[福田村事件] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

力道の映画ブログ&小説・シナリオ

映画ブログです。特に70年代の映画をテーマで特集しています。また自作の小説、シナリオもアップしています。

森達也監督。佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦脚本。桑原正撮影。鈴木慶一音楽。23年、太秦配給。

DVDにて鑑賞。23年度キネマ旬報日本映画第4位。読書2位。はたこさんが熱く書かれていたので、TSUTAYAレンタルで観た。これまで大正12年関東大震災の後に怒った朝鮮人や社会主義者の虐殺の騒動の中で発生した香川の行商団九人が殺害された福田村事件にスポットをあて、あらゆる角度から掘り下げた作品。虐殺事件だけでなく、福田村に関わる様々な人物のエピソードを盛り込むことで、常に客観的視点を保ちながら、事件の真相、災害時における風評における集団の異常心理の恐ろしさを赤裸々に描き出し、問題提起する社会派ドラマの傑作だ。

まず森監督は最初に主人公朝鮮に赴任、堤岩里教会事件で日本人の虐殺を目の当たりにしながら、何もできないことがトラウマになった(後でわかる)澤田智一(井浦改)が妻静子(田中麗奈)を連れて、故郷の福田村に帰ってくるところから、始まる。
二人は汽車の中で戦争未亡人となった島村咲江(コムアイ)と出会い、共に村長田向(豊原功補)ら村人たちはたちは出迎える。同時進行て香川から行商人の集団を率いる田中倉蔵(永山瑛太]たちを描き、冒頭の橋の場面がエンディングに繋がるように仕上げ、それぞれの登場人物に接点を持たせて伏線にしていく。きめ細かい、構成が秀逸。
 9月1日になり、実際の関東大震災から時系列の流れで見せていく。村社会の内情は様々で、船頭の田中倉蔵は島村咲江ともいい仲になりながら、夫の冷たさから欲求不満の静子も抱く始末。戦時中朝鮮人を殺した経験を自慢にしていた井草貞次(柄本明)は息子の茂次(松浦祐也)は仲が悪く、その理由は妻マス(向里祐香)は何と父との間に…。社会主義者平澤(カトウシンスケ)が逮捕され殺害される。千葉日日の記者、恩田楓(木流麻生)は部長砂田(ピエール瀧)に止められながらも、朝鮮人や社会主義者の虐殺に迫っていく。
 森達也はドキュメンタリー監督だっただけに、福田村に起こる狂気とも言える異常な状況を当事者だけでなく、外から澤田夫妻、恩田などの視点を置くことでこの許されざる惨殺事件を浮き彫りにしていく。クライマックスは人間の群衆心理の恐ろしさをまざまざと感じさせる、超絶な緊迫感で圧倒されてしまう映画だ。
 お勧めの一本。