存在



その眼は何のためにある


その手は何のためにある



意味のない造りもの


紛い物の生命(いのち)


価値のない塊に


存在理由など


あるのだろうか



その眼は一体何を見ている


その手は一体何を指している



髪の毛も血液も細胞も


総てが無で



ここにこうして


「存在(ある)」ということを


認められない



その姿形さえも


無いに等しくて


それでも


確かにあるこの身


その事実から


決して逃れられない


無常の世



一体私は何のために


ここに「存在」のだろう



なぜ私はこの世に


生をうけてきたのだろう



何のために私は


生かされているのだろう



悩めば悩むほどに


答えは見つからなくて


「存在(そんざい)」という真実


「存在」という現実


「存在」という事実



決して無視はできない



私は人のために


役立っているだろうか


私は人から


愛されているだろうか


私は人から


信頼されているだろうか


私は人から


尊敬されているだろうか



私の存在証明を


私の存在価値を


決めるのは決して


自分ではなくて


他人の心だから



あなたの眼から見て


私はどうでしょう


生きる価値のある


人間ですか



私の存在の有無を


どうか決して下さい


あなたのその


御(おん)心で

    アリの子



はたらいて


はたらいて


いつか


つかれはてて


しぬのだろう



おまえはなんて


おバカな子なのだろうね



だけれども


とても


いとしいよ

    顔



俺の顔は歪んでいる


うまく笑えないのだ


楽しくても


おかしくても


嬉しくても



笑えない



もう、生まれた頃から


ずっと



切な過ぎて涙さえ出ない


苦し過ぎて声さえ出ない


俺が笑えない理由なんて


誰も気付かない


どこまでも惨めな人生さ



親を怨んだことも、


あったさ


生まれてきたことを


悔やんだことも、


あったさ



だけど



「現在(いま)」いる以上は


自分が形作ってきた


代物だろう?



   遍路唄



われ懺悔すために詣(まい)った


遍路旅


人は


噂に埋もれ


雑言を吐き憎む



われ


真実を求め


尊きを求める



笠をかぶり


手には金剛杖をもち


同行二人(どうぎょうににん)の


白装束



階段を上がり


坂を上がり


苦しいながらも


六根清浄(ろっこんしょうじょう)



大師と共に


巡礼旅


足の重みも


なんのその


足の疲れも


なんのその



われ


生まれてきた


意味を問う


われ


人生を問う



われ


罪を償う


われ


生きていることに


感謝す



汗を流し


喉が嗄れるまで


経を読誦(どくじゅ)す



瞼に浮ぶ


大師の顔


慈悲深い


仏のお姿


ご接待のお気持ち



われは


生かされている


生きていることの


喜びを


肌で感じて


有り難や


父母にも


有り難や



驕りも


憎しみも


総て消し去る霊国の


有り難さが


身に沁みて


無心で手を合わせる


わが心



藤の花


桜の花


梅の花


色とりどりの


美しい花たちが


迎えてくれる


花遍路



自問自答を


繰り返し


心穏やかに


悟りを


開き


六根清浄と


杖を突く



大師と道づれに


精神道場を巡る


わが心



生命(いのち)の洗濯をし


昨日を反省し


今日を懺悔し


明日に祈る



酒を飲んでは


供養のため


賽銭しては


供養のため



やがて


嬉しや


満願を迎えて


わが眼が潤む



ああ


南無大師遍照金剛



われ


独りではなし


われ


共に大師と在り

    木陰



モクレンの木陰で


少女は眠る


さやけき風の中


ブルムーンの誇り高き


香りに包まれて


少女は夢を見る



美しく、美しく


綺麗な夢を




    牢獄



詩(うた)を失った少年は窓のない部屋の中


暖かさのない石の牢獄


朝になろうとも夜になろうとも


刻(とき)の止まった空間では何も存在しない



クレイジーな気分だ


心がハイになる瞬間


神は傍にいる


鉄格子の外から手を伸ばしている



闇の中にある小さな自分


恐れるものは何もないのに


なぜ震えている?



喜劇は悲劇


悲しさも笑いにかわる


意味のないおかしさに



冷たい牢獄に囚われの我が身


捨てきれぬ夢


情愛の面影



瞳は闇を突き刺す鋭さを持ち


コツコツと歩く


髭もじゃの看守を睨む



見えない空を見上げて


少年は口ずさむ


古の詩を

   願いと祈り



暮らせば  暮らせど


この途楽にならず


日々に希望と夢を持てずに


ただ徒らに年を送る



ふと鏡に映った自分に


昔の楽しさを思い出し


今の希求を感ずる



生きているその意味を


生かされているその意義を


知れば知るほど


苦悩は巡る



自分への責任


解ってはいるが


容易に変えられぬ醜い心



安住の地


ただ目指すはその場所で


眼に見えて近しと思えど


遥か彼方にそれは在る



自分のこの手で


いつか大切な人たちを


その楽園へと誘いたい



願いと祈り


この胸に



巡り巡って


幸福(しあわせ)と成り給ふ


その瞬間まで



たとえ今は苦でも


いつかを夢見て


今日もまた





   兵士



ここに歩き疲れた兵士が独り


ただ前を見て歩いてきたけれど


突然前が見えなくなった


暗い闇に引き摺りこまれて


ふと気付くと


ただの独りぽっち


友人もいない


家族もいない



おかしいな


どこではぐれたのだろう


どうにかしてその訳を探すが


いっこうに解らぬ悲しい心



今思えば


前を見ているようで


前を見ていなかった


先を見ているようで


先を見ていなかった


総ては自分よがりで


周りの意見など聞かずに


ただ己の欲のために生きてきた



ああ


人間とは


悲しい欲の塊


それこそが我が生命(いのち)


我が宿命(さだめ)



信じていたものは


もう前にはない


一歩を踏み出せ


これからはおまえだけ


他には何も無い



冷たいしがらみの中


歩くしかない


我が生命尽きるまで





    夜風



月に想いを寄せる


少女の涙は


悲しみの理由



夜風の優しさに心が痛む



昔子守唄代わりに聞いた


夜伽噺を懐かしみながら



この世を憂う切なさを


一人その幼き肩にのせて


瞳まっすぐに


闇に輝く眩(まばゆ)い星々に


願い、祈る



天は乙女の祈りに


耳を傾けるだろう


いつの日か・・・





    人形



私のお気に入りの


青い目の人形は


夜も眠らない



私の枕元にそっと佇み


赤い唇を僅かに上げて


見つめている



暗闇に映える青い目


夜の中の白い顔


月のような金の髪



起きたらその金の髪を


梳いてあげる


あなたの髪には銀のかんざしが


よく似合う


かわいい  かわいい


私の青い目の人形よ



今夜は星の降らない日


あなたの細い首を


ポロリと落としてあげる



コトンと音をたてて


あなたの美しい顔が


床に落ちる



私は惨めな少女


誰からも愛されない


哀れな女の子



愛されたいと


神に祈っても


空しく声だけが


こだまする



私は醜くあなたは綺麗


私の顔とあなたの顔を


交換したら


みんなから愛されるかしら・・・



願いはただ一つ



落ちたあなたの白い顔


さあ私の首も


切り落としてしまいましょう



そうして


あなたの顔になる


みんなに愛される


ただそのためだけに