『黄土館の殺人』阿津川辰海




落日館の事件で出会った因縁の相手、飛鳥井光流の求めに応じ、芸術一族である土塔家の屋敷を訪れることになった葛城輝義と田所信哉、そして三谷緑郎。

一行が屋敷を目前にしたところで、突如大地震が襲う。
地滑りにより屋敷と町を結ぶ唯一の道が土砂崩れで寸断される。
さらに、葛城だけが町側に残され、田所と三谷は飛鳥井と共に屋敷で救助を待つことになった。


町の旅館にたどり着いた葛城は、同じく地震で足止めを食った小笠原という男と相部屋になる。
葛城は何故か小笠原の動向が気になり、、、

その頃、陸の孤島と化した荒土館では連続殺人が発生。
葛城とは連絡が取れず、元探偵の飛鳥井も謎を解くことを頑なに拒む中、田所は自らの力で事件の謎に迫ろうとする。


『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』に続く、阿津川辰海さんの館ミステリー最新巻。
本屋で見かけて即購入、一気に読んだ。

これまで火、水と来て今回は「土」。
あとがきによると、この「館四重奏」シリーズは、火水土風をモチーフにした館でのクローズド・サークルものであり、春夏秋冬の四季も組み合わされているとか。
これまで、火と夏、水と秋と来て、今回は土と冬。


3作の中では一番好みのテイストだった。
より館ミステリーの要素が濃縮している感じ。
『紅蓮館』から読むと背景がよりわかりやすいとは思うが、この作品だけ読んでも十分楽しめるはず。

前2作では高校生であり、未熟さと危うさが垣間見えた名探偵・葛城と助手・田所も大学生になり、落ち着きを取り戻したよう。

『紅蓮館』『蒼海館』と立て続けに起きた事件で痛みを味わった葛城が立ち直っていてよかった。

『蒼海館』で2人の友人として登場した三谷が今回も続投。
肩の力が抜けた彼の存在が、張り詰めた空気を和らげるいいアクセントになっている。


そして肝心のミステリ要素について言うと、解くべき謎が大小様々に散りばめられている。

荒土館の中と、町の旅館に滞在する葛城、舞台が二手に分かれているので、その分作中で起こる出来事も多い。
アリバイトリック、物理トリックに加えて、不規則にやってくる余震などなど。

時系列をかなり緻密にプロットして執筆されているなぁと感じた。
私自身は読む際にそこまで細かい所は意識してなかったけど汗


有栖川有栖『双頭の悪魔』と綾辻行人『時計館の殺人』を連想する作品だった。

それぞれ、有栖川さんの学生アリスシリーズ、綾辻さんの館シリーズのベスト作品だと勝手に思ってて、どちらも大好きな作品。
そういえばこのブログではどちらもまだ取り上げてなかった汗

有栖川さんの青春ミステリっぽい雰囲気と、綾辻さんが確立した奇抜な館で起きるクローズド・サークルという、ミステリ界のビッグタイトル2作のエッセンスを上手く受け継いでいるという印象。

今回の事件で、葛城は探偵として吹っ切れたようだし、田所は単なる助手以上の活躍を見せてくれた。
4部作の最後を飾る次作「風/春」はどんな館でどんな事件が起きるのか、、、
楽しみ。


【書誌情報】
『黄土館の殺人』阿津川辰海
講談社タイガ、2024