女友達9
陽子は走った。先程、学校へ走ってきたその時の走りでは
なくなっていた。心が軽い。走っているのに息苦しくない。
早く会わねば、早く会わねば、唯そのことだけを一心に
呪文のように繰り返しは繰り返しては走った。そうして浜田
先生が言っていた言葉を思い出す。
「先生はね、自分という甘ったれたものに酔っていたん
だ。その酔いが卒業しても醒めずにいたんだ。その酔いを
醒ましてくれたのがそいつだったんだ。そいつが居なかった
らもしかしたら先生はまだ小さな器の中に居たのかもしれ
ない。「了見が狭い」という器にね。だから自分に酔っちゃい
けない。自分たちは何時までも同じなのだ」と夢を見ちゃい
けない」
欅の若葉が夕暮れの暖かい風に吹かれてさわさわ鳴っ
ている。いい響きだと思った。気持ちが良い。今日はこの
ように気持ちの良い日だったのかと今になって感じる。不
思議にこの欅の木々たちが温かく感じられた。今自分を
包んでいてくれる、この大きくて温かい木々たちが目に沁
みて、死ぬなんてもったいないと思った。欅の葉が夕暮
れに染まって美しい。
陽子は足を止める。直ぐに言葉が出てこない。代わりに
涙が出てきた。教室であんなにも泣いたのにまだ涙が出る。
ふと、浜田先生の匂いが思い出された。
三人が此方を見て微笑んでいる。お互いが何も言わずに
一歩ずつ近付いてゆく。ひしと抱き合う。三人の温かい匂い
がした。浜田先生の匂いだと思った。
四人が一つになる。
頭の上で若葉が大きく揺れている。
終わり