森の図書館 -6ページ目
とかげの女王さま
さあ
わたしの爪に
マニキュアを塗っておくれよ
目が覚めるような
鮮やかな
赤いマニキュアを
はみ出さないように
うまく塗るんだよ
わかっているだろう?
もし失敗でもしたら
どんな目に合うか
さあ
さっさと早くおし!
今日もあなたは
長い爪に
真っ赤なマニキュアで
瞼の上は
真っ青なシャドウ
指には緑色に光る
エメラルドやダイヤモンドを
散りばめて
甘い甘い香りを
漂わせて
ぼくを嘲るように
足げにする
いいよ
あなたのためなら
ぼくはどんなことにも
耐えよう
あなたは綺麗な
女神さまだから
震えるような悦び
あなたはぼくが居なければ
輝けない
ぼくがあってこその
あなたなのだから
もっと
ぼくを虐めて
けなして
そうして
ぼくの存在を
認めておくれよ
ほら
もっと足を舐めるんだよ
綺麗に綺麗に
舐めるんだ!
おまえのような
ろくでもない男に
仕事を与えてやってるんだ
しっかりお舐め!
丁寧に丁寧に
クリームを舐めるように
このわたしの足を
舐めれるんだ
誇りに想うがいい
さあ
早く
王子さまの
ダンスパーティが
始まってしまう
早くわたしを
綺麗におし
ああ
ぼくの女王さま
なんて身勝手で
高貴で
美しいんだ
綺麗にして差し上げます
たとえお城に
連れて行ってくれなくても
あなたが誰よりも
美しい様を
みせびらかすことが
できるなら
そうれ
どこもかしこも
綺麗になったよ
女王さま
宝石を散りばめた
白くキラキラと光る
ドレスの裾から
長い長い
とかげのしっぽが見えている
ちょきんと切れば
さあ
美しいお姫さまの完成
いってらっしゃいませ
女王さま
しっぽが生えない内に
ぼくはいい子で
待っているから
穴一(あないち)あそび
楽しや楽し
穴一あそび
今度は誰の番じゃ
そら、おらか
やれ、投げたぞ、投げたぞ
穴一銭(ぜに)
チャリンと音響かせて
穴に落ちてく銭っ玉
今日も勝ち勝ち
おらの勝ち
その内銭では
あきたらず
今度は鼠でも
ほうろうか
藁でも掴むかのように
手足をもがかせて
鼠が穴に落ちていく
今日も勝ち勝ち
おらの勝ち
その内鼠では
あきたらず
今度は猫でも
ほうろうか
潰れた蛙のような
声出して
猫が穴に落ちていく
今日も勝ち勝ち
おらの勝ち
その内猫では
あきたらず
今度は兎でも
ほうろうか
この世を憎んだような
目をして
兎が穴に落ちていく
今日も勝ち勝ち
おらの勝ち
その内兎では
あきたらず
次はそろそろ
おまえの番じゃ
明日は
おまえを
落としてやるぞ
※穴一あそび~地面にあけた小穴に小石や銭など
を投げ、穴に入れたものを勝ちとする子供
の遊び。
あらればしり
みんなで
列を作って
輪になって
歌って踊ろう
今年も
どうか沢山の恵みが
降ってくるように
手を交ぜ合わせて
目を瞑って
祈りを捧げよう
五穀豊穣
平安成就
みんなで
みんなで
列を作って
輪になって
歌って踊ろう
足を大きく
踏みならして
天の神様に
聞こえるように
元気に、
高らかに、
村人よ
歌えや、
踊れ
新玉の年を
祝って
楽しく
笑おう
幸せが
来るように
※あらればしり~宮中の正月行事。列を作り、
足を踏みならしながら歌を歌って新年を祝う。
血合わせ
手を差し出せ
その手首を
俺の居ないのをいいことに
俺の仕事している内に
お前、
他の男と通じただろう
泣きつく女は
俺に無実の罪だと
訴える
ああ
なんておぞましい目だ
お前はきっとその目で
男を誑かしたに相違ない
ああ
なんて憎らしい目だ
まるで覚えが無いと
言いたげに
涙など流したりして
手を差し出せ
その手首を
嫌がる妻の手を
ひっぱり
冷たい水の中に
血を垂らす
ほうら、
俺の血と混ざらないじゃないか
嘘付き女房め
斧でお前の首をバッサリじゃ
言うこと聞かない女など
いりはしない
嘘の巧い女房など
いりなしない
首と胴体が離れたというのに
今だその目は
俺を恨めしそうに
凝っと見ている
なんて女だ
この期に及んで
まだ文句言うか
顔踏んで血で見えなくし
裏山に埋めてしまえ
血だまりの中から
目だけがギョロリと
俺を見ていやがる
死んでもなお煩い女じゃ
土の中深く深く
埋めてしまおう
こんな女など
愛してなどいないわい
※血合わせ~江戸時代に、妻の姦通の有無を
確かめるのに用いられた。
音
敏感に、聞こえる
小さな小さな音さえも
うっすらと耳に残るは
ゆるやかなメロディ
綺麗な旋律に
まるで輝かしい未来が
はこばれてきたようで
ほほえましくなる
音はとても壊れやすいから
手の中でそっと
大切に護ってあげないと
消えてしまうから
ずっと耳に残っているように
この小さなメロディが
やがては大きくなるように
大切に育んでいこう
菊枕
霧のたちこめる
深い冬の夜
菊の枕で床につこうか
こんな冷たい日には
きっと、
何か恐ろしいことが
起きるから
花の香りに
あてられて
どうか
魔物が来ぬように
霧のたちこめる
深い冬の夜だから
だから
こんな日は
とても人恋しくなるから
せめて
ゆかしい菊の香りに
包まれて
何も考えずに
眠りたい
※菊枕~菊の花を干して詰めた枕。
香り高く、邪気を祓うという。
奴隷人形
チリン、チリンと
銀の鈴を鳴らせば
しおしおと
ぼくの前に現れる
可愛い奴隷人形
ぼくが踊れと云えば
軽やかに優雅に舞い
ぼくがひざまつけと云えば
真直ぐに見つめ
その穢れ無き瞳のまま
深く平伏す
ぼくの可愛い
可愛い
忠実な生きた人形
チリン、チリン
おまえはぼくの欲を
満たす為だけに在る
奴隷人形
何も考えちゃいけない
何も見ちゃいけない
何も云っちゃいけない
何も感じちゃいけない
チリン、チリン
さあ、今日も
ぼくだけの為に
その服を脱いでおくれ
奴隷人形よ
雪女神
真白き面(おもて)をした青女は
山にて雪を降らす
深々と、深々と
湖に張った厚氷の上で
子供たちがスケートで
遊ぶ様を
降り注ぐ雪の粒が
雲間から覗く太陽に反射して
光りながら落ちていく様を
微笑んでいる
青女は子供たちの女神
いつまでも雪だるまが
溶けないように
いつまでも雪そりが
できるように
適度に、適度に雪を降らす
だけれども
大人たちは青女を憎んでいる
実った穀物を枯れさせ
雪で道を塞ぎ
家にはすきま風
或る日
大人たちは
子供たちが寝静まったあと
そっと家を出、
篝火(かがりび)を手に山へいく
女神を捕らえ
火の上に踊らせ
みな丸くなって踊り明かす
酒を飲み、罵倒し、指を差して嘲(わら)う
やがて青女の身体(からだ)は
溶け始め
つらつらと哀しみの
涙を流しながら
跡形(あとかた)も無く溶けて消えた
零れた涙はやがて
大きな雪の珠になり
先の尖った鋭い垂水(たるひ)となって
逃げゆく大人たちの
喉に突き刺す
青女を殺した罪は深く
哀しみの声が響く中
村人たちは息絶え
あとに残るは
純粋無垢な子供たちの
雪あられに喜ぶ
笑い声だけだった
※垂水~つららのこと。
残花(ざんか)の涙
この世でもっとも
みすぼらしいのは
満開に咲いた花が
落ちる瞬間(とき)
その惨めにも似た
憐れな姿は
人間の欲望の
果てのようだ
仄かな色が
やがては
黒ずみ、無惨な
最期を遂げる
簡単に未来が
予測できるのに
またおまえは
来年も
そのまた翌年も
そのまた次の年も
まるできちがいのように
咲き続けるのだろう
馬鹿の一つ覚えのように
咲くことしか知らない
哀しき宿命(さだめ)の下(もと)に
どうせ
散るのなら
私は風に吹かれたい
見向きもされなくなるのなら
いっそのこと、
どこか遠くへ
だけど、
もっと見苦しいのは
散り際を
見極めずにいる
残花
潔くも無く
ただ
昔の栄華を
懐かしむしか能がない
生き晒し者
きっと
臆病風に吹かれて
散るに散れなかったのだろう
憐れだな、
本当に憐れだな
所詮は短い
生命(いのち)だというのに
束の間の夢幻(ゆめまぼろし)にしか
過ぎないというのに
掴めぬ夢を
追い求め続け
悲惨な末路だ
誰しもが
すぐ忘れ去ってしまうというのに
葛の花
想いが通じたのは
ほんの一瞬の間で
あなたはそうそうに
新しい花へと
飛んでいってしまった
残されたうば花は
どうしたら
いいというのか
もはや胸の内は
あなた一色で
引き返すことなど
できもしない
秋の風が立ちこめる
林の中
ハラハラと
気まぐれな風に
踊らされて
葛の葉が揺れている
ヒラヒラと
裏返っては
また戻り・・・
裏返っては戻り・・・
なんて
怨めしいのだろう
あの人を想うだけで
こんなにも涙が
溢れてくるなんて
風よ
私を憐れんでくれるのなら
怨み葛の葉を
涙と一緒に
あの人へ
届けておくれよ
※葛の花~晩夏から秋の初めにかけて、豆の
花に似た紅紫色の花を付け、葉が風に
翻るたびに小さな花をのぞかせる。秋の
七草の一種。風に裏返る葛の葉を、怨み
に掛けて「怨み葛の葉」という。

