がテンテンコのライブであり、純粋なDJイベントとは少し違った)。しかし、この日、特に最後の方、本当に音楽やクラブが心底好きそうな人たちに混じって踊りながら、あの頃に憧れていたのはこういうのだったのではないだろうかと思ったのである。とにかくしあわせだった。音楽を好きでよかった。
NegiccoやWHY@DOLLを聴いて好きになっていなければ、この日、このイベントに来ることもなかったし、このような世界も知らないままだったのだろう。
とにかく、楽しい夜だった。
イベントの終わりに小西康陽はNegiccoに提供した「アイドルばかり聴かないで」の歌詞を引き合いに出し、どんなに握手をしたってあのコとはデートとか出来ないかもしれないが、CDやレコードをいっぱい買ってDJをやれば、あのコとバック・トゥ・バックが出来るかもしれない、と言っていた。
