『De cierta manera (ある方法で)』 | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

De cierta manera(邦題:ある方法で)』 1974年 モノクロ・79分

De cierta manera 監督:サラ・ゴメス 

 助監督:リゴベルト・ロペス、

    ダニエル・ディアス・トーレス
 脚本:サラ・ゴメス、

   トマス・ゴンサレス
 録音:ヘルミナル・エルナンデス(*サラの夫)
 美術:ロベルト・ララブレ
音楽:セルヒオ・ビティエリ
編集:イバン・アローチャ
撮影:ルイス・ガルシア
出演:マリオ・バルマセーダ、ジョランダ・クエジャール、マリオ・リモンタ

※ 撮影は1974年だが、公開は1977年。

 遅れた理由は、監督が本作を完成させる前に急死し、トマス・グティエレス・アレア、フリオ・ガルシア・エスピノサ、リゴベルト・ロペスが完成させたため。また、16ミリフィルムを35ミリに変換する作業に時間がかかったため。


ストーリー
革命後、新政府はそれまでのスラムを一掃し、スラムの住民たちを新しく建設する団地に再定住させることにした。
新しい団地には学校が建てられ、子供たちは教育を受けられるようになる。
物語の舞台、ミラ・フローレスもそうした団地のひとつ。
そこへ25歳のバツイチ女性ジョランダが、小学校教師として赴任してくる。
都会で何不自由なく育った彼女にとり、元スラムの住人だったミラフローレスの子供たちをとりまく環境はあまりにも違い過ぎ、困惑するばかり―

一方、ジョランダの下宿先の老夫婦にはマリオという息子がいた。
彼は、自助・相互扶助で建設されている団地の作業員だった。
ジョランダとマリオは互いに惹かれていく。
だがマリオは、ジョランダとの育ちの違いやメンタリティの違いにとまどう―
果たして二人の恋の行く末は?


Marysolから 
本作には上に紹介したストーリーのなかに、もうひとつ大事なエピソードが組み込まれています。その内容は――
同じ班で働くマリオの同僚ウンベルトは「母親が危篤」と嘘をつき、実は女と旅行に行くのだが、後に彼の欠勤が〈労働評議会〉で問題になる。真相を知っているのは友人のマリオだけ。マリオは真相を労働評議会で暴露すべきか悩む。


このエピソードが大事な理由は、本作のテーマが〔「男らしさ」というマリオが慣れ親しんできたモラルと、革命後の新しい社会で求められる行動モデルとの板ばさみに悩む〕という〔意識の問題〕を扱っているから。
映画のなかに挿入されるアバクアに関する解説や儀式の映像、「子供の頃はニャニゴになりたかった」というマリオの台詞は、その伏線になっています。
註:アバクアは、男性だけが入れるアフリカ系宗教の秘密団体で、ニャニゴはそのメンバーのこと。


故サラ・ゴメス監督は、そんな「男らしさ」へのこだわりを、女性ならではの視点で捉え、時にはユーモラスに、時には繊細に描いているところが魅力です。
映画の中と最後に流れる歌(元ボクサーでトロバドールのギジェルモ・ディアスが歌う)にも注目してください!(ただし歌詞の最後に出て来る「偽善」という言葉が訳されていなかった)


ほかには、フィクションの中に巧みに挿入されたドキュメンタリー映像も興味深いものでした。革命前の貧困の状況は衝撃的だし、アバクアの儀式の映像なども貴重で、キューバをより深く知るのに役立ちます。


嬉しい発見だったのは、色々な意味で『低開発の記憶』共通点があるところ。
テーマ的にもですが、技法的に冒頭と後半で繰り返される「労働評議会」のシーン。
何の情報もなしに見る一回目のシーンと、事の顛末を知って観る二回目のシーンでは、自分の視点が変化していることに観客は気付くはず。


アレア監督の作品とサラ・ゴメスの本作に共通点があるのは、二人が監督と助監督として共同作業をしていたことや、未完成で亡くなってしまったサラ・ゴメスに替わり、アレア監督が本作を仕上げたことを思えば別に不思議はありません。二人は師弟としてだけでなく、同志としても大いに影響しあったようです。
残念ながら二人ともキューバ映画界から姿を消して久しいのですが、残された作品が放つ力は決して衰えることはないでしょう。

 

Sara Gomez y Titon

今は亡き二人を偲ぶのにピッタリの写真をマリオ先生が提供してくれました。
次回は先生のコメント を掲載します。お楽しみに。

 

追記(2022年1月20日)

NYのMOMAで今月2回、本作が上映された。

フィルムが修復されたと知り、嬉しい。

 

追記2 2024年2月

2024年1月27日と2月3日、国立映画アーカイブで修復された映像で上映。

意外にも、マリオの葛藤に共感してしまった!

ずっとタイトルの訳を考えてきたが、『それなりに』が近い気がする(笑)

ちなみにドキュメンタリー映画『サラ・ゴメスはどこ?』の中で、本作のタイトルについて「キューバで日常的によく使う表現。イチ”(座頭市のこと。70年代キューバで大人気だった!)のタイトルが大仰なので反対にした」と言っている。
 

改めて作品を紹介しました(1971年の史実を踏まえて)

De cierta manera(邦題:ある方法で) | MARYSOL のキューバ映画修行 (ameblo.jp)