[アントニオ猪木を探して] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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和田圭介監督。三原光尋ドラマ部分の監督。福山雅治ナレーション、主題歌。23年、GAGA配給。

Amazon Praimeにて鑑賞。新日本プロレス創立50周年を記念して、撮影されたプロレスラー、実業家、政治家として多くの伝説を残したアントニオ猪木の実像に迫るセミ・ドキュメンタリー映画。

いやー、これが実に面白かった。自分はGREEで公言してきたが猪木派ではない。むしろ、アンチ猪木である。その自分が薦めるのだから、かなりよく出来たドキュメンタリーだと思って頂きたいし、猪木が残してきた数々の名言、言葉を切り口として、幼少期過ごしたブラジル時代から、レスラーとして活躍した70年代から90年代、政治家として活躍したそれ以降を様々な角度からの掘り下げができており、ナレーションをあの福山雅治が担当していることにも注目。
 
アンチ猪木派というのは猪木信者より、冷静に猪木の生涯を見れる。80年代、プロレスが第二次黄金時代を迎え大ブームだった頃、タブロイド判で販売されていた週刊ファイトというプロレス誌があった。そこの名物編集長だった井上義啓という人は毎週コラムで猪木のことを書いていた。これが実に面白くて、楽しみにしていた。その理由は猪木の試合だけではなく、彼が失敗した事業であるアントンハイセルのこと、それに関わる新日本プロレスの疑惑など、その内容が多岐に渡っていたからだ。

話が逸れたので本作に戻すと、本作の面白さはドキュメンタリーとしての構成の妙にある。ブラジル時代の出発点、一つだけ不満なのはに日テレに協力してもらい、日本プロレス時代も入れて欲しかったが、この映画では猪木が日プロ追放、大田区体育館での新日本プロレス創立から晩年までを数々の分野の方にインタビューしている。現在、新日本プロレスで社長に就任した棚橋弘至にはお笑いタレントで猪木信者の有田哲平を伴わせ、野毛の道場で様々な経緯を聞いたり、現役最強と言われるオカダ・カズチカに対するインタビュー、彼が頭で描く対猪木戦の話しは楽しい。また、猪木を素人の時代から撮影し続けたというカメラマン原悦生には役者の安田顕が対談し、イラクでの人質開放のエピソードなどを聞く。

この安田が演じる、2000年、猪木をリスペクトするある風景を描くミニドラマは80年、90年、と紡がれ、これが同一人物のドラマであることが最後にわかる。猪木対ビック・ヴァン・ベイダーの辻アナウンサーの実況と映像を絡めたドラマも実に感動的に仕上がっていた。

噺家神田伯山による。猪木とマサ斎藤による巌流島決戦の講談。猪木が腕を脱臼させたアクラム・ペールワンの子孫、アビット・ハルーンの話しなど内容はバラエティに富み、観る側を飽きさせない構成。

そして本作の中で一番重要なパートは猪木とともにプロレス世界を生きた弟子、藤波辰爾と藤原嘉明のインタビューだ。
特に藤波の話しにファンの方は刮目願いたい。[猪木さんは試合をしながら、いつでもカメラを意識していた、こんなレスラーはいませんよ]このエピソードが[徹子の部屋]で黒柳徹子相手に猪木自身が語っている、プロレスはスポーツではない、絶えずお客さんにどう映っているのか意識しなければならない。そうしたショウの要素を含んでいるから、他のスポーツとは違うのだと答えている。この猪木の言葉にこれこそが、プロレスという物の真実なのだと実感させられた。

さて、本作は数々のアントニオ猪木が繰り広げた闘いを少しずつ挟んでいる。ストロング小林戦、ビル・ロビンソン戦、タイガー・ジェット・シン戦、アンドレ・ザ・ジャイアント戦、アクラム・ペールワン戦、ビックヴァン・ベイダー戦等。本当のプロレスファンにはあまりにダイジェストが短く、不満かも知れないが、本作はプロレスではなくアントニオ猪木という人物を掘り下げるのが目的なので、自分としてはこの構成でいいと感じた。

ただ、もっと猪木派のメンバーだけでなく、長州力、前田日明、当時新日本プロレスの営業本部長だった新間寿氏、猪木の実況を担当した古館一郎氏、[私プロレスの味方です]を書いて猪木と深く関わった村松友視氏など、多くの人にインタビューを取って欲しかったとは感じたが、長くなり過ぎるを、避けるためでこれは贅沢な希望かもしれない。

棚橋と共にインタビューされた海野翔太のインタビューが猪木を知らない世代に時代が変わり、猪木のように怒りを表現しない理想のプロレス観、これを入れたことも時代の変遷を伝えるうえで良かった。

猪木は日本人頂上対決と呼ばれたストロング小林戦の後、これから次々に挑戦してきたらどうしたすか?という問いかけに猪木は[こんな闘いをしていたら10年もつ身体が1年でダメになるかもしれない。それでもお客様が喜んで頂ければいい、だから誰の挑戦でも受けます、中にて私が勝てない相手もいるかもしれない。例え負けても悔いはない]。

アントニオ猪木という人の人生はまさに、この時に回答したことを実践した人生だった。それは異種格闘技、政治。実業、絶えず挑戦をし続けた生涯だった。この映画はそれを改めて伝えてくれる作品であり、プロレスファンでない方にも是非、ご覧頂きたい作品だ。
い。