マリオ先生滞在記2:『Soy Cuba』と『キューバの恋人』 | MARYSOL のキューバ映画修行

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【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

前回 は先生と日本の絆ともいうべき〈故草壁久四郎氏との友情〉について紹介したので、今度は〈その後の出会い〉や来日で得た〈新たな出会い〉について紹介したいところですが、それは後日…。


今回は2回に渡って「ボデギータ」で行ったイベント〈『キューバの恋人』(1969年/黒木和雄監督)と『アキラの恋人』(2011年/マリアン・ガルシア監督)〉をめぐるトーク内容について、捕捉しながら紹介します。


まずは『アキラの恋人』のPRを兼ねて―
マリオ先生は東京に滞在中、明治学院大学主催シンポジウムでの発表のほか、3大学で「1960年代~70年代のキューバにおける日本映画の存在」について講演しました。
講演内容は2種類あり、ひとつは「座頭市」の人気に焦点を当てた内容。もうひとつは、より俯瞰的に捉えた内容(シンポジウム発表は後者)でした。


どちらの講演でも印象的だったことは、革命後まもなく創設された「キューバ映画芸術産業庁(ICAIC)の基本政策が“開放的”で、(それまでキューバで主流だった米国の娯楽映画に代わって)世界各国のクオリティの高い映画をキューバ国民に見せるため、スクリーンを“開放”した」という事実。


MARYSOL のキューバ映画修行-アキラの恋人 ただ、こう書いても、文字情報だけでは説得力が乏しいので、それを実感していただくためにも

ぜひ『アキラの恋人』を見ていただきたい!!
というのも、同ドキュメンタリーは、『キューバの恋人』製作秘話をキューバ側から迫るにあたり、1960年代のICAICについて冒頭で触れており、登場するICAICの生き証人の証言と今回のマリオ先生の講演内容を併せると、キューバ映画の根底にある“開明的精神”が、説得力をもって伝わってくるからです。


というわけで、ぜひDVD『アキラの恋人』をお役立てください!
(以上、PRでした。ご購入ご希望の方は、拙ブログにメッセージください。)


今回マリオ先生の講演を聴けなかった方々へ:

近々なんらかの形で「座頭市」の講演が公表される予定です。決まり次第、お知らせします!


1.合作 『Soy Cuba』と『キューバの恋人』の違い


さて、創世記のICAICは、それまで映画製作の実績が国内にはほとんど無かったため、外国の映画人たち
MARYSOL のキューバ映画修行-Soy Cuba との映画作りを通して実践的に学んでいきます。結果的に数々の「合作」が生まれました。

なかでも最大のプロジェクトだったのが、ソ連との合作『Soy Cuba(邦題:怒りのキューバ)』。

同作品は、1961年に準備に着手し、完成したのは1964年。投入した予算(モスフィルムが出資)も人員(200名)も日数(撮影期間14か月)も何もかもが大規模なプロジェクトでした。
http://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-10946856912.html
さらにICAICにとって付随的メリットとなったのが、ソ連側が撮影機材等をキューバに残してくれたこと。大型トラックを始め、様々な機材は今でも使用しているはずです.



MARYSOL のキューバ映画修行-キューバの恋人 それに比べ日本との合作『キューバの恋人』は、まったく対照的な、小規模プロジェクトでした。

1968年という製作時期も、すでにICAICは外国から学ぶ時期を終え、独り立ちしていました。


マリオ先生いわく「7人のクレィジーな日本人と、5人のクレィジーなキューバ人が一緒にキューバで映画を撮った」「黒木監督はほとんど予算がない状況のなかで製作した」「しかしながら『キューバの恋人』は、近年キューバ映画で起きている《シネ・ポブレ(低予算映画)》というムーブメントの先駆けである」。


そもそも同じ「合作」と言っても、『Soy Cuba』と『キューバの恋人』では、実はタイプが違います。
『Soy Cuba』の場合は、「コープロダクション」と呼ばれるタイプで、ICAICと相手国が共に力を合わせて製作する、真の意味での「共同製作」。
それに対し、『キューバの恋人』は、外国人監督に対しICAICが必要な物資やサービスを提供する「協力」型で、「コラボレーション」と呼ばれます。この場合、キューバの製作と見なされないこともあったそうです。


2.共通点


こうした根本的な違いのあった両「合作」映画でしたが、共通点もあります。
まずひとつは、マリオ先生いわく「どちらの作品も真の功績はカメラにある」ところ。
「『Soy Cuba』のカメラマン、ウルセフスキーのカメラワークは、ICAICの映画人に大きな影響を与えた」そうです。

一方、『キューバの恋人』の鈴木達夫氏のカメラも『アキラの恋人』を見ると、絶賛されています。


もうひとつの共通点(?)は、キューバで評価されなかったこと。
『キューバの恋人』がキューバでは上映されなかったのに対し、『Soy Cuba』もほとんど見られなかったようです(公開期間1週間とか)。
『キューバの恋人』に関しては、上映されなかった理由は究明中ですが、複数ある要因のひとつに「マルシアの人物像に信憑性が欠ける」点があったようです。同様に、「『Soy Cuba』もキューバ人から見ると『No Soy Cuba(キューバじゃない)』と批判され」ました。


では、各“相手国”での評価はどうだったのでしょう?
日本では『キューバの恋人』は、おそらく右翼からは無視、左翼からは、主人公のアキラが“反革命的”と見なされ、総好かんを食いました。(あげく黒木監督は大赤字を背負います。)


一方、ソ連では、マリオ先生いわく「『Soy Cuba』のプールのシーンは、“資本主義の退廃”を描いたつもりだろうが、ビキニ姿の美しい女性たちがあまりにも魅力的過ぎて“資本主義のプロパガンダ”になってしまった。監督は寛大すぎたのだ。映画はキューバではほとんど上映されなかったが、ソ連ではもっと上映されなかった。頭の固いロシア人は、ビキニの女性に仰天し、挙句の果てに、ソ連という国は消滅してしまった。私はどこの国だろうと、女性は素晴らしいと思う」。


実は、「ボデギータ」で『Soy Cuba』の件(くだん)のシーンを紹介した理由のひとつは、店主の史郎さんのコメントを紹介したたかったから。いわく「『Soy Cuba』を見て、余りにもハバナの街がきれいでビックリした!確かに僕がハバナに着いたばかりの頃(1964年)は、あんな風に美しかった。あのプールのシーンはHotel Capriだ」。
マリオ先生も「映画には革命前のハバナが映っている」


史郎さんと言えば、少年時代(1964年~72年)をハバナで過ごした理由が、そもそもお父様が“アキラ”と同じく日本=キューバ漁業協力に携わっていたから。「アキラのような日本人はまわりに大勢いた」「僕ももしかしたらキューバに異母兄弟がいるかもしれない」と告白してくれました!


さて話を戻して『Soy Cuba』と『キューバの恋人』のもうひとつの共通点。
それは、どちらも後に製作秘話に迫るドキュメンタリー映画が作られたこと。
前者は『SOY CUBA, O Mamut Siberiano(シベリアのマンモス)』(Vicente Ferraz監督/ブラジル/90分)。http://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-10946856912.html


後者は言わずと知れた『アキラの恋人』です。
http://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-10686115460.html
http://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-10927272179.html
http://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-11123266562.html


両ドキュメンタリーとも忘却の淵から“埋もれていた映画“を救い出しました。


マリオ先生のコメント:「黒木監督が資金がなくても映画を撮ったのだから、私たちも撮れると思った。最終的に国際交流基金から助成金がもらえたが、それまで私と監督のマリアンは、皆に“お願いします”と頭を下げながら撮影していった」。


最後に、一番心に響いた先生の言葉を紹介します。
「『キューバの恋人』の意義、それは、日本人とキューバ人が一緒に〈愛の映画〉を作ったこと」


Marysolの裏話など
先生は、トークのなかで、「メールによるインタビューによると、《津川雅彦は、撮影中、オブドゥリアさんに本当に恋をしていた》」ことを明かしました。さらに「オブドゥリアが人生で初めてキスをした男性は、津川雅彦だった」ことも。


先生の『キューバの恋人』評は、「傑作ではないが、誠実な映画だと思う」
「ドキュメンタリーとして、あれほど当時のキューバをリアルに映している作品はキューバにもない。黒木監督に感謝しなければならない」。


まだまだ書ききれないエピソード等は、今後コメント欄に書き込んでいく予定です。


拙ブログ関連記事:
マリオ先生の『Soy Cuba』映画評
http://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-10944000893.html
『Soy Cuba』紹介
http://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-10942533426.html
『キューバの恋人』紹介
http://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-10957472887.html