第1作目よりもかなりパワーアップした作品でした
阿津川辰海さんの『蒼海館の殺人』です。
第1作『紅蓮館の殺人』ののち、学校に来なくなった葛城を心配した田所は、同級生の三谷とともに葛城家の本宅を訪れます。
そこは山奥の小さな集落にそびえる豪邸
葛城の父は政治家、母は大学教授、叔父は弁護士、兄は警察官、姉はトップモデル…
葛城家は、まさに「華麗なる一族」なのです
一癖も二癖もある葛城家の人びとに戸惑いながらも、葛城と再会を果たした田所。
しかし、葛城は『紅蓮館』事件のショックから、探偵として生きる意味を見失い、抜け殻のようになっていたのです
何とか、葛城にかつての情熱を取り戻して欲しい田所。
そんな中、近づきつつあった台風が勢力を急拡大させ、葛城家のある地域を襲います
経験したことのないような豪雨に、村を流れる川が氾濫し、道路も土砂崩れにより寸断されます。
前作『紅蓮館』での山火事に続き、今回は水によって館に閉じ込められる田所と葛城。
今回は、クローズドサークルを成立させることに加えて、「集落ごと災害に見舞われる」ことが必要なトリックが用いられており、パニックアクション的な設定に必然性があります。
ちょうど大雨が続いた時期に読み進めたので、水害への恐怖をリアルに感じました。
田所たちが立ち向かう「謎」についても、より複雑なものになっています。
葛城家の人たちが、お互いにすれ違い誤解を重ねて疑心暗鬼に陥ります。
誰もが嘘をつき、隠し事をしていることを見抜いた葛城は、家族との「対話」を通じて、絡み合った糸をほぐすように真相に近づきます。
この、全員が何かしら隠している、という状況は、クリスティの『アクロイド殺人事件』を連想させます。
田所が、「信用できない語り手」になりかけるという展開もスリリング。
全体的な雰囲気が、すごく好みの作品でした
わたしは「一族もの」が好きなんですよね。
横溝正史の金田一シリーズに代表されるような、地域の旧家、名家と呼ばれる一族内で起きる事件。
ミステリの舞台設定としてテッパンです
今回の事件でも深い傷を負うことになった葛城
「それでも僕はーー謎を解くことしか、できないんです」
と語る彼は、これからも事件を解き続けるのか…
次作が早くも気になります
火、水と来たら、次は何だろうなぁ
【書誌情報】
『蒼海館の殺人』阿津川辰海
講談社タイガ、2021
さて、ブログ上での紹介は他の作品を挟みましたが、市川憂人さんの2作品、阿津川さんの2作品は連続して一気読みしました。
久しぶりにミステリ漬けという感じで楽しかった〜
今は海外ミステリではじめての作家さんの作品を読んでいます。
いろんなジャンルの作品を順番に取り上げることを目標にしてるのですが、まだしばらくはミステリの頻度が高そうです