[ラーゲリより愛を込めて] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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瀬々敬久監督。林民夫脚本。辺見じゅん原作。鍋島淳裕撮影。小瀬村晶音楽。22年、東宝配給。

Amazon Primeにて鑑賞。辺見じゅんのノンフィクション[収容所(ラーゲリ)から来た遺書]の映画化。

見終わった後、しばらく言葉が出なかった。瀬々監督の作品に外れなし。この十年間に観た日本映画の中でも上位に残る傑作だ‼️必見。
 この映画は瀬々さんの作品の中では登場人物の回想はそれぞれに挟んではいるが、ストレートな作品であり、ご覧になる方には映画的な小細工に頼らず、直接的に訴えかけてくる映画だ。それだけに心に響く映画になっている。
 作品を支えているのは役者たちの熱演、これに尽きる。特に主人公である山本幡男を演じた二宮和也、彼の演技はあのクリント・イースト・ウッドが認め、自分の作品に起用したくらいで、過去にも名演が沢山あるが、これは本当に熱演だった。この映画が23年の正月映画でなく、もう少し前に公開されていたら、映画賞の対象になったのではないだろうか。

第2次世界大戦終結後。シベリアにある強制収容所で過酷な生活を強いられる日本人捕虜たちは、絶望の毎日を送っていた。そのうちの1人である山本幡男(二宮和也)は、いつか帰国できると信じて周囲の人々を支えていく。

物語は昭和20年、ハルピンで始まる。ロシア語が堪能で満州鉄道の調査部に勤務する山本幡男は妻モジミ(北川景子)と四人の子供たちと最後の家族での食事を楽しむ。その日、ソ連の空襲で家族と別れた山本は終戦でソ連の捕虜になり、ハバロフスクの収容所(ラーゲリ)に送られる。一度は帰国の列車に乗るのだが、スパイ行為で戦争犯罪人にされた者達は別の収容所に送還され、零下40度の強制労働を強いられていく。山本は妻と約束した帰国、希望を支えとして、挫けそうになる同僚たちを支えていくが…。

山本が一緒にラーゲリでの生活を過ごすことになる松田研三(松坂桃李)。彼は母を残して徴兵され、戦場で逃げたことを心の重荷としている男であり、彼のナレーションでこの映画は進行する。山本とシベリア鉄道の貨車で出会い、彼の生き様に心を動かされ、彼の病を治療させようと労働拒否をする。新谷健雄(中嶋健人)は戦争には行かず、漁師としての暮らしをしているところを捕らえられたもので、字も書けない彼に山本は読み書きを教える。相沢光男(桐谷健太)は当初山本を嫌い。名前を呼ばず一等兵と呼ぶ、身重の妻を残してきており、やがてその妻が空襲で亡くなり、絶望する彼を山本は生きろと叱咤する。満州鉄道調査部で山本の上司だった原幸彦(安田顕)は、当初、収容所で糾弾されており、調査部の仲間を売ったことを告白するが、山本にロシア文学の良さを教えたのは彼であり、山本の言葉で生きる希望を取り戻しソ連軍との交渉役をすることになる。
 北川も含めた脇役の四人はすべて好演、皆に賞をあげたいくらいで彼らの熱演がこの映画の深い感動をもたらせてくれる最大の要因になっている。
 瀬々監督はその他にも、犬のクロ、山本が残す遺書。小道具の使い方、伏線の貼り方なども実に巧みで、孫にまで意思を伝えたいという山本の言葉はラストの場面に生きてくる。
 ラーゲリより届いた彼の遺書、このクライマックスの場面は涙無くしたて観ることはできない。それが押し付けではなく、理由があって、こうせざる得なかったという設定がまた感動を誘う。昨年度のキネマ旬報ベストテンに本作が選ばれなかった理由が自分にはわからない。公開日が24年の対象?いずれにせよ、瀬々監督作品としてはあまりにストレート過ぎるから、捻じ曲がった映画好みの評論家達に嫌われたのかもしれないが。本作のような傑作を外してしまうと真剣に山本の言葉ではないが未来に残していくべき映画など出てこないと自分は感じる。
 その時代に即した事件を対象にその時代を切り取ることも映画の重要な役割ではあるが、そうした作品は時代の経過で絶対に色褪せてしまう。だからこそ、本作のようにいつの時代に観ても心に印象付けられる作品こそ選出すべきなのだ。

絶対のお勧めです❗️配信で観れますので、戦争が残した悲劇の中で希望を忘れない深い感動を味わえる映画です。