前の投稿で「ハバナ映画祭が始まった!」とFBではしゃいだら、「政治犯や検閲を忘れないで」とキューバ系の方からコメントがあったこと、それでも私にとって〈キューバの映画館は人々が本音を出せる特別な場所〉と思えることに触れましたが、それを証明するような出来事が今回の映画祭でも2つありました。
ひとつは、フェルナンド・ぺレス監督(キューバの映画ファンから絶大な支持を得ている)の自作紹介の挨拶と観客の反応(賛同)。
ペレス監督(スペインからリモート)の発言内容
『El mundo de Nelsito(ネルシートの世界)』は、“ジグソーパズル”になっています。
様々な話法で構成されているので、最初の15分間は「いったい何の映画だ?」と思われるかもしれませんが、席を立たないでください。ラスト近くになれば、きっとピースが組み合わさるはずです」
観客:笑い
『ネルシートの世界』は空想の世界です。
思うに、誰もが固有の空想世界をもっているはずです。なぜなら現実の世界がうまくいってないから。
私も空想の世界が必要だし、もっており、それを表現しようとしました。
それは、戦争のない世界、人間よりも地政学的利益を優先して大国が小国に踏み込まない世界、経済封鎖がない世界、不平等がない世界、メキシコ湾や地中海にボートピープルのいない世界、壁を超えるために密林を横断しなくてよい世界、検閲のない世界
観客:拍手
よって、排斥や分離のない世界、意見が違うという理由で…
観客:拍手
私は78歳になったところで、孫がいるお爺さんです。
我々“爺さん達”が孫たちに〈ただ一つの考え方〉を押し付けることのない世界を想像します。
観客:拍手、「ブラボー!」の声
私が空想する世界を私が生きられるかどうか分かりません。
でも私はよく孫たちに質問するので、それをシェアしたいと思います。
トニート(12歳)
君は今我々が住む世界、戦争がなく、平等で、平和な世界は可能だと思うかい?
トニート:はい、可能だと思います。
もうひとりにも訊いてみよう。マノーロ(15歳)、君もそう思うかい?
マノーロ:はい、思います。おじいさん。
監督:私もそう思っています。どこにいようとも、私は夢を見続けます。
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もうひとつは、オープニングセレモニーに登場した若手女優アンドレア・ドイメアディオスの問題発言。(ここで聞けます)
観客に向かって
「皆さんは会場に来たばかりだけど、私は朝10時からいて、寒くて寒くて震えています。寒いのが苦手なのに、キューバに残りたい唯一の女優です。ま、仕方ないですね。すべて節約だから。ICAICも俳優のお給料を節約してるようにね」
そして、政府要人の紹介でロヘリオ・ポランコ共産党イデオロギー部長に対し、「私はいつも、この部署では何の話をしているのかしら?と不思議に思っていました」と。
ちなみに、アルピディオ・アロンソ文化大臣のときには、会場からブーイングが聞こえたとか…。
それにしても、若い世代は怖がらずに”主張”するようになっていますね。
ペレス監督がそういう若い人たちを応援していることは頼もしい!
追記(12月9日)
今朝の日経新聞のコラム「春秋」で、中国のゼロコロナ対策に対する抗議デモについて〈服従が条件づけられたかに見える国で、反発の声をあげる勇気に驚かされる〉と書かれていましたが、私も反発の声をあげるキューバの人たちに尊敬の念を抱くからこそ、記事にしています。
それに引き換え、服従が条件づけられてるわけではないのにおとなしい私たち日本人…見習うべきですね。