[一番美しく] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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黒澤明監督、脚本。譲治撮影。鈴木静一音楽。44年、映画配給社配給。

スカパー日本映画専門チャンネルの録画にて再観。
黒澤明長編第二作。勤労奉仕に従事する女子挺身隊をドキュメンタリータッチで描いた軍旗高揚映画である。
 女優たちに日本光学の寮に厳しい訓練の末に撮影に挑んだという。木下恵介はこの映画を絶賛、黒澤自身も自伝[蝦蟇の油]の中でこの映画を好きな作品にあげている。
 戦争映画を撮りたくない黒澤が女工の物語を選択し後に彼の妻になる矢口陽子を主人公渡辺ツルに抜擢して、リーダー格の女性の成長物語として纏めているあたり黒澤の上手さを感じさせる。それでも、検問官により三回も脚本を直してこのタイトルに決まったらしい。

兵器に搭載される光学機器を生産している東亜光学平塚製作所では、戦時非常態勢により生産の倍増を計画発令する。工場長石田五郎(志村喬)から、男子工員は通常の2倍、女子工員は1.5倍という目標数値が出されるが、女子組長の渡辺ツル(矢口陽子)を筆頭とする女子工員たちは、男子の半分ではなく2/3を目標にしてくれと懇願、受け入れられる。奮発する女子たちだが目標達成は生易しくはなく、一時的に上昇した生産高は疲労や怪我、苛立ちから来る仲違いなどにより下降する。しかし、女子工員達の寮母水島(入江たか子)や工場の上司たちの暖かい協力、そして種々の問題を試行錯誤しながら解決し、さらに結束を強めた彼女たちの懸命な努力は再び報われ始めるが…。

    ふたりが離脱して生産量が低下、黒澤はそれをグラフで観ている者に提示。渡辺はいつも熱がある山口(山口シズ子)のことを考え、熱があることを寮母に隠す。それは後に仲違いを生み、それを渡辺に報告、解決させようとして、検査ミスの部品が発覚、渡辺は深夜まで働くことになる。しかも彼女は父から母の危篤を伝えられるが、帰ろうとして諦め仕事に従事する。兵隊が戦っている時に、休んではいられないと強気に工場に戻っていく。こんな形でし軍旗高揚を入れなければならない、戦争という制約の中、黒澤は精一杯の女工たちの心理を汲み取り、自己表現をしている作品だ。