[ほつれる] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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加藤拓也監督・脚本。中島唱太撮影。石橋英子音楽。23年、ビターズ・エンド配給。仏合作。

Amazon Primeにて鑑賞。タイトルが成瀬巳喜男監督みたいなので観てみたのだが、かなり衝撃的な映画で、現代版成瀬といっても過言ではない。監督の加藤拓也は[ドードーが落下する]で演劇界の芥川賞と言われる岸田國士戯曲賞を受賞した逸材、本作が長編第二作。

夫である文則(田村健太郎)との関係が冷めきっている綿子(門脇麦)は、友人を通して出会った男性、木村(染谷将太)と頻繁に会うようになる。そんなある日、綿子の目の前で木村は事故で亡くなり、綿子の平穏だったはずの日常は徐々に狂い始めてしまう。過去を振り返っていく綿子は、夫や周囲の人々だけでなく、自分自身とも向き合っていく。


愛人の死を間のあたりにして、救急車を呼ぼうとしてやめてしまう綿子、精神的な揺れを隠しながら、木村の葬儀には参加せず、友人の英梨(黒木華)と山梨に木村の墓参りに行く。だが、その日は夫文則からやり直すために、新しい家を見に行く約束をしていた日。木村の兄(古舘寛治)から聞く彼の幼少期の思い出。文則に何も話さないまま、何とか取り繕う綿子だが、ある物を無くしてことをきっかけとして、様々なことが明らかになっていく。

加藤拓也はプラトニックな精神的不倫の様子を前半淡々と綴り、唐突の事故、その中に一つ伏線を作り、精神的な揺れに葛藤しながらも取り繕う綿子を浮き彫りにしていく。肉体関係を描かないことで、逆に精神的なエロスを想起させていく。何気ない日常を何気ない台詞で過ごしている綿子、難しい役を門脇麦は好演している。

不倫が明らかになることにより、綿子が内に秘めた夫文則との関係、木村も不倫だったことがわかってくる。現代ではこうした人間の繋がりも日常的なことであることを加藤は冷静な視点で提起してくる。そして、ほぼ全貌を明らかにするとそこで映画は終わる。観る側に余韻を残し、その後を想起させるような切り方も好感を持て、脚本の構成力に引き込まれる。

精神的に自問自答させられながら、男女の関係を改めて考えさせる秀作。楽しみな監督が出てきた。